↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/29

5-1 仕事探しのジョンと、脳筋警備隊と料理だけしたいエルフ

次の日、まずは昨日獣対策した結果を

改めてみたいと神様は言った。

『おんせん』のことは後回しになってしまったようだ。

まずは警備隊に話を聞きに行く。

「おう神様!」

朝の巡回の前に詰め所にやってきた。

すると、隊長のアンドレを始めとする

むさ苦しいヤツらが今日もうるさい挨拶を返してくる。


「今日も相変わらず小さいな」

「うっさい!

 アンドレと同じことを言うなメェ」

「もっと居酒屋を増やしてくれ」

「十分多いだろ。

 はしごをするのをやめればいいメェ」

「神様、俺結婚できねぇんだが」

「知るか!」

「あ、はははは」

ここでも神様はからかわれているのを見て

ジョンは乾いた笑いを出した。

ヴィタリーは子供が遊んでいるのを見ているような目で、

「いつもこんなだから気にするな」


「んで 神様は用があってきたんだろう?」

「そうだメェ。獣の様子はどうだ?」

アンドレの言葉に、神様は気を取り直して用件を聞いた。

「昨日は全然見なかったな。

 話を聞いた狩猟団が、

 意識して狩って回ったらしいからそのせいもあるだろう」

「よかったメェ……今晩も安心して寝られる。

 っていうかヴィタリーはよくあんなに聞こえて寝られるメェ」

神様は心底安心したように胸をなでおろした。


(やっぱり転生したときのこと、

 ちゃんと覚えてるから怖いんだ……。

 でもヴィタリーサンは結構雑にあしらってるし、

 怖がってるのを分かってない?

 なんてことはないよねぇ。

 自分の部屋に神サマ入れていっしょに寝てるし……)

そんな神様の様子を見てジョンはやや心配そうな顔で見ていた。

「神様だからひとより耳が良く聞こえるんだろう?

 そりゃヒューマンの俺にも普通に聞こえるが、

 安全な街中でさらに一番安全な神殿にいるんだし、

 安心できるだろ」

ジョンの思ったとおりの反応をヴィタリーはした。

確かに街は強力な結界で覆われ、

強そうな警備隊がいて、

街自体が大きくて、

さらに神殿も大きく頑丈。

ジョンも獣の遠吠えは聞いているがあまり気にはならなかった。

それほどの安心感がある。

「確かにメーの聴覚が良すぎるのは確か。

 川の街の神様に相談してみるメェ……。

 って今日はメーのことを相談しにきたわけじゃないメェ」

わざとらしい咳払いをして、

「引き続き警備を頼むメェ。

 また増えてくるようだったら

 狩猟団にも伝えておいてほしいメェ」

「あいよ。だが見かけたら

 狩猟団のヤツらに言う前に俺たちでどうにかするがな!」

とアンドレは自慢げに、

うるさいほど力強く言った。

それに詰め所にいる警備隊員たちもガハハと同意の声を上げる。


「うるさいメェ」

「血の気の多いヤツを雇ったのは神様だからな」

神様もヴィタリーもそんな詰め所の様子に目を細めた。

ジョンはとりあえず苦笑いで返す。

「ところで彼が今仕事を探してるんだが、なにかないかな?」

「は、はいっ!」

急に話を振られて

ジョンは音がしそうな勢いで背筋を伸ばして返事をした。

「おっ、昨日の考古学者か」

「いえ……ただ仕事のないだけの男です」

覚えてくれててありがたいが、

変な覚え方をされていた。

二メートルを超えるアンドレにジョンは身を固くして言い直す。


「パラメータ見たら、

 この見た目で筋力Bとかあるのかい?

 それとも大魔術師級の魔力があるとかかい?」

「いえ……力仕事とか魔法仕事は向いてない、デス」

「ほら、ここでパラメータの鑑定結果を見せるんだ」

「あ、はい」

ヴィタリーに言われてジョンは

持っていたパラメータ鑑定の紙を見せる。

こうして自分の手を近づけてみるとアンドレの手は大きく毛深い。

「ふ~ん、すげーやつだな」

結果を見てお世辞のような言葉を目を丸くして言う。

他の隊員たちもその太い肩から覗き込み、口をとがらせたりした。


(やっぱり、驚くよね……。

 僕自身が驚いてまだ信じられてないし)

「だが俺様は筋力Aだ!

