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7-1 古代文明遺跡と古代言語が読めるジョン

「ジョン、ちょっと変わった仕事に行くんだが、ついてくるか?」

「変わった仕事?」

朝ちゃんと部屋まで迎えに来てくれた神様の質問に、

ジョンは首を傾げた。

「その仕事、

 本当に街のためになるのか怪しいけどな」


ヴィタリーはあくびの演技をして

嫌がる様子を見せつけてきた。

先日もこんなことを言ってたことを聞く前に、

「なるメェ!

 なんと言っても街の新しい観光名所になるんだメェ」

と神様は廊下に反論を響かせた。

当然すれ違う職員たちは誰も気に留めない。

「どんな場所デスか?

 前に見せてもらった博物館と関係ありマス?」

「ある!

 博物館に飾れそうな古代文明の遺跡を調べるメェ!」

「おおー」


ジョンはワクワクするような、

知的好奇心が刺激されるような気分になり声を上げた。

幼い頃から創作や昔話を見聞きしてきたジョンからすれば

興味を持たないわけがない。

神様もジョンの反応を見てフフンと鼻を鳴らす。

「それでひとが来るのか俺には分からんが、

 神様は向こう街への道作りより気合入れちゃってるんだよぁ。

 あっちはあっちで最初は気合入ってたのに

 いざ工事が始まると定期視察以外見なくなったし」

「そんなことないメェ。

 あの道ができれば

 まだ話し合いもしたことない街への文字通りの橋渡しになるメェ。

 そうしたら新しい事業とか、

 おいしいものや面白いものが手に入るかもしれないメェ」

「その街、言葉が通じないって噂なんだが?」

「それはまたそのときに考えるメェ。

 今は古代遺跡の調査だメェ」

ジョンはふと足を止めて考える。


(言葉の通じない街、作りかけの道。

 確か工事中の場所をこの街に来るとき見かけて、

 それからキレイな道を歩いてたらここについたような……)

「だからその調査にジョンも来るメェ」

いつの間にか自分たちを追い抜いた神様は

クルっとこちらを振り向いて、ジョンを誘った。

「あ、はい、行きマス。

 行かせてください!」

ジョンは思わず大きく頭を下げた。

別にこんなことをしなくてもいい。

神様の街でお世話になって覚えているのだが、

とっさに反応すると大げさな動きが出てしまうようだ。

頭を下げてからそれに気がつく。


「うむ、素直なのはいいぞ~」

神様が嬉しそうな足音をたててこちらに近づいてきた。

なんだか頭をあげられずにいると、

神様の小さな手がジョンの頭を撫でる。

とても優しい。

ヴィタリーのため、

街のひとたちのために働く神様。

そんな簡単な紹介だけでも優しい神様であることは分かるのだが、

こうして優しくされるとよりよく分かる。

この小さくて細い手から元気をもらえるような気がして、

ジョンは下げた頭をまったくあげられずにいた。

(今、ボクはどういう顔をしているんデショウ)

