mission74 現状を再度把握せよ!
「しかし……ややこしいことになったもんだ」
昼休み。太郎が教師にみけと一緒に呼び出しを食らった関係で、思いがけず一人の時間ができた。最近は攻略対象キャラが増えた関係か一人の時間を取ることも難しい。
「呼んだっ?」
「驚くほどお呼びじゃないから鹿峰は山へ帰れ」
「わ、キャラメル! チョベリグっ!」
明後日の方向へ投げたキャラメルに食いついてくれた鹿峰はどこかへ行ってくれた。せっかくの一人の時間を侵食しないでほしい。
『さっきの鹿峰わかなは幼少期にフラグが折れて、桐生すみれはこの前フラグが折れたばかりぷんね。次は誰のフラグが折れるのか見ものぷん』
『フラグが折れるのを楽しむんじゃねぇよ、ゴミサポートキャラが』
『むきーっ! 誰がゴミぷん!』
カッスはさておき、残っているのは、努力家アイドルの宮藤まなみと幼馴染の春日野みけの、トラブルメーカーの箱森ひよりに、何考えているか分からない笹川さららの……四人か。
『みけはステータス的に無理だろうし、箱森もステータス的に厳しいしあんまり関わりたくないし、笹川は……恋愛とかする気あんのかって感じだし』
『宮藤まなみに至ってはああなってしまったぷんね』
見上げた垂れ幕には、連ドラ初主題歌&初主演決定! の文字と共に宮藤の名前が並んでいる。この前の演技や歌が評価されたらしく、ゲームであることもあってか異様に早い出世を遂げていた。
『まさか手も届かない存在になるとはな……』
『アイドルに恋なんかするもんじゃないぷん』
『太郎は恋すらしてないが……』
というわけで、現在関わっている女子と付き合うのが限りなく難しくなってきてしまった以上。
『あとは、綾咲かなえ、蘭堂あいり、篝火あやね、山形ちなつの四人に期待するしかないか』
幼少期に出会っておいた四人。特に綾咲は二学期に転校してくるキャラクターであり、求めるステータスは太郎のパラメータと一番近い位置にいる。
『基本的には夏休みに仲を深めるのが大事ぷんがねぇ』
『箱森達と深めても仕方ないしな。ゴールデンウィークみたいにいっそ飛ばしてもらった方が良いくらいだ』
『よほど箱森ひよりに恨みがあるような言い方ぷん』
『アイツが関わると碌なことねぇだろ』
まだ、わんわん言わされた傷は癒えていない。俺は繊細なのだ。
『ま、夏休みにできることと言ったら、誰か誘って祭りに行って射的か金魚掬いのミニゲームするくらいだろ』
『特定のゲームのミニゲームが好きぷんね』
『あれ楽しいんだよ。常時やりたいくらいだった』
さて。食事も終わったし、もう少ししたら授業も始まる。木陰にいても暑くなってきたし、そろそろ移動するか。
「や、やっほー! ほーちゃん」
五時間目はなんだったっけな。体育だと移動と着替えが面倒なんだが。
「こっちを振り向いてくれると……嬉しいんだけどナ!」
ああ、確か数学だった。それはそれで眠くなりそうだ。今からすでにあくびが出そうだが……まあ、ゲーム上イベントもなければ飛ばしてくれるだろう。多分。
「おやぁ、耳が壊れたわけじゃなさそうだし……声の大きさが、足りない!? お、おーい! 貴方の愛しのぴよりんが参ったよー! ぴよっ!」
「ここまで無視されてよくめげないな、お前はっ!」
「め、めげてるもん! か弱い女の子なんだから優しくしてよ!」
「この前優しくした結果がアレだっただろうがっ!」
先ほど攻略で切り捨てた箱森ひよりは何か言いたげにこちらを見ている。……一刻も早く振り切って教室へ向かわないと。
「あ、あのさぁ。実はほーちゃんに頼みたいことがあって」
「あいにく、どの日のどの時間も空いてなくてな。残念だよ」
「どんな頼みかくらい聞いてくれてもよくないっ!?」
「あと、なんでお前までほーちゃんって呼んでるんだよ……」
「え……だって、みんな呼んでるから」
みけに太郎に桐生に。確かに箱森の周りだけ異様なほーちゃん率を誇るが。
「お前には許可してないから今まで通り苗字に様付けで呼んでくれ」
「私にだけひどくないっ!? 様付けなんてしたこともないけど!」
「クソみたいな頼み事する時はいつも様付けだろうがっ!」
と、言っては見たが……今回様付けしていないってことは、案外とクソみたいな頼み事じゃないってことか。一体なんなんだよ。
「え、えっとね……古井戸様にしか、頼めないことで」
ヤバい。クソ感が漂ってきた。
「今度の日曜日……付き合って欲しいところがあるんだ」
「…………どこで何するかを先に言えよ」
顔と雰囲気だけはものすごく可愛いので、危うくOKしてしまいそうになるが、相手は箱森だ。油断できない。
「お墓参りに、付き合って欲しいなって。お父さんちょうど行けなくて」
今までに比べれば、まともな頼み事だった。
「……なんで俺なんだよ」
「い、いいでしょ! お母さんに紹介したいのっ!」
「またよく分からん彼氏枠ならお断りだが」
「よく分からんくないもん! 私の設定バカにしないでっ!」
俺はそのせいでバカみたいな演技をさせられたわけだが。
「…………高校で、友達と楽しく過ごしてるよって。報告したいの」
幼少期から、本屋に行っても父親しか出てこなかったということは……そのくらいから、母親がいなかったのか。
「じゃ……ドラゴンと一緒に行くか」
「赤来戸くんも一緒なの? じゃあ、もう一人誘わないと」
墓に行くのに人数も何もないだろ。
「あ、いやいや。お母さんのお墓かなり出るって有名みたいで。奇数で行くとよくないって……ああ! 神様仏様古井戸様っ!」
「ふざけんなっ! 自分の大事な母親の墓なんでそんなとこに作ってんだよ!」
「私がお墓建てたんじゃないもん! 文句があるなら幽霊に言ってよ!」
「幽霊に会いたくないから行きたくないんだろうがっ! たまにはまともな頼み事持ってこいよ!」
「わ、私はいつも真剣で可愛い頼み事しかしないもん!」
「これのどこに真剣な可愛さがあるって言うんだよ! 大体そんなオカルトみたいな」
「…………呼んだ?」
縋る箱森を引っ剥がそうと手に力を入れていると、独特のウィスパーボイスが耳元に響いた。
「幽霊がいるお墓……私も、行ってみたいな。ね、パミュリャン」
その言葉に。嫌な汗が流れた。
パミュリャン入れたら……奇数なんじゃないか?
嫌な予感しかしないまま。
昼休みの終了を告げるチャイムの音がやけに大きく響いた。
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