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6-1 羊神様と羊たち

「また怖い遠吠えが聞こえたメェ!」

「それで神サマは

 またヴィタリーサンの部屋にいたんデスね……。

 二度目は驚きマセん」

朝、いつもどおり打ち合わせのために集まる。

今日も神様はジョンの部屋にやって来ず、

ジョンがヴィタリーの部屋にふたりを迎えに行った。


「ヴィタリーくんに甘える神様、

 かわいいかったでしょう?」

「はぁ……(ときどきシームリャサンが分からなくなる)」

昨晩シームリャに言われたとおりになったが、

シームリャが言いたいことは

いまいちよく分からなかった。

「こっちは死活問題だメェ!

 シームリャはメーの寝顔よりも

 メーの安眠を心配するメェ!」

「ふふっ、そうですね。

 でもヴィタリーくんのお部屋ではぐっすりでしたでしょう?」

「そんなことないメェ」

「ヴィタリーくん、どうでした?」

「さぁ。特に気にしてない」

「ではジョンくんはどんなふうに見えました?」

「とても、すやすや寝ていました。

 まるで童謡に登場する羊みたいでしたよ」

「ジョン! そんなこと言わなくていいメェ!」

神様に怒られたが、

ジョンは怖いとは思えず、

むしろ顔がにやけてしまうのをこらえていた。


(ああ、なるほど。こういうやりとりがみんな楽しいんだ)

 そう思ってにやけそうな顔を固めてると、

「今日は外回りだメェ。

 メーがこんなに怖いのだから、

 家畜たちにも被害があるかもしれないメェ!」

「報告は上がってませんが?」

シームリャはケロッと補佐官としての表情に戻り聞き返した。

「メーが実際に『聞いてみないと』分からないメェ」

「牧場まで行くのか」

「久しぶりにな。

 メーの街の名産だし、

 遠い場所の報告はどうしても来るのが遅くなるし、

 正確じゃないときも多いからメェ。

 ジョンもついてくるか?」

「はい、どんな場所か気になりマス」

「今日はシームリャもついてくるメェ」

「分かりました。馬車の手配をしますね」

シームリャはそう言って部屋を出ていった。


#


牧場は神殿から馬車で三十分ほどの場所にあった。

ここまで来ると街のにぎやかな音は聞こえなくなり、

代わりに風が木々をカサカサと揺らし、

羊や牛の鳴き声が聞こえてくる。

今日は澄み切った晴れ空。

離れた神殿や町並み、

地平線や牧場の様子もよく見えた。

ここまで街から離れていても、

馬車の通れる車道はしっかりと舗装されている。

おそらくはこれも神様が工事させたのだろう。

それに神様を送迎する高価な馬車は乗り心地がいい。

牧場に着いて馬車を止めると、

早速神様は柵の中へ入る。

牧場の管理人に話を聞かないのかとジョンは思ったが、

それはシームリャがやるようだ。

ジョンもとりあえず神様についていくことにした。

「おお、怖かったなぁ~。

 メーも怖かったぞ」

神様はまるで仲間と再会したかのように、

もふもふの羊たちに抱きついた。

羊たちも神様のことを怖がったりせず、

神様も同じ羊の仲間だと思っているように寄って来る。


「そうかそうか、

 こっちにはあまり寄って来なかったか。

 それはよかったメェ」

「神サマ、

 動物と話ができるんデスか?」

「羊神だからな!

 でも話ができるのは羊限定だメェ」

神様は誇るように平原のような胸を張った。

「ひとだけでなく羊の話もちゃんと聞くんですね」

「でなければ羊神に転生した意味がないからメェ」

さらに偉そうに鼻を鳴らした。

周囲の羊たちも神様の言うことが分かるのか、

同意の意思を表すようにメェメェと鳴く。


「牧羊犬と話ができたら便利なのにな」

ヴィタリーはあまりすごいとは思っていないような口ぶりでぼやいた。

「あいつら口悪いからイヤだメェ」

対して神様は口をとがらせてそっぽを向いた。

羊たちも同じように先程より激しい鳴き声で文句を言う。

「本当は他の動物とも話ができるのでは……?」

「俺もそう思う」

「できないし、したくないメェ!」

「さいですか」

「あっはい」

ヴィタリーとジョンは口を揃えて適当な答えを返した。


「とにかく羊をイライラさせすぎると

 羊毛に影響がでるメェ!