そんな疑問は浮かんだ。

だが、それ以上にもっとこうされたい。

神様に撫でられたい、優しくされたい、

そんな気持ちが沸き上がってくる。


「ったく、かわいがれる相手ができたからって

 調子がいいんだからなー」

「ん~、ヴィタリー、

 嫉妬してるのかメェ?」

ヴィタリーの不満げな声を聞いて、

神様はニヨニヨしながらそちらに戻っていった。

ようやくそこでジョンは動けるようになってふたりを追う。

「うっさい」

またもヴィタリーは顔をそらして不満を口にした。



神様たちを乗せた馬車は街を出て、

整備された道を走っていた。

後ろには護衛の警備隊員、魔術師たち、

道具などを乗せた馬車があとを付いてくる。

ジョンはそれを楽しそうに見つめていると、

「まったく、

 祭りの前なのにこんなことしてていいんだかな」

まだ納得ができないのか、

それとも先程のやりとりに苛立っているのか、

ヴィタリーは頬杖をついて不満そうに顔をしかめていた。


「祭りは祭りで

 ちゃんと準備が進んでるからいいんだメェ」

「シームリャさんに運営丸投げでな」

「毎年やってることなんだから

 今更メーが指揮する必要もないメェ。

 偉いひとがだらしなく見えると、

 部下がガンバってくれるようになるって

 話が昔からある。

 だからメーもそうして優秀な部下に働いてもらうようにしてるんだメェ」

「その理屈でいくと、

 俺が苦労することになるんだが?」

「あ、あはは……ところで、

 神サマはどうして遺跡を見つけたんデショウ?」

ヴィタリーの目が怖くなる前に

ジョンは話をそらそうと話題を振った。


「道を作る工事の下見の最中に見つけた遺跡だメェ。

 あまりひとの通ることのなかった場所だったみたいで、

 あるってことは誰も聞いたことがなかったみたいメェ」

「でもいっしょに考古学者みたいなひとは来ないんデスね」

「うちの街にはいないからな。

 他の街で雇おうにも見てくれそうなひとがいなかったメェ。

 だから博物館を作って、

 考古学者とかにも来てもらおうという寸法だメェ」

「そううまくいくかねぇ」

「または、

 ジョンが考古学者になってくれれば、早いメェ」

「ぼ、ボクはそんな大層なことは……。

 この調査だって興味本位デスし」

「その興味が大事なんだメェ。

 好奇心こそ大きな仕事のきっかけになるメェ」

「神様からすればなんでも金づるになるから気にするな。

 っていうか警戒するくらいの気持ちでいたほうがいいぞ」

ヴィタリーが文句を言うと馬車がガタガタと揺れだした。

ここから先は舗装された道ではないようだ。

さらにヴィタリーは口を尖らせる。


「ほら工事がいい加減だから道が凸凹だ」

「ここは最初から工事の予定がない場所メェ。

 遺跡を本格的に調査することになったら、

 工事しないこともないけど」

「そのお金はどこから出すんだ?」

「もちろん、博物館で儲かったお金だメェ」

「タヌキの買い物かよ」

「『取らぬ狸の皮算用』デスね。

 ヴィタリーサンもよく知ってるじゃないデスか」

「うろ覚えでメーには全然分からなかったけどメェ」

「うっさい」



「古代遺跡特有の四角い建物が見えますね」

道を外れて数分走るとそんな建物が見えてきた。

一部は風化して天井が抜けていたりするが、

どれもこれも四角く、

砂をすごい技術で固めたような素材で作られている。

当然砂をどうやって固めているのかは分かっていない。

「古代人の建物は味気ないものばっかりだメェ。

 技術はすごいのに造形美みたいなものがないのは残念だメェ」

神様がうんちくを語りだし、

ヴィタリーが船を漕ぎ始めた頃、

馬車が止まった。

目の前には白く小さな建物。

扉はなくなっており、

入ってすぐ地下に通じる階段があることがすぐに分かる。


「ここはなんの施設か分かってるんですか?」

「多分モンスターとか生物の研究所だってことは分かってるメェ。

 でもそれにしては本がまったく出てこなくて、

 わからないことだらけだメェ」

「古代人は本を読まないんデショウか」

「あるいは本や紙ではないなにかで

 情報を管理していたのかもしれないメェ」

「どうやってだ?」

「それが分かったら誰も苦労しないメェ」

階段を降りていくと薄暗い廊下が伸びていた。

壁はドアなのか模様なのか、

魔術のために刻まれた印文なのか分からない絵が伸びている。

唯一読めたのはアーングリア語で『出口』と書かれた案内だけだ。

瓦礫に引っからないよう足元に注意して歩いていると、

崩れた壁とは違うものが落ちていることに気がつく。


「足元にいっぱい落ちてるのは、

 石版デショウか?

 ツルツルってことは鏡?」

一枚拾って見てみた。

大きさは手のひらサイズ。

ちょうど収まりがよく持ちやすい。

左右にはボタンのような物がついていたり、

ものに寄っては紐がついていたりするものもある。

「多分石版だと思うんだけど、

 それにしては文字がまったく書かれてないメェ。

 まったく後世に優しくない遺跡だメェ」

「多分遺跡を作ったひとは、

 後世のことなんて考えてないと思うけどな」

ジョンは一応壊さないようそっと元の場所に戻し、

神様の後を追った。


「っていうか神サマが自ら入るんデスね」

「中は安全であることは調べてある。

 こうして護衛も付いてるし、

 そうじゃなかったら俺が力ずくでも反対してたさ」

「ヴィタリーサンは今もイヤそうデスね」

「神様がまた忙しそうなことを始めてるからな。

 そうでなくても街は大きくなる一方だし、

 そろそろ祭りも控えてるのにこんなことしてるし」

「常に街の発展を考えないでどうするメェ!」

「声が響くから大声をだすな」

そんなやり取りをして

警備の男性に笑われている間に行き止まりについた。

神様はそれを見て目を細める。


「ドアっぽいけど入れない……。

 ドアノブもついてないしどうやって開けるメェ」

「それが分かったら最初の調査の段階で開けられたんだが?」

ヴィタリーの嫌味にムッとした神様は周囲を調べ始めた。

ホコリを払ってむせたが、何かを見つける。

「古代イポーニア文字だメェ」

壁のホコリがなくなると、

四角い模様とともに記号のようなものが出てきた。

「相変わらず読めない形してるな……」

「『魔術室、許可なきもの立ち入りを禁ず』って書かれてマスね」

「ジョンお前!