 他のパラメータは……忘れたが、

 少年よりは高くない!」

アンドレが自分の力を見せつけるように言って

ガハハと笑った。

ヴィタリーは呆れたようなため息をついて、

「こういうやつでも立派な仕事をしてる。

 だからジョンもいい仕事が見つかると思え」

励ますように言った。

それからアンドレは用紙を返して、

大きな口を開けたまま、

「むしろ俺に女を紹介してくれ!

 料理がうまくておっぱいの大きい女だ!」

「やっぱりアンドレに聞いたメーがバカだった」

わざと呆れた様子が伝わるように

神様はヤレヤレと肩をすくめた。


「他のヤツはどうだメェ?」

「仕事?

 俺の部屋で飯作ってくれたり、

 掃除してくれたりする美人を紹介してくれるか?」

「武器職人なら募集してるが」

「俺の訓練に付き合ってくれるか?

 夜の鐘の時間まで付き合ってくれるヤツがなかなかいなくてな」

神様は無言で大きなため息をついた。

「こんなヤツらを集めたのは神様だぞ」

「ヴィタリー、

 二度も同じことを言わなくていいメェ。

 ジョンも気にしなくていいメェよ」

「他のヤツに聞いてみよう。

 今日もまだ行くところはあるからな。

 ジョンも気を落とさなくていいぞ」

「だ、大丈夫です……。

 簡単に見つかるとは思ってマセンでしたし」

「みんな似たようなものだと思うがな!

 がっはっは!」

「もういいメェ。

 獣とかモンスターの動きになにかあったら報告してくれ……」

ヴィタリーも肩をすくめた。


#


獣避けの結界の確認で魔術師協会に顔をだしたり、

狩猟団と話をしたりしたが、

ジョンができそうな仕事は見つからなかった。

「皆さん魔力も知恵も器用さも高かったデス。

 黄金律だけ高いのでは仕事は見つからないのかもしれマセン」

ジョンはため息をついてからそうぼやいた。

「いや、計算ができて

 黄金律Aならほしいって思う店いっぱいいるだろう?」

「そうだメェ。

 この街はひとが多いから見つかりにくいのもあるメェ。

 あと意外とみんな黄金律の意味を分かってないってのもあるメェ」

ぼやいたジョンを神様とヴィタリーは励ました。

そんな三人がやってきたのは街の商店街。

食品や日用品の店や露店が並ぶ道だ。

町の住民のほとんどは夕飯などの買い物にここを利用している。


「でも、なによりもジョンが

『やりたい』

または『これは自分じゃないとできない』って

思うことが重要なんだメェ」

「見つかるデショウか?」

「絶対にある!

 自分やヴィタリーが信じられなくても、

 メーを信じるメェ」

「俺も信じさせろ」

神様とヴィタリーがいつもどおりの言い合いを始めた。

周囲のひとも目を向けるが、

本当にいつものことのように、

微笑ましい目で見たりしてるだけで誰も声をかけない。


「いつも元気だねぇ神様たちは」

「イーサじゃないか」

「よう」

そんなふたりに声をかけたのは

レストランを経営するエルフのイーサだった。

細い目が今日も笑っているように見えるが、

もしかしたら神様たちの騒がしさに

困惑しているのかもしれない。

ジョンはそんなふうに勝手に思ってしまう顔だ。

「おや、先日の」

「あのときはごめんなさい」

ジョンはなにか言われるのだと思ってとっさに謝った。

「いやいや、

 お互い神様に助けられたってことだから、

 君だけが謝ったりしなくてもいいんだよ。

 僕は料理をあんなにおいしく食べてもらうだけでも十分なんだけど、

 なにぶん神様はそれを許してくれないからね」


「良いものには良い報酬を。

 だからタダで食べさせるのは基本的にダメ。

 それにイーサの料金設定も安すぎるくらだメェ。

 イーサの飯はうまいんだからもっと料金を取るべきだメェ。

 だから安いごはん屋さんだと思われてて、

 お金持ちがやってこないんだメェ!」

「僕は料理を食べてもらえれば誰もいいから。

 お金稼ぎとか興味ないし……」

「メェ!」

「はいはい、

 神様今はイーサに文句言うよりやることあるだろ」

ヴィタリーが神様の頭をポンポンと叩いた。

撫でているのだろうか?

