4-1 神様と神官の添い寝が目撃される
「今日は神サマ来ないなぁ」
いつも自分よりも早く起きて、
わざわざ自分の部屋までやってくる羊神様。
ジョンはその神様が来る時間に合わせて起きるようにし、
迎えに来てくれたらすぐに部屋を出られるようにしていた。
だが仕事の開始二つ前の鐘が鳴っても来ない。
普段は三つ前の鐘で来ている。
「ボクの方から行ってみよう」
そう思って部屋を出てもすぐに足が止まった。
「でも神サマの部屋ってどこだろう?
ヴィタリーサンの部屋も……
一度行っただけじゃ覚えられないなぁ」
キョロキョロと見渡しても
同じような場所が続いているように見えた。
するとちょうど住み込みで働いていると思われる女性を見つける。
シームリャと同じ
青い衣装を着ている頭の良さそうなキツネ娘。
ジョンはすぐに声をかけた。
「あの、神サマとヴィタリーサンは
どこにいるか分かりマスか?」
「わたしたちも見ておりませんので、
多分――いえ間違いなくヴィタリーくんの自室ですね。
ここをまっすぐ行った大きな道を左に曲がって突き当りを左、
一番奥の部屋ですので、
呼びに行ってはいかがでしょう?」
ジョンが聞くまでもなく、
キツネ娘が案内までしてくれた。
「いいんデスカ?
いきなり訪ねたら失礼じゃ」
「構いませんよ。
ジョンさんはおふたりのお客様ですし。
それにおそらく、おふたりはいっしょにいますよ」
まるでなにか言いたいことがあるが
言わないでおいたほうがいい。
それでも言いたいことがあると言いたげな
ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「はぁ……。とにかくありがとうございマス」
キツネ娘の意図は分からないが、
嘘はついていないと思った。
そう思ってジョンは言われた方へと歩き出す。
#
朝になり仕事の前の鐘が鳴りだしたのも分かっているが、
ヴィタリーはいつも以上に起きる気になれずにいた。
その理由は
昨晩からヴィタリーの部屋にいるメグミのせいだ。
今もヴィタリーと同じベッドの上でぐっすりと寝ている。
起こさないように優しく、
そっと白くて長い髪を撫でる。
「心地いい」
そんなことをぼやいてしまうほど夢見心地な気分だと
ヴィタリーは感じていた。
メグミが羊時代もこんなもふもふな毛だったことを
思い出させてくれる感触だ。
メグミが怖いからといってここに来たのに、
これでは自分が甘えているようにも思えた。
だがこれはこれでいい。
自分からいっしょに寝てくれとか、
その髪を愛でさせてくれとかなんて
普段は言えないのだから。
こうして機会があれば甘えるのも悪くない。
「めぇ~……。めぇ……」
当人のメグミはというと、
本当に羊に戻ったような寝息を立てていた。
昨日は怖がって震えていたのに
それを感じさせない安らかな表情だ。
(まあ俺の部屋にいられると分かった瞬間、
元気になってたか)
そう思うとヴィタリーの表情も緩んだ。
さらにこの安らかで愛らしい寝顔と寝息とともに
ベッドの中にいるともう一眠りできそうな気がしてくる。
「やばいな。
メグミも起きないし、
このままだと遅刻だ。
それにジョンを待たせてるかもしれんが……
まあ、いっか。
本当にやばかったらシームリャさんが起こしに来てくれるか、
先にメグミが起きるだろう」
つぶやいてから心地の良い眠気に
意識を預けようとする。
#
ジョンは問題なく部屋にたどりついた。
そして表札を確認してから
ドアをコンコンと音を立ててノックする。
「ヴィタリーサン、いらっしゃいマスか?」
返事がない。
ふと思ってドアノブを回してみると、
不用心にも開いていた。
「ヴィタリーサン、入りマスよ」
そっとドアを開けて中に入った。
カーテンがしまり薄暗い部屋の中、
ベッドが膨らんでいるのが見えた。
間違いなく寝ている。
「あれ、神サマがいらっしゃらない?
