6-2 男たちは狩りとかけっこ、神様はえっち肯定
神様が満足してから一同は街に戻ってきた。
それから警備隊の詰め所に顔を出し、
そのまま警備隊の馬車に乗り換えて狩りに同行することになる。
「よっしゃいくぞー!」
獲物を見つけると
アンドレは我先にと馬車から降りた。
大きな剣を片手に獣の群れへと向かっていく。
「アンドレサン、気合入ってますね。
いつもあんな感じなんですか?」
「いいや、今日はシームリャさんが見てるからだろう」
馬車に獣たちが近づかないよう、
結界を展開しているシームリャにチラリと目を向けた。
シームリャは仕事だけでなく
魔術も優秀だということが分かる。
前に魔力と知恵はA、
器用さ黄金律はBという
優秀なパラメータをしていると聞いたことがあるが、
それも納得だ。
さらに術を展開しつつも、
いつもどおりの優しい横顔を見せられる。
それほど余裕があるということも、
優秀さが分かる要素だとジョンは感じた。
「なるほど……。
お嫁サン募集中ってそういうことなんデスね」
「そうそう。
アンドレはおっぱい大きな女が好きだからメェ」
子供のように羊と遊び回ったにも関わらず、
神様は元気な声でヴィタリーとジョンの話に割って入ってきた。
「か、神サマそういう話は、しないほうが」
神様が無遠慮に口にした単語に、
ジョンは顔を赤くしてうつむいた。
「なんだメェ、
えっちな話をしてはいけないとな!」
「神サマとはいえ、
淑女としては……。
この考えは多分街とか地方とか関係ないデスし」
「えっちしないと子供ができないメェ!
子供ができないってことは経済に影響がでる!
だからえっちを否定してはいけないメェ!」
「こ、古代の絵画には
『えっちなことはいけないと思います』
なんて書かれてマシタけど」
「そんなことだから古代文明は滅んだんだメェ!
えっちなことは生き物として当然!
だから嫁さんがほしい、婿がほしい、
えっちがしたいは大歓迎だメェ!」
「ゔぃ、ヴィタリーサンもなにか言ったほうが」
「言わせておけ」
ヴィタリーはさっきからそっぽを向いており、
こちらを向かずにそう言った。
ジョンから見てかすかに頬が赤いので、
もしかしたらヴィタリーも同意見なのかもしれない。
だがなにを言っても聞きはしないと思っているようにも見えた。
「だからメーは、
えっちなお店を作って欲しいって意見も
ちゃんと取り入れた。
反対もされたが、ちゃんと決まり事を作って、
守らないヤツは罰を受けるようにした。
えっちなことは経済発展いや、
生き物にとって重要なことなんだメェ!」
「分かりマシタが――」
「……ずいぶんとにぎやかですが、
なんのお話を?」
神様が力説を続ける中、
シームリャがやってきた。
いつもどおり穏やかな笑顔で馬車の中を覗き込む。
あまりの間の悪さに、ジョンはシームリャの顔を直視できず、
「えっと……」
もごもご口ごもるだけだった。
「えっちと子作りをメーの街では歓迎だって話だメェ」
「ち、違います。
アンドレサンはお嫁サンを募集中だって話デス!」
神様が世間話でもしていたように
ケロっとした声で言うので、
ジョンはバタバタと手を振って慌てて訂正した。
「存じています。
よいお嫁さんが見つかるといいですね」
シームリャはそれで納得したのか、
愛らしい動きでコクコクとうなずいた。
「それでシームリャはどうしたメェ?」
「周辺の群れを追い払ったので
次の場所に向かうそうです」
「うむ、順調なようだな。
今度こそ寝やすい夜になるといいメェ」
神様は両腕を組んで満足気に言った。
それでもヴィタリーもジョンも
そっぽを向いたまま反応できずにいる。
#
日が落ち始める頃には
荷馬車に多くの成果が乗っていた。
あまりにも多く狩れたため、
神様たちの馬車にも獲物を入れた布袋が
置かれている。
ある程度血抜きなどをしているので匂いはしない。
だがとある理由で馬車は少し狭いと感じていた。
「ジョン、体力がついたなぁ」
神様のふとそんなことをつぶやいた。
「そうでしょうか?」
自覚していなかったことを言われて、
ジョンは首をかしげて聞き返した。
「街に来た頃だったら
あっちこっち行ってすぐ疲れてただろう?
今は余裕があるように見えるメェ」
「言われてみれば……そうかもしれません」
「少年、体力があることに越したことはない。
それに足が速いヤツはモテるぞ」
荷物が多いことを理由に、
神様たちの馬車に乗ってきたアンドレが偉そうに言った。
このアンドレのせいで馬車は狭い。
そう感じているヴィタリーは、
ムッとあからさまに不機嫌そうな顔を見せて、
アンドレの言葉に反論する。
「ホントかよ。
それだったら今頃俺は美女に囲まれてるはずなんだが?」
「メーがいるじゃないか!」
「神様はひとじゃないだろ」
「シームリャもいるメェ」
「そう!