「メェ。彼が仕事を探してるんだが、なにかないかな?」

鳴き声のような声を出してイーサに聞く。

「これ、パラメータの鑑定の結果デス」

ジョンもとっさに結果の紙を渡す。

「おお、すごいね。

 神様本当にひとを見る目があるなぁ」

細い目を少し動かしてイーサは驚きの声を上げた。

「もっと褒めるメェ。

 だがイーサは知恵も器用さも黄金律も

 Aというすごいやつだ。

 そんなイーサを見つけたのもメーだ!」


「三つもA判定があるなんて……。

 やっぱりそれくらいないとダメなのかなぁ」

ジョンはがっくしと肩を落とした。

視線もイーサの細い足が見えるほど落ちていく。

「おい神様、

 ジョンが落ち込むようなこと言うな」

「メェ!?」

「いやいや、

 そんな僕も神様に見つけてもらうまでは、

 地元でダメエルフ扱いさ。

 なにせエルフで魔力Cは低すぎる。

 普通のエルフの仕事は難しかったわけ」

「そうなんですか……」

イーサの言葉にジョンは顔を上げた。


「そうそう。場所が変わればひとの評価も変わる。

 だからパラメータの判定になんて気にせずに、

 君のしたいことやできることを探すといいよ」

「はい。ありがとうございマス」

ジョンはようやく体の力を入れ直し、

礼を言うことができた。

「じゃあそんなジョンを、

 イーサのところでジョンを活かせないか?」

ヴィタリーがジョンをさらに持ち上げるように聞くが、

「でも、料理は僕ひとりでできちゃってるし、

 他の雑務ももう雇って足りてるんだよね」

「じゃあ、

 お客さんで人手が足りなくて困ってるとかそういう話は?」

「それもないかなぁ」


イーサの答えにジョンはまた肩を落とした。

丸まった背中を神様とヴィタリーが、

ポンポンと優しく叩いてくれる。

「まあ、せっかく出会ったんだし僕の店で昼食食べて、

 コーヒーでも飲んでいってよ。

 悩み事ってコーヒー飲んでると意外と解決したり、

 そのための糸口が見つかったりするもんだよ」

「メーはコーヒーが苦手だ……」

「そんな神様には甘いジュースをご用意しますよ」

イーサはにっかりと優しげな笑みを見せた。


#


「ごちそうさまでした」

「はい、今日もおいしそうに食べてくれてありがとう」

皆が食べ終わったところに、

ちょうど良くイーサが飲み物を持ってきてくれた。

ふたつはコーヒー、

もうひとつは甘そうな色をしたジュース。

「うむ、今日もうまかったメェ。

 だがもっと値段をあげても」

「はいはい。

 その話はまた今度だ」

神様とヴィタリーのやり取りを聞き流し、

ジョンは真っ黒な液体に映る自分の顔を見て、思い出した。


「悩み事にはコーヒーが良いって言ってマシタけど、

 イーササンもボクみたいに悩んでたりしてたんデスか?」

「うん、結構わがままな理由でね」

自分をバカにするような苦笑いをしてから、

イーサは語り始める。

「僕はね見ての通りエルフで、

 その村で狩りをして暮らしてたんだ。

 さっきも話したけど魔力が足りなくて、

 他のエルフらしい仕事はできなかったってのもあるけどね。

 だけど料理をするだけの生活がしたくって村を出てきたんだ。

 いろんな街を転々としたんだけど、

 料理だけをして生活ができる場所なんてないかと思っていたところに

 この街を見つけたんだ」

「イーサの料理は絶品でな、

 それを他の雑務で潰すのはもったいないって思ったんだメェ。

 だから料理に関わらない仕事は他の向いているひとに任せて、

 料理に専念できる環境を作ってやったんだ。

 そうしたら店は繁盛して、

 この辺も賑わっていいこと尽くめだったメェ」

そう追加で語り、

神様はジュースに小さな口をつけた。

ヴィタリーもうなずきながらコーヒに口をつけてから、

「真似する料理人が増えて、

 そのおかげでこの辺はうまい飯屋が多いんだよな」


「なるほど。

 僕が初めて街に来たとき、

 周辺が繁盛してるなって思ったのは、