前みたいにヴィタリーサンを起こすのに
苦戦してると思ったのに……」
部屋のどこかにいる気配もないし、
やってくる様子もなかった。
とりあえずヴィタリーを起こそうと思い、
毛布に近づいて声をかける。
「あの~、そろそろ起きないとお仕事に遅れますよ……?」
返事がない。
代わりにもぞもぞと毛布が動いた。
「うん? 少し大きいような」
不思議に思ってゆっくりと毛布をめくった。すると、
「っておふたりともなにをしてるんデスカ!?」
思わずジョンは声を上げた。
その声に驚いたのかヴィタリーも飛び起きて、
「おわぁっ!? ジョンか!?」
心底驚いた声でこちらを見た。
「驚いたのはこちらデスよ!」
「なんだメェこんな朝早くに」
対して神様は眼をこすってムクリと起きた。
羊のような白い髪は乱れ、
姿も羊のような寝間着。
しかも乱れており、
少しずれればあらぬものが見えてしまいそうだった。
ジョンはすぐに目をそらす。
「朝の鐘はとっくに鳴ってますけど」
「ンメェ!?
なんとこの羊神メグミが寝坊とな!?」
それを聞いて神様も、
羊神様のなのに馬のようにベッドから飛んだ。
「もうそんな時間か……。
すまんなジョン、
起こしに来てもらっちゃって」
ヴィタリーはやはり朝が弱いからか、
また力ない声になってしまっていた。
「それはいいんデスが、
おふたりは一体何を……」
仕事に遅れるとか
ヴィタリーが朝本当に弱いことなどが
まったく気にならなかった。
それほど、ジョンは
ふたりがこの毛布の中でなにをしていたのかが気になる。
「いっしょに寝てただけだメェ」
「いっしょに寝てた!?」
神様は『太陽は東から昇り西に沈む』という
さも当たり前のことを話すようにケロっと答えた。
当然その答えはジョンには驚愕の事実だ。
種族の違いはあれ
男女がふたりで同じベッドで過ごすということは、
男女の関係であるということ。
これはおそらくはどの場所に行っても変わらないだろう。
「なにを驚いてるんだメェ。
ジョンはおかしなヤツだ」
「いえ、片方が神サマだから……
いえ、神サマだからこそ男女がこうしていっしょに
寝ているのが驚きなんデスが」
「家族といっしょに
寝るのは当然のことじゃないのかメェ?」
「か、家族!?
おふたりはこ、婚姻してるんデスか?!」
「そんなわけないだろ……」
普段は神様の言葉にアレコレ言っているヴィタリーですら、
神様と同じように『当たり前のこと』と
言いたげな顔をしていた。
客観的に見たらジョンのほうが常識知らずな状況だ。
ジョンの頭が混乱しだして目までぐるぐると回りだす。
「ああ、そういうことか。
ジョン、俺とメグミいや、
神様は兄弟とか、
飼い羊と飼い主とかそういう関係の家族って意味だ」
「ブラザー? シスター? マスター? ペット?
ノー、シーイズゴッド……ノットファミリー。
ホワイ? アイキャントアンダスタンド……」
ヴィタリーが理由を説明するようにたとえ話をするが、
それを聞いたジョンはさらに頭をぐるぐるしだした。
混乱のあまりイポーニア語ではなく、
アーングリア語の単語を持ち出して考えるがまったく分からない。
「とりあえずメェは自室で着替えてくるメェ。
ジョンはヴィタリーが二度寝しないよう見張っててほしい」
「い、イエスマム……」
神様はもきゅもきゅと可愛らしい足音をたてながら、
ヴィタリーの部屋を出ていった。
良ければ評価、
続きが気になりましたらブクマ、
誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、
とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると
嬉しいです。
雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to




