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攻略不能ゲーム攻略作戦 〜濃厚ホモエンドを回避せよ!〜  作者: めの。
高校生編

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mission73 チャンスを掴んだアイドルを応援せよ!


 時はまた少し遡る。

 途中で桐生すみれには特に関係のないことが判明し、でもやると言ったからには最後までやらなければならなくなったあの老人ホームでの出し物の話だ。


「ミュージカル用の曲をいくつか作って見たから、感想聞かせて」


 俺が適当に言い出したミュージカルは、宮藤の負担を軽減するものであったはずなのに、真面目に取り組んでみると歌だけよりも段違いに大変なものになっていた。ミュージカルなんて言い出したの誰だよ。俺だよ。何してんだ……。


「二番目と……四番目が良かったかな」

「分かった。じゃあ二番目を中盤で使って……四番目は、こっちがいいかな」

「宮藤」

「なによ」

「ごめん」

「何が?」


 中でも一番真面目に取り組んでいる宮藤の負担はかなり大きいだろう。歌だけじゃなく、脚本も書いては文芸部の中安ちゆりにアドバイスを受け、衣装の準備が難しいからと制服や普段着をアレンジしてそれっぽく見せようと手芸部に頼みに行ったりとなんやかや手配をして先んじて動いてくれていた。


「べ、別にアンタのためにやってるわけじゃないし!」

「そりゃそうなんだろうけど、俺が声かけたのに宮藤に一番動いてもらってるからな……」

「でも、こうして手伝ってくれてるじゃない」


 宮藤の歌を聴き終わった今は歌詞カードの作成中。一緒に歌うのは難しくてもコールだけでもできるようにという工夫らしい。正直ここまでやらなくてもとも思うが、真面目な宮藤らしく全力で取り組んでいるんだろう。


「あ、それ田井中さんの?」

「ああ」

「ここにこのシール貼ってあげて。シーズー飼ってたって言ってたから」


 気遣いレベルがMAXな気がする。どこまで把握してるんだよ。



「せっかくだから……やっぱり、良いものにしたいじゃない」



 幼少期の宮藤からは、絶対に出てこなかった言葉だ。調子に乗っていて、世界は自分中心に回っているとでも言いたげだった彼女からは。


「今度、さ」


 ぽつり、つぶやくような彼女の声に視線を向ける。


「ドラマのね、ちょい役出させてもらえることになったの」

「……おめでとう?」

「なんで疑問系なのよ」


 ウインナーの試食販売よりは、芸能界には近づいたかもしれないが……宮藤が目指しているのはそこじゃないだろう。


「ウインナーの曲、聞いてくれたみたいで。本当に、ちょっと出て主役達の後ろで歌うだけなんだけど」


 あの努力は、ちゃんと次に繋がったらしい。


「よかったら……見に来てくれない?」


 その小さな可能性を、宮藤は喜べるようになっていたのか。


「いいよ。太郎と一緒に見に行くよ」

「なんでアンタ誘うと基本的に二人になるのよ……」


 まあいいわ、と歌詞カードに猫のシールを貼りながら宮藤は言う。


「驚くくらいの姿を見せてあげるんだから」


 そう言われて、なんでも安請け合いする太郎と一緒に見に行ったところ。


「よよよよよよよく来たわわにぇ!」


 驚くくらい緊張している宮藤がそこにいた。せめて噛むなよ。


「わわわ私のええええ演技にあああ圧倒されつょやなさ@まから」

「とりあえず落ち着け」

「宮藤さん差し入れ持ってきたよー。ほら、チョコあーんぱんだよ」

「なんで演技前にパサパサするもの持ってくるのよ!」


 文句を言うと元に戻った。美味しいのに……としょげる太郎はともかく、今の宮藤だと役を外されて終わりそうな気がする。


「マネージャーさんとかはいないのか?」

「なんかお腹壊したみたいでずっとトイレにいて……」

「絶妙に責めづらいな……」

「僕もうんち行ってくるね」

「トイレはそこ行って左行って、次を右に曲がって少ししたところにあったからな。困ったら人に聞けよ」

「分かった!」


 宮藤以外の主要人物が全てトイレに消えてしまった……どうしたらいいんだよ、これ。


「どどどどうしても、ひひひひさしぶりゅぶりゅだから」

「落ち着け。お前までうんこのひり出し音みたいになるな」


 緊張を緩和させるには人という字を書いて飲み込むやら、人をかぼちゃだと思うやら色々はあるが……宮藤には効果なさそうに思えるな。

 ただ。


「さっき文句言ってる時は大丈夫だったじゃないか。そんな感じで臨んでみたらどうだ?」

「いいいいま、もんくなんめかかかんがえちゅかな」

「スカートでもめくればいいか?」

「バッカじゃないの!? 小学生じゃあるまいし!」


 治った。


「小学生じゃないならもっと過激なことでもすればいいのかよ」

「か、過激なことって……何考えてるのよこの変態!」


 治ったはいいが、スカートめくりの進化系が思いつかない。なんだ、どこめくればいいんだ? めくる場所他に……あ。


「ぴゃっ!」


 前髪をめくるように触れると、宮藤の白いおでこが露出した。


「……なかなかいい眺めだな」

「何言ってんのよ馬鹿っ!」


 蹴られた。せっかく人に見られても恥ずかしくなさそうで、微妙に恥ずかしそうな場所を選んでやったのに。


「アンタが好きなのはおへそじゃなかったの!?」

「なんで知ってんだよ!」

「おへそが好きでもいいので静かにしてくださいね」

「すみません」


 普通に怒られた。そりゃそうだ。


「お前のせいで性癖知られた上に怒られたじゃないか……」

「自業自得よ、馬鹿」


 怒りですっかり落ち着いた宮藤を見て、なんとなく頭に手が