9-2 城壁の街の危機、ジョンの決意
「何事もなくてよかったメェ」
馬車は問題なく街に続く舗装された道を進んでいた。
ヴィタリーはわざとらしく倒れ込み、
疲れた様子を見せつける。
「ホントだよ……。
げんばしゅぎ、だっけ?も
ほどほどにしてくれ。俺も警備も疲れる」
「あとはお祭りのやり直しデスね」
「うむ、そこはシームリャが進めてくれてると思うし、
街のみんなもまだご利益をもらってないからな。
なにも言わなくてもやってくれてると思うメェ」
「みんなご利益目当てって……。
いいんデスか?」
「いいんだメェ。
前にも似たようなことを話したが、
ひとは神様のためにいるんじゃなくて、
神様はひとのためいる。
ひとが欲してるから神様もいるんだメェ」
「じゃあ、神サマが必要とされなくなったら
いなくなってしまうんデスか?」
「多分それはないメェ。
メーは最初から必要とされて、
神に転生したんだメェ」
神様はそう言ってヴィタリーの方を見た。
ヴィタリーは見られる前にぷいっとそっぽを向いている。
「正面に人影!」
神様を乗せる馬車の前を進んでいた馬車から
大声が聞こえ急停止。
馬車が大きく揺れて、
神様が盛大に前にずっこけた。
「なんだ、馬車の道を歩くとは危ないな!
そのために車道と歩道を分けてるのに、
そんなことも分からないメェ!?」
心配する前に神様が立ち上がって大声で文句を言った。
すると前の馬車から慌てた様子の男性がやってきて、
「怪我人のようです。神様いかが――」
「保護せよ!
大きめのこっちの馬車につれてくるメェ!」
神様の食い気味の指示は前の馬車にも聞こえていたようだ。
護衛の男性たちが怪我人を担ぎ込んでくる。
男性はジョンと同じ金髪碧眼、
高い鼻が目立つ。
格好は動きやすい革の鎧を着込んでいるが、
足や腕に食いちぎられた跡がある。
さらに喉も引っ掻かれたあとがあり、
複数の傷口からかなり血を流していた。
あまりの様子にジョンは目をそらした。
それからすぐに後ろの馬車から魔術師が駆け込んでくる。
治癒魔術の組まれた包帯を巻きながら緊急治療の魔術の詠唱を始めた。
「なにがあったメェ!? 答えられるか?」
「へ、ヘルプ……。ウルフ……ゴウ」
(助けて?)
かすかに聞こえた言葉に
ジョンは怪我人を見ようとした。
だが、赤い肉が見え、
さらにうっすら骨も見えるような
傷口の開き方もしているのが目に止まってしまい、
また目をそらす。
「な、なんだメェ? うわ言なのか?」
「神様、先程から言葉が通じなくて」
「メェ!? なんだそれ!?」
報告を聞いて神様は思わず大声を上げた。
「聞いたことのない言葉なので、
なにがあったのか聞き取れず、どうしましょう?」
「ヴィタリー……」
「いや、俺も分からんって」
誰もがどうすればいいか分からず、
眉をひそめてお互いの顔を見ていた。
「ぼ、ボクが話してみまショウか?
分かる言葉ならいいんデスけど」
ジョンは空気を入れ替えるように手を上げた。
すると神様やヴィタリーが場所を開けて、
任せてくれると言いたげな目で見てくれている。
怪我人に近づき、
耳を澄ませてうわ言のような声を聞く。
「アーングリア語デス。会話できマス」
ジョンが言うと、馬車の中から歓声が上がった。
「おお!」「頼む」
そしてすぐに静まり、
ジョンが会話を始める。すると、
「なっ!?」
男性の小さく消えそうな言葉を聞いて、
ジョンは目を見開き声を上げた。
「どうした!?」
「ボクのいた街、
城壁の街に獣の群れが向かってるから
早く伝えないとって……」
「大変だメェ!?」
「ここからなら近いのか?」
「人間の足で走れないこともないデスが、結構ありマス」
「報告、西の方より獣の群れがこちらに向かってます」
さらに警備の男性から慌てた声が上がった。
そしてすぐに報告は
真実であることを照明するように遠吠えが聞こえてくる。
怪我人は顔をさらに引きつらせてジョンに言う。
「彼を襲った群れのようデス……。
最初は馬で街に戻り状況を伝えるつもりデシタが、
馬が食われてさらに自身も怪我を。
馬が食われてるスキに逃げて、僕たちに見つけてもらったと、言ってマス」
ジョンは言われた直後からイポーニア語に翻訳して情報を伝えた。
馬車の中に緊張が走る。残された時間がないことを全員が理解して顔を合わせた。
「どうする? 逃げるか?
