mission77 怒涛のイベントに対応せよ!
前回のあらすじ。
桐生と土曜日に水族館に行くことになった。
『なんか不思議と予定が増えて行くな……』
『まあ、予定のない人生よりはいいぷん』
『そういう話じゃなくてな。ほら、幼少期は太郎と別行動取ると時空の狭間がよくやってきてたろ? 最近それがないなって』
『寂しいのかぷん』
『そんなわけあるか』
いないならいないでいいんだが、鹿峰攻略の時はめちゃくちゃに追いかけられたし、夜の学校の時も追いかけられながら太郎の元へ行った記憶がある。
最近遭遇したといえば、桐生と逃げた時だが……あれは、桐生の心の問題のような扱いだったはずだし。
『まあゲームによくある死に設定とかじゃないぷん?』
『お前がそれを言うのか……』
まあ、動きやすいことはいいことなんだが、少し気に留めておくか。
「ほーちゃん」
聞き覚えのある声の方を見れば、みけがいた。春日野みけの。俺と太郎の幼馴染という設定の、ツーサイドテールで、猫の髪飾りをつけた元気っ娘。
「よう……みけ」
俺がこの前、振った女の子。
「次の土曜日、空いてる?」
箱森といい、みけといい。なんで予定のある日に予定を入れようとしてくるんだ。
「……出かける予定がある」
「じゃあ日曜日は?」
「日曜もだ」
なぜかその日もふざけた箱森の予定があるんだよ。
「みけのとは……出かけたくない?」
「土曜も日曜も正当な予定があるんだよ!」
涙目になるみけを座らせて落ち着かせる。桐生はともかく半分くらいは箱森のせいだ。慰謝料としてラーメンでも奢らせよう。
「日曜は箱森となんか墓参りに行くんだよ」
「ぴよちゃんと……な、なら、みけのもついていっちゃダメ?」
「……奇数になるから」
「なにそれ」
俺もよく分かんないんだよ。箱森のせいだ。
「とにかく、奇数になるとヤバい墓らしいんだよ」
「理由つけて避けてるようにしか見えないよ……」
「そう思える材料はめちゃくちゃあるけど、箱森がそう言うんだよ! 俺だって怖いの苦手なのに!」
いや、待て。よくよく考えたら、俺と太郎、箱森に笹川。パミュリャンを入れれば奇数だから、みけに来てもらった方が偶数になるのか?
『我を入れると偶数ぷん』
『こん畜生!』
誰だよ、こんなよくわからん設定作ったやつ! そんなことばかり考えてるからゲームがバグまみれになるんだよっ! クソっ!
「土曜日は何の用事?」
「土曜は、桐生と」
言おうとして、その先がうまく出てこなかった。たまたまチケットが2枚あるだけで、特別なイルカショーで。それで出かけるだけだから、そういうものじゃないはず。なのに。
「……すみちゃんと?」
「まあ、出かける用事があるな」
その言葉には追及せず、何か言おうとして。口を結んで。それを繰り返して。ようやく、みけは口を開いた。
「夜、遅くまでかかる?」
「……高校生が夜遅くまでいるこたないだろ」
ない、よな? ただ、水族館行って帰るだけなんだから。
「じゃあ、夕方でも、夜でも。いつでもいいから。出かけたいところが……あって」
必死ささえ感じる、その言葉に。
「……戻ったら、連絡する」
それだけしか、返すことはできなかった。
あんなことがあった以上、楽しいお出かけというわけにはいかないだろう。
きっとこれは、けじめ。なんだろう。
「うん……待ってる」
揺れる瞳で返すみけは、震える声でそう言って。握る手に力を込めた。
「あ。ほーちゃん、みけ。探したよー」
太郎か。間が持ちそうになかったから助かった。
「ちょっと手伝って欲しいんだ。教室で粉塵爆発が起きて」
「粉塵爆発!?」
漫画とかでよく見るあれが、今?