 古代イポーニア語が読めるメェ!?」

神様がジョンに抱きつくような勢いで近づいてきた。

神様のつぶらなひとみと、

白くて透き通る肌、

丸く愛らしい顔が近づいてきて、

ジョンは思わず顔をそらす。


「あ、はい、少しだけなら」

「少しって、

 その割にはスラスラ読んだじゃねーか」

「えっと、古い本とか古代の絵画とかを

 見ていたって話はしマシタよね?

 それを読んでたらイポーニア語とか古代イポーニア語を覚えちゃって」

「そこで気がつけばよかったメェ。

 古い本なんてそうそう読めるもんじゃないって」

神様はジョンから離れて今度は大げさに頭を抱えた。

それからすぐにパッと顔を上げて、

「ジョン、考古学者向いてるメェ」

「考古学者になって飯が食えるか?」

「博物館が儲かれば

 その運営費としてジョンに給与が払えるメェ」

「儲からなかったらジョンはまた飯屋で支払いに困るぞ」

「それはこの遺跡の調査にかかってるメェ!

 だからヴィタリーも真面目にやるメェ!」

「はいはい」

ヴィタリーはだるそうに落ちていた石版のようなものを拾った。

不機嫌な顔が映っている。


「えっと、こんなのが落ちてマス。

 アーングリア語で『カードキー』って書かれてますけど、

 札が鍵なんデショウか?」

「どんな仕組みで鍵をかけるメェ?」

「鍵で機械に触ったら動くんじゃないか?」

「こうでしょうか」

するとピピッっという奇妙な音がして、

扉が開き始めた。

警備の男性が慌ててドアの前に立ち、

なにかが出てこないか警戒をする。

扉が完全に開く前に、

ガタガタとドアが奇妙な音を立てて止まった。

「すごいメェ。

 手で開けなくても扉が開いた。

 ヴィタリーでかしたメェ!」

「適当なことでも言うもんじゃないな」

「なんで残念そうなんデスか?」

「早く帰りたいからだ」

警備の男性が先に入り中に危険がないことを確認。

それから神様たちも足を踏み入れる。


「なんの機械だ?」

「ガラスの向こうに魔法陣があるメェ」

「だがガラスの向こうには入れないぞ。

 それにむちゃくちゃ硬い……壊せそうです?」

ヴィタリーが警備の男性に聞くが首を振った。

「あ、ここボタンがありマス。

 アーングリア語で『オープン』って」

「おお、やっぱりジョンを連れてきて正解だったメェ!」

「そのせいでジョンのまともな仕事探しが遅れてるけどな」

「神様のおかげで今生活できてますので……大丈夫デス」

ジョンが恐縮気味に言うとガラスのドアは不思議な音を立てて開く。


「おおー、

 これだけでこんなに頑丈そうなガラスのドアが開くとは!

 古代文明すごいメェ」

早速中に入ろうとする神様の肩を

ヴィタリーが強引に掴んで止め、

「中は安全か?

 罠とかないか?」

目を細め警戒。

というより怖がっているような目でドアの向こうを覗き込む。

「ここから見ても分かる。

 あれは獣とかモンスターよけの魔法陣メェ」

「街に張ってあるのと同じか?」

聞きながらヴィタリーは手を離した。

神様はヴィタリーの行動には何も言わず解説を続ける。


「それより小さいのにとても強いメェ。

 多分街の龍脈じゃ維持できないし、

 術式も面倒、

 それに誰かがずっと立ってないと発動しない。

 メーの街では即不採用の魔術メェ」

「うちのは決まった時間に見に来ればいいもんな」

「でも誰もいないのに効果を発揮してる。不思議だメェ」

「多分ここの機械から操作するのデハ?」

ジョンの目線の先には仕組みのわからない機械と、

小さな魔法陣。神様が小さな手で適当に触りだす。


「おおっ!

 動き出したメェ。

 魔力があるものが触ると動くようになってたメェ。

 でも他に書いてある文字が読めなくて仕様が分からない……」

「読めるか?」

「えっと、モンスターよけの出力を調整できるみたいデスね。

 魔力がどこから来てるのかわかりマセンが」

「じゃあこれをいっぱいにすれば獣がどっかに行くってことか!

 もっとやるメェ!」

「ここのつまみを時計回りにすればいいデス」

神様はそれを聞くなり遠慮なくつまみを動かした。

獣避けの魔術は最大出力で効果を発揮し始めたのが

表示されている文字で分かる。


「これがあれば結界いらずだメェ」

「そうしたら魔術師が稼げなくなるんじゃないか?」

「魔術師の仕事は結界だけじゃないメェ。

 魔法陣の効果範囲がどれくらいか祭りが終わったら調べさせるメェ!」

「ようやく終わりか……。

 気を張ってて疲れた」

「いいや、まだ調べることはあるメェ」

ヴィタリーは大きなため息をついた。

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とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


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