 メーの街で羊毛の出来が悪いとか許せない!」

「毛をかられるのはイヤなんじゃないんですか?」

「手入れしてもらわないと羊は病気になりやすくなる。

 ひとが髪を切るのと似たような感じだメェ」

「なるほど」

神様の例えにジョンは口を丸くしてうなずいた。


「羊の方は大丈夫そうですね」

牧場の管理人と話が終わったのか、

シームリャも柵の中に入ってきた。

「うむ、そっちはどうだメェ?」

「管理人の話では

 問題らしい問題はありませんね。

 魔物の侵入防止、

 獣避けなどどれもちゃんと機能しています」

「それにこっちには

 あまり近づいてこなかったと羊たちが言ってたメェ」

「なにかを探してるんでショウか?」

ジョンがふと思ったことをつぶやいてみた。


「飯を探してるなら牧場を襲うことを考えるだろう」

「あるいは群れが住処を追われたんでショウか?

 それで新しい住処を探してるとも考えられマス」

「なら『ここらへんにお前らの住む場所はない』と

 伝えてやらないといけないメェ」

「獣と話をするのか?

 イヤなんじゃないか?」

「イヤだメェ。

 それに多分話しかける前に襲われるから、

 警備隊のヤツらの力技で伝えるメェ。

 メーもあんなやつらと顔なんて合わせたくないメェ」

ヴィタリーの質問に神様は不機嫌そうに答えた。


「力技……。

 まあ話が通じないとしょうがないデスね」

「ちょうど午後から、

 警備隊のひとたちが

 祭りの食材集めに狩りをするそうですよ。

 獣狩りもしてほしいと伝えてみてはいかがでしょう」

「うむ、そうするメェ」

神様はシームリャの意見にうなずくが、

すぐには動こうとしなかった。

気になったジョンは、

「すぐに行かないんデスか?」

「もう少しこの子達といっしょにいたいメェ」

柵に手をかけて名残惜しそうな表情を見せた。

すると羊たちも神様に寄ってきて、

声をかけるように鳴き出す。ヴィタリーはそれを見てから口を開く。

「シームリャさん、時間はありますよね」

「はい、ここで昼食をいただいてから街の方に戻りましょう」


#


お昼はシームリャが用意してくれたサンドイッチだった。

それをさっさと食べてしまった神様は、

すぐに羊たちに混じって遊び回っていた。

シームリャはそんな神様の見守りをしており、

ヴィタリーとジョンは敷物の上で羊たちの様子を見ている。

「やっぱり羊の仲間たちといっしょにいたいんデショウか」

「多分な。

 自分で仕事を忙しくしなきゃ、

 たまに牧場に顔を出す時間を用意できるのにな」

「あるいは、

 羊の仲間たちに会いたいって、

 素直に言えないのかもしれマセン」


「なんだそれ」

ジョンの言葉が意外だったのか、

ヴィタリーは首を傾げてこちらを向いた。

少し驚いたような表情を見たジョンは少し口角を上げて、

「ヴィタリーサンといっしょですよ」

理由を聞いてヴィタリーは少し考えだした。

それからジョンの言いたいことを理解したのか、

顔を赤くして目をそらす。

「うっせ」

(自覚はあるんデスね)

これ以上笑うと怒られるのでジョンは表情を変えた。

そしてふと良いことを思いつく。


「なのでヴィタリーサンのほうから、

 仕事という名目で牧場に行くようにすればどうデショウ?

 神サマは街の様子を見るための時間も作ってるようなので、

 予定に組み込むのはそんなに難しくないと思いマスよ」

「ジョンお前、

 補佐官の仕事も向いてるんじゃねーの?」

「そんな、シームリャサンと比べたら

 僕なんて足元にも及ばないデスよ。

 それにおふたりのことをよく見てる。

 すごいひとデス」

ヴィタリーもジョンの言葉にうなずいた。

「でも神サマのお役に立てるなら、

 そういう仕事もいいかもしれマセんね」

そう話していると、

満足したのか決意の目をした神様が

大きな声で言いながら戻ってくる。

「よし、街に戻るメェ。

 この子達と話したら、

 よりやらなくちゃって思ってきたメェ」

良ければ評価、

続きが気になりましたらブクマ、

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とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


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