mission75 設定を清算せよ!
前回のあらすじ。
箱森に巻き込まれてややこしいことになった。
『もうアイツとは関わらなくてもいいんだが……』
『でも、まだ太郎と可能性はあるぷん』
『アイツの好みのタイプは、魅力95以上、優しさ95以上だろ? 全パラメータ90以上要求してくる、みけと同じくらいの難易度だろ』
『ちなみに、太郎のステータスは今どのくらいぷん?』
『把握しとけよこの無能が……』
そういえば、太郎のステータスは最近確認していなかったな。家に帰ったらしておくか。
桐生の問題が解決する前に見たときは、学力、体力、魅力は70以上。雑学は45で、優しさは15だったか。
『お前が優しさを上げるように言っておけばこんなことにはならなかったぷん』
『……鹿峰と桐生の好みに合わせてたんだよ』
結果、鹿峰は攻略本の記載ミスで失敗、桐生はクラスメイトから誕生日会の情報を得ていなくてフラグが立たずに失敗と、ステータス以外のところではじかれてしまった。
『それもこれもサポートキャラが不在だった影響が大きいな』
『隣の可愛い我を見るぷん』
『サポートキャラさえいればな』
『隣を見るぷん!』
カッスと遊んでいても仕方がないので、そろそろ帰るか。鞄を持って立ち上がったところで。
「ほーちゃん」
珍しく。元気のない声のみけに話しかけられた。
「よう、みけ」
「一緒に、帰っちゃだめかな」
ほまれの母親からの用事もなければ、太郎は野球とどこかに行ってしまったし。
「別にいいよ。帰ろう」
「…………うん」
並んだところで、左手が急に温かくなる。
触れられた手は、指は。滑るように俺の指に、絡んで。その熱さだけが高まっていく。
「……みけ?」
俯いた彼女の顔は見えない。それでも、その雰囲気から。日焼けではない赤さをはらんだ耳から、これがそういうことであることはなんとなく分かった。
春日野みけのは、主人公の親友である古井戸ほまれに好意を抱いている。
攻略にも何もいらない、設定付けられた感情。
「か、帰ろう。ほーちゃん」
手には言及せずに、そのままみけは歩き出そうとして。止まる。
俺が歩き出さない以上は、みけは前に進めない。
「……帰ろうよ、ほーちゃん」
「みけ」
このままじゃ、帰ることはできない。
みけが涙目でこちらを見ていたとしても。このまま、帰れば――。
「気づいてるでしょ。小さい頃から、ずっと。みけのは――――」
「みけ」
握られた手を、振りほどく。
「そう言うなら……理由を教えてくれよ」
小さい頃から、みけには何回か好きとは言われていた。
高校時代になっても、それに近いことは言われそうになって。ずっと無視をしていたけれど。
「理由って……わ、私は、ほーちゃんが、小さい頃からずっと好きで」
「みけは、ただ」
設定に、理由なんて。
「俺が一番近くにいたから、そう思っただけだよ。勘違いだ」
みけの目から逸らさずに、告げる。
本音を言えば、今すぐにだって逸らしたくてたまらないけれど。
「ひどいよ……ほーちゃん」
みけがどう思っていたかは分からない。設定であっても、ずっと抱えていた感情を、勘違いの一言でなかったことにされた、この瞬間を。
「みけのは、本当に――――」
その先を聞いても、表情を変えない俺を見て。みけは踵を返して、そのまま教室から走り去っていった。先ほどまでみけがいた場所には、この場にあるはずのない雫の跡が残っている。
『あんな言い方…………する必要があったぷん?』
『仕方ないだろ。まかり間違って、太郎のステータスがアホほど上がって、みけルートに行く可能性が少しでもあるなら』
春日野みけのは、どこかで古井戸ほまれへの想いを捨てる必要がある。
「俺が恋愛してたって仕方がないだろ……」
現実世界へ帰るためには、太郎を誰かとくっつけることが目標で。
『別に……主人公の友達が恋愛するゲームだってあるはずぷん』
『俺は、そういうの嫌いなんだよ』
とあるゲームがアニメ化した時は、ゲームにはなかった主人公の友達と攻略対象外のヒロインが恋愛をして炎上し、またとあるゲームがアニメ化した際には、ヒロインがとあるルートで恋愛関係になる相手が存在ごと抹消されていたこともある。
『あくまで、これは太郎とヒロインが恋愛するギャルゲーなんだから』
それをサポートするのが、俺の役目だ。
『帰るぞ、カッス。これから綾咲かなえルートについて考えなきゃいけないんだから』
『その前に箱森ひよりと笹川さららとの謎イベントがあるぷん』
『本気で飛ばせねぇのかよアレは』
と、教室を出ると。
「ひぃぃ! まだいた!」
「いたもん! いちゃ悪い!?」
みけが掴みかかるように立ち上がった。え、あの後、廊下でしゃがんでずっと泣いてたの? 普通あれほど走り去っていった感あったら公園とかどこか行って泣いてすっきりして家に帰るとか、なんかそういう感じだと思うじゃん。なんで走るのすぐやめてここにいるんだよ。
「だってだってだって! みけのは、本当に、本当にほーちゃんのこと好きなのに! ずっとずっと前から好きだったのに、勘違いとか言うから! ほーちゃんが悪いの、ほーちゃん、ほーちゃんが、うわぁぁぁぁあああああん!」
「ちょ、待て、みけ。その、廊下で泣くなよ。分かった、分かったから!」
「呼んだっ?」
「部活行けよ、お前はっ!」
手元にあった飴を逆方向に投げて鹿峰は撃退する。
「みけの、みけのは、こんなことで諦められないもんっ! 小さい頃から、ほーちゃんのこと好きなのに、勘違いじゃないもん……」
「分かった、分かったから! せめて場所を移して話そう。な。教室戻るか?」
「ひゃ、ひゃわー! しゅしゅしゅ修羅場ってやつ? 私初めて見ちゃった、どうしよう! クイズする!?」
「しねぇよ! 中安は暇なヤツ捕まえてクイズ出してろっ!」
クッソ、なんでちょいちょい邪魔も入るんだよ! 廊下っていう場所が悪いんだよ場所が!
「ほーちゃんのこと……すき、すき、だいすきなんだもん」
「とりあえず、教室でいいから、な。戻ろう、みけ」
「ほーちゃんだって、みけの日焼け跡見て……泣いてたのに」
「あったなぁそんなこと! 教室入ろう!」
「ほーちゃんどうしたのー? あ、みけが泣いてる」
太郎まで来た。逆に今までどこ行ってたんだよ、お前。
「ほーちゃん、みけ泣かせちゃだめだよ、めっ!」
案外怒り方が可愛かった。じゃなくて。
「ドラゴン……みけを、頼んだ!」
「ああっ! ほーちゃん!?」
逃げた。割と全力で逃げた。
『……あそこまで好き好き言われて逃げ出すヤツがあるかぷん』
『うるせぇ! ノイズがありすぎてそんなこと考える余裕なんてなかったんだよ!』
そうして、家にたどり着く。ああ……なんて我が家は落ち着くんだろう。
俺の家じゃなくてほまれの家だけど。
『今日はなんか色々ショックだったからもう風呂入って寝たいな……』
『ショックを受けたのは春日野みけのぷん』
『そりゃ悪いと思ってるよ、本当に』
「ほまれー。お客様よ」
「…………今行く」
誰だよ……太郎がみけでも連れて帰ってきたのか?
「や、ほーちゃん。あのね、ちょっと話があって」
疲れ果てた俺とは裏腹な、爽やかな笑顔で。
桐生すみれが、そこに立っていた。