 そういう理由があったんデスね」

「やっぱりひとは

 得意分野になるべく専念させたほうが

 成果を出しやすいメェ。

 もちろん例外はいるけど」

「そうだな……

 俺も神官やめて違う仕事探すか」

「そうしたらヴィタリーは神殿から追い出されるメェ」

「なんで?」

「あははは……」

「一応狩りの道具も持ってきてるんですけど、

 ここらへんでは猟師さんから食材を買ったほうが早いんですよ。

 もう狩りはまったくしてませんね」

「これもメーが市場を充実させたからだメェ」

神様はまたもドヤ顔を決めた。

「ホント、神様には頭が上がらないよ」

「イーサが狩りをしているところはちょっと見てみたいけどな」

ヴィタリーは男の子らしい好奇心を感じる口ぶりで言った。

それからニヤリとした顔でイーサの手を見る。

もしかしたら料理長の服の下には、

弓をひくために鍛えられた体があるのかもしれない。

そう思ってジョンもヴィタリーと同じところを見る。

「弓を持つ機会があっても、

 あまり期待はしないでくださいね」

そう言ってからジョンに目を向けて、

「ジョンくんだったね。

 いい仕事が見つかるといいね」

「はい、ありがとうございマス」


#


イーサの店を出てから、

学校、製紙工場、農業組合などを回ったが、

ジョンの向いている仕事、

やってみたいと興味の沸く仕事は見つけられなかった。

それからまたまたキレイに舗装された道を歩く。

周辺は作ったばかりの民家も多く、

まだまだ開発をしている段階なのだろう。

そんな工事中の建物の中に、

目立って大きな敷地があった。

「建築現場デスか?

 力仕事はちょっと」

「そうだが、ジョンが建てるわけじゃないメェ。

 ジョンが管理運営するんだメェ」

「ぼ、僕が運営する!?」

「なんの建物なのかちゃんと説明しろ」

驚くジョンに助け舟を出すようにヴィタリーは言い放った。


「そうだったメェ。

 ここは博物館になる予定だメェ」

「だがまだなにを展示するのか決まってなくて、

 間取もできてないんだメェ」

「俺はやめておいたほうがいいと思うけどな。

『おんせん』とか『すもう』で

 ひとを集めたほうがよっぽどいいんじゃないか」

「それは今度の調査でいいものが見つからなかったら考えるメェ」

「博物館って、

 なにを飾るんです?」

「観光客を集めるために、

 古代文明の遺産とか、

 出土品とかを見せるんだメェ。

 あとはこの街の歴史とかも見られるようにするつもりメェ」

「そんなの知って為になるのか?」

「なるメェ」

「なると思いマスよ」

「げっ、ジョンまで神様の言うことに賛成かよ」

ヴィタリーはあからさまに顔をしかめた。

ジョンは気にせずに口を開く。


「歴史を学ぶってことは、

 過去の失敗や成功を学ぶってことなんです。

 同じ失敗をしないよう、

 あるいはどうしたらうまくいくのかを知る大切なこと。

 活かせるかどうかは別問題かもしれませんが、

 知ってるのと知らないのとは大きく違いマス!」

ジョンの力強く、

早口な語りにヴィタリーは首を引いて目を丸くしていた。

「メーの言いたいこと言われてしまった」

神様もそんな様子のジョンに驚いたのか、

きょとんとしてそれだけつぶやいた。

「ああ、ごめんなさい。

 僕が偉そうなことを言ってしまいマシタ」

前のめりだったジョンは姿勢を戻して、

「いいメェ。

 メーが言うよりもしかしたらジョンが言う方が

 説得力があるかもしれないメェ」

「言わんとすることは分かった。

 だがそれなら学校でいい気がするんだがなぁ」

ヴィタリーはそれでも納得できないと、工事の進まない建物を見直した。


良ければ評価、

続きが気になりましたらブクマ、

誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、

とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。