それが羨ましいんだよ!」
狭い馬車の中、
そんなにでかい声を出さなくても
聞こえると言いたくなるような、
音量で言われた。
涼しげにアンドレの話を聞いているのは
シームリャくらい。
手綱を引く男も、
アンドレがうるさいとしかめた顔だけ向けて伝えてくるが、
当然アンドレ本人には伝わらない。
「仕事の間ずっといっしょにいるわけじゃない。
むさ苦しいから近寄るなアンドレ!」
「ふふっ、
わたくしは美人というわけでもないですよ」
「いえいえ、
シームリャさんが美人でなければ、
美人という言葉が変わってしまいます」
「女性に好意を抱いてもらえるかはともかく。
ボクも体力がついて
体が鍛えられてたらいいなって思います」
「ジョンは地頭がいいから、
運動も効率よくできるようになるメェ。
そうしたら普段運動なんてしてなさそうな
ヴィタリーなんてすぐに追い抜いてしまいそうだメェ」
神様がケタケタ笑いながら言うと、
ヴィタリーはさらに力の入った顔つきになった。
すると突然ヴィタリーが自慢げな表情でジョンに顔を向ける。
「やってみるか?
俺と競争」
「ヴィタリーは足が速いことが自慢なんだメェ。
一度いっしょにやってみるメェ」
「はい」
楽しそうだと思ったジョンはうなずいた。
「じゃあここから街の入口までだな。
降りるから少し止めてくれ」
ヴィタリーがやる気になって手綱を握る男に言った。
ゆっくりと馬車は速度を落としていく。
「少年!
神官の坊主はああ見えて足速いぞ」
「昔から兄弟で一番早かったうえに今も鍛えてるからな」
「うん?
いつそんなことをしてるメェ?」
「あ~、いや、そんなことはいい!
やるぞジョン」
ヴィタリーは外に遊びに行く子供のような声で言って、
馬車を飛び降りた。
ジョンもゆっくりと降りて後に続く。
「では僭越ながら、
わたくしが号令を」
シームリャもいつもよりも口元を緩ませ、
楽しそうに言いながら馬車を降りた。
ふたりの前に健康的な腕を出す。
「よーい、どん!」
号令とともにヴィタリーとジョンは走り出した。
「なんでドンなんだメェ?」
「なんででしょうかね。
昔からそんなふうに言われてます。
一説では昔もこうして運動競技で競い合う大会をしており、
そのときの合図に
大きな音の出る機械を使ってたからとか言われていますね」
「昔のやつはなんでもかんでも
機械で済まそうとするのメェ」
神様は呆れたような顔を見せつつ、
街に向かってかけていくふたりの男の子を見つめていた。
#
シームリャの合図で走り出すとすぐに分かる。
(ヴィタリーサン、早い)
その距離はあっという間に離れていった。
ヴィタリーの背中を見失わないように走るので精一杯だ。
もっと長い距離を走ることになったら、
背中を見ることもできなくなるだろう。
確かに獣やモンスターよりも足が速いと言うのは嘘ではないようだ。
もし自分がヴィタリーのように襲われてしまったら、
あっという間に食い殺されてしまうと感じる。
願わくばそうならないように祈りつつ、
街の門までたどり着いた。
「ゔぃ、ヴィタリーサン早い……」
「だろう?
足の速さだけなら警備隊の誰よりも早いぜ」
草むらに座り込むヴィタリーが答えた。
ジョンはその場に座り込み、
さらに両手を広げて倒れる。
するとすぐに馬車が追いつく。
アンドレも馬車から飛び降りて、
不服そうにヴィタリーを見下ろす。
「そこが悔しいんだよなぁ。
剣も武術も全然なのに足はいいんだから」
「おん?
アンドレ、ヴィタリーは剣も武術もやってないメェ」
神様が疑問をつぶやくのと同時に
ヴィタリーは肘でアンドレをどついた。
「あ~、そだったなぁ。
あっはっは」
(なんか隠してる?
そいえばシームリャサンもヴィタリーサンに対して
秘密にしているようなことがあるみたいな感じだったし)
「そ、それよりだ。
今日の狩りは獲物が多く取れすぎたし、
祭りの日じゃねーのに宴会になりそうだな。
ハッハッハ」
アンドレのわざとらしい高笑いを聞き流しながら、
改めて街に入ろうとする馬車を見つめた。
倒した獲物が入った布袋に、
街の警備をしていた男たちが群がり、
口々に飯を期待する声を上げる。
「でもこんなに調理してくれる料理人がいるかねぇ。
みんなめんどくさがりそうだから、
いろんな店に頼んで祭りの日に出してくれって頼むか?」
「いいや、
タダで調理をやってくれそうな困った料理人なら、
こころあたりがあるメェ」
神様はそう言いながらそのレストランの場所を伝えた。
#
「おやおや、随分と狩ってきましたね」
店先に出てきた
『タダで調理をやってくれそうな困った料理人』ことイーサが、
降ろされる布袋を見て、嬉しそうな声を出した。
「調理できるメェ?」
「はい。
全部今日食べきるのは難しいと思うので、
燻製にしてお祭りのときやその後にも出せるようにしましょうか」
イーサの頭の中にはすでに調理案があるようだ。
自らも袋の中身を確認し、
うなずいている。
「手間をかけるな」
ヴィタリーが気を使って声をかけた。
対してイーサは細い目のまま、
「料理好きなんで食材持ってきて
作れって言われるのは嬉しいですよ。
僕が自分で狩りに行こうかと思ってましたが、
また出番をとられてしまいましたね。
皆さんで厨房まで運んでもらえます?」
その声に男たちが威勢のいい声を上げた。
「うん、うん、
祭りの準備も順調だメェ。
なら明日は予定通りの仕事ができるメェ」
その様子を見て神様は腰に手を当て満足気にうなずいた。
「俺は反対なんだがな」
呆れたヴィタリーの様子を見て、
ジョンは首を傾げた。
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