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4-4 神様と神官は仲良し

「なんだかヴィタリーの様子がおかしかったメェ」

神様はお湯に浸かるなりそんなことを口にした。

「そうでしょうか?」

神様のそんなぼやきに

メガネをかけていないシームリャが

顔を覗き込んだ。

妙に光が反射する湯船に胸が浮いている。


「メェ。羊のころの記憶は鮮明には覚えてないが、

 ヴィタリーの兄弟たちといっしょにいるときのヴィタリーの顔をしてた

 ……といえば伝わるかメェ」

「はい。歳相応の男子の顔ということでしょうか?」

「多分」


「神様は、そもそも種族が違うので

 分かりづらいかもしれませんね。

 ヴィタリーくんはあの日から神様とふたりで

 がんばってきました。

 安全のために神様が街を大きくすることを決めてから、

 大人に混じって仕事をしてきたんです。

 歳の近い同僚、友達なんていなかったでしょう。

 ですからジョンくんと知り合えて嬉しいんだと思います」

シームリャの説明に神様は腕を組んで首を傾げた。


「ん~、確かにその感覚は分からないメェ。

 時間の流れは分かるが神は歳を取らないからメェ」

「そうですね、

 ですからこのかわいさは永遠……」

「メェ!?」

突如シームリャは何を思ったのか

神様の小さな手を取り、味わうように撫で始めた。


「お肌すべすべ……。

 ずっと触ってられますね」

「やめるメェ!」

「それに細くて小さくてガラス細工みたいです……。

 乱暴に扱ったら壊してしまいそう」

さらに一本一本指を触り始めた。

ガラス細工に触れていると言うにはいやらしい手つきだ。

「壊すなメェ!

 っていうか触り続けるメェ!」

「ほらほら、

 子供みたいにはしゃいじゃいけませんよ。

 神様なんですから」

「シームリャがへんなことするからメェ!

 ってどこ触ってるメェ!」

さらにシームリャは神様に抱きつき、

平原のような体を撫で触り始めた。

余分な肉はついておらずきれいな曲線を描くことができる体は、

とても愛らしい。

胸も『山』どころか『丘』と表現するには

小さすぎるただの坂だ。

シームリャの山脈とは標高を比べるにも至らない。


「ごめんなさい、

 メガネがないのでよく見えませんでした」

男子風呂にまで響いていそうな声を神様があげたところで、

シームリャはようやく離れた。

そしてわざとなのか、

くせなのか分からないメガネを掛け直す動きを見せる。

「ぜったい見えてるメェ!

 視覚なんて魔力で補強できるし、

 シームリャなら他の感覚で十分あんなことやこんなことができるメェ!」

「本当でしょうか?

 神様も目をつぶってやってみてはどうでしょう?

 わたくしは触られたりすることは歓迎しますよ」

シームリャは手を広げ子供を迎え入れるようなかっこうを見せた。


「イヤだメェ。それじゃ子供みたいだし」

ふたりの体格差で、翼や耳を見せず、

何も知らなければ親子で通じるかもしれない。

神様はそれが気に食わないようで口を尖らせてそっぽを向いた。

「わたくしにとっては神様もヴィタリーくんも子供、

 というか教え子みたいなものでしょうか?