それとも馬車を城壁の街の方へ向けるか?」
「整備されてない道なので狼のほうが早いです。
馬だけ走らせても同じ」
「メェエエエええええええ!
街への道を整備しておけばこんなことにならなかったメェ!」
「遺跡で観光客増やそうとしたのは神様だろ!」
「ここで獣を食い止めれば……」
「他の群れもいるかもしれない、
大至急彼の街にそれを伝える必要がある」
「だが言葉が違う、
だから警備隊の誰かが行っても危機を伝えられない」
馬車の中で様々な声が上がった。
ここで獣の群れに応戦すれば城壁の街に危機を伝えられない。
かといって城壁の街に向かえば街を襲う群れに、
この群れが加わり大混乱が起こるかもしれない。
それにこの馬車で向かったら
敵と見なされて攻撃されることも考えられる。
この状況をすべてどうにかするには……。
ジョンはそこまで考えると両腕を強く握り、
「ボクが城壁の街に行きマス!」
また大きく宣言した。
「ジョン!?」「お前がひとりでか?」
「ボクはアーングリア語も話せて、
見た目も彼と同じ種族だとすぐに分かりマス。
デスから、ボクが行けば城壁の街に危機を伝えられるはずデス」
「だがジョンは戦えない。
襲われたらひとたまりもないぞ」
「なら、メェが囮になればいい」
「なんだと!?」
いままで聞いたことのないような
大声をヴィタリーは出した。
「夜に群れが来たとき、
メーが狙われた。
だからメーなら獣を惹きつけられる」
「そんなやりかた許せるか!」
「メーは、ヴィタリーとメーたちのような目に合うひとを減らしたくて
神になることを決意した!
だからメーの力でどうにかなるならどうにかしたいんだメェ!」
それを言われてヴィタリーは首を引いた。
これしかないと分かっているが、
神様を危険に晒したくない。
もし守りきれなければ神様はまた獣に襲われて食い殺される。
ヴィタリーはそう考えているのだろう。
「ヴィタリー、メーを信じてほしい。
君の神を、君の家族を」
「……分かったよ」
目をつぶってうなずいた。
「警備隊のみんな、お願いするメェ」
「おうよ!」「任せろ」
「討伐数を稼ぐぜ」「アンドレの討伐数を超えてやるか」
警備からはまったく嫌がる声が上がらず、
むしろ皆この状況に闘志を燃やしているようなことを言い始めた。
言葉が違えどその様子は怪我人にも伝わったのか、
ボソボソとなにかをこちらに言っている。
「なんて言ってるメェ?」
「自分の故郷をよろしくおねがいしマス、だそうデス」
「ジョン『メーに任せるメェ』って伝えて」
「はい」
#
馬車を飛び降りると方角を確認。
整備された道を真っ直ぐ走ればいい。
太陽の方角も確認し、ジョンはひとりでうなずいた。
「本当に大丈夫メェ?」
「はい。ボクはヴィタリーサンほど早く走れません。
デスけど、ひとにはやらないといけないことがあって、
それから逃げられないってシームリャサンが言ってマシタ。
多分それが今なんデス。神サマこそお気をつけて」
「神様のことは俺らに任せろ。
ジョンは自分のことだけ考えて街まで走れ!」
ヴィタリーはジョンの背中を叩いくと、
ジョンは思いっきり走り出した。
「ジョン! メーたちは街で待ってる!
夜には必ず来るんだぞ!」
神様の大声にジョンは振り向いて手を振って、
それからまた走りだした。
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