「あ、大したことじゃなくてね」
「十分大したことだとは思うが……」
「東雲出雲郷くんと十六島日御碕くんが粉塵爆発の起こし方実験をしてて」
「読み方を試される地方姓すぎて話が入ってこないな」
そしてそんな実験を教室でするな。
「爆発としては小規模だから大丈夫なんだって」
「そうか…………そうか?」
頷きながら心配にはなるが、とりあえず教室に戻るか。
「じゃあ、みけも行こうぜ」
「はい、みけどうぞ」
おや、太郎が手を差し出した。
「い、いいよ。エスコートなんて」
「エスコート?」
「うん。太郎が最近してくるんだ。女子全員にしてるよ」
みけだけならまだ特別感とかあったろうに……なんで全員にしちゃってるんだ。
「なんか、中安さんが中世のヨーロッパとかでは男性が女性をエスコートするのが一般的だったって聞いて」
「ここは日本で1995年のはずだが……」
ゲーム設定的にはそんな年代のはずなんだけどな。発売遅れたせいでその設定が守られているかも怪しい。
「まあ、日本じゃエスコートが一般的じゃないから常に女性には優しい気持ちを持つとかでいいんじゃないか?」
「優しさかぁ」
可愛らしく首を捻る太郎に一番足りていないものだった。
「あ。じゃあ、ほーちゃんがお手本見せてよ」
変なことを思いつくな。教室が粉塵爆発で大変なんだぞ。
「ほら、みけもいるし」
そして、よりにもよって、俺が今一番優しくできてない女子とやらせる気かよ。
「ほーちゃんの最上級の優しさ……とくと拝ませていただくよ!」
こんな時に限って昼休みのチャイムは鳴らないしさぁ、ああもう!
「……じゃあ、みけ。お手をどうぞ」
結局、太郎と同じことをしていた。
『ぷぷーっ! 引き出しのなさに絶望してしまうぷん!』
『やかましい、そんな引き出しがあったら彼女くらいできてるんだよ』
そんな俺の手に、みけの小さな手が重ねられる。
「じゃ、じゃあ……お願いします」
正直エスコートなんてやり方すら分からないので、そのまま手を繋いで歩き出す。ふにふにとしたその感触は、自分のそれとは違って。少し汗ばむそれに、力を込めれば、その分だけ返してくれる。
「じゃーん! 宇宙人!」
そんなみけの反対側の手を太郎が握っていた。確かに宇宙人連行するイラストとかでたまに見るやつだけども。なんでだよ。
「あははっ! なんだか小さい頃みたいだねっ!」
ただ。
久しぶりに、みけが笑った。
元気印の、ひまわりのような笑顔。これが見られたなら、太郎のエスコートも、まあ成功しているんだろう。
そうして、三人で手を繋ぎながら。他愛のないことを話して、笑って。教室への角を曲がると。
「これのどこが小規模なんだよっ!」
「ほーちゃん、落ち着いて。実験の規模を考えればこのくらいですんだのは小規模どころか無傷と言っても」
「よく死人が出なかったなこれ! 掃除とかいうレベルじゃねぇよっ!」
突っ込んでいるうちにチャイムが鳴り、放課後に時間が飛ぶと、教室は復活していた。
「こわ…………」
時空の狭間よりも怖いギャグ時空のような恐ろしい空間に、思わず天を仰いだ。
「何が……怖いの…………?」
「ひぃぃっ! 今一番怖いのは天井に張り付いてるお前だよ、笹川ぁっ!」
「呼んだっ?」
「お前はいつでも呼んでないから頼むから部活に戻れ、鹿峰っ!」
「あ、ほーちゃんっ! あのねあのねあのね。日曜日のお墓参り用のお花を買いに土曜日」
「箱森は一人で行ってこいよっ!」
ダメだ、ここに安息の地はない。涙を堪えて鞄を持ち、下駄箱に向かって駆け出す。
そうだ、家に帰ろう。家に帰りさえすれば、太郎しかいないはずだから最悪、なんとか。
「あ、やっと帰ってきた。遅いじゃない」
家の玄関前にいた宮藤に、思わず持っていた鞄を落とした。
「俺は……土日は地球にいないから…………」
「何の話よっ!」
横付けされた高級車。サングラスをかけた宮藤まなみ。
「今から、ちょっと用事があるのっ!」
土日どころか、それ以外の日程まで侵食されていく状況に。
天を仰ぐこともできず、ただ下を向いて震えることしかできなかった。
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