 おふたりのお手伝いをするようになって仕事というより、

 学校の先生になった気分なんですよ」

そう聞いて神様は目を細めた。


「じゃあそんな先生代わりのシームリャに聞きたいんだが」

「どうぞ」

「メーはうまくやれてるかな……」

神様は目線をお湯に落として聞いた。

映るのは不安そうな顔。

「ええ、十分すぎるほどに。

 ですから我が神であり、

 川の街のの神であるリュウコ様もなにも言わず、

 わたくしを派遣した以外はなにもしないのです」

優しく、語りかけるようにシームリャは答えた。

シームリャはメグミが神様に転生したその場にいる。

それからずっと見てきていた。

だからこの言葉に間違いはないのだろう。


「それはヴィタリーのためになってるか?」

「もちろんです」

口調を変えずに答えた。

神様はたったひとりの男の子を守るために神の叡智を商売に使い、

街を大きくし、生活を豊かにしてきた。

シームリャはそれも理解しているだろう。


「メーが同じことをヴィタリーに聞いたら、

 絶対にメーのせいで苦労してるって言うメェ」

だが神様は答えに納得していないように腕を組んで顔をしかめた。

口をとがらせて、壁の向こうでくつろいでいる相手に

ブツブツと文句を言う。

「照れ隠しなんですよ。

 ヴィタリーくんは、

 大事なことは恥ずかしがって言いたがらないですからね。

 きっと他にも隠していることがあるでしょう」

「まったく……。世話のやける家族だメェ」

「ですね」

神様が困ったように笑うと、

シームリャもにっこりと嬉しそうに笑った。



「神様、風呂でなにしてたんだ?」

大浴場の出入り口で合流するなりヴィタリーは神様に聞いた。

「神サマの大声が聞こえてマシタね」

「えっ!?

 と、特にヴィタリーのことなんか話してないメェ」

ジョンも首を傾げて神様に聞くと、

神様は気まずそうに目を泳がせた。


「いや、俺の名前じゃなくて

 変な悲鳴が上がってたから」

「あ、ああ……。

 シームリャにいろいろ触られてたんだメェ」

安心したような声を出してから目を細めた。

後ろを歩くシームリャに目を向けると、

シームリャはお風呂以外の理由でも満足したような顔が見える。

「ごちそうさまでした」

「そこでいう言葉じゃないメェ!」

「イポーニア語もちゃんと喋れるって思ってたんデスが、

 難しいデスね」

「多分これは違う気がする」

状況を理解したからかヴィタリーは首をひねった。


「ではおふたりは何の話をしてたんですか?」

シームリャがなにから興味ありげに聞いてくるが、

ヴィタリーは神様の方を向いて、

「神様が仕事を増やすから困ってるって話だ」

「なにおー」

「ぼ、ボクの仕事探しのことデス」

「どうですか?

 良さそうな仕事は見つけられましたか?」

「今ある仕事じゃなくてもいいメェ!

 新しいお店を開いたり、

 まだ誰もついてない仕事を始めてもいいんだメェ」

「最初は神様やヴィタリーサンを助ける仕事が

 いいかなって思ったんデス。

 デモ、ヴィタリーサンしかこの仕事ができないし、

 ヴィタリーサンも譲るつもりはないのが分かりマシタ。

 なので、また明日から違う仕事も見て回りたいデス」

「でしたら明日も神様たちは外回りの予定がありますので、

 ご同行してみてはどうでしょう?」

「おじゃまじゃなければお願いします」

ジョンは三人に頭を下げた。


「うむ! ついてくるといいメェ!」

神様が一番偉そうに言ってから、

今度は首をかしげた。

「ところで、どうしてヴィタリーが

 この仕事を譲るつもりがないって、どういうことだメェ」

「だって、ヴィタリーサンは神官の仕事のために

 すごい必死にじゃないデスか」

「それは……、ほら、

 苦手なことなんだから必死になるのは当然だろ」

今度はヴィタリーが間が悪そうに目を泳がせながら、

強がる口調で返した。

質問をしたジョンにではなく

神様に言うような口ぶりでもある。


「ヴィタリー、なにムキになってるメェ」

「うっさい!

 神様が街を大きくしすぎなきゃ、

 あんなに書類や計算仕事や契約書と戦わずにすむんだよ」

「なにおー!

 発展なくして安定はないメェ。

 常に伸び続けることを考えないと安定した生活はやってこないんだメェ」

「また神の叡智に任せて難しいことを言いやがって」

「ヴィタリーの勉強不足なだけだメェ」

「本当にふたりは仲がいいデスね」

「そうですね~」

ジョンもシームリャも少し距離をおいて、

微笑ましいと感じながら見ていた。


良ければ評価、

続きが気になりましたらブクマ、

誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、

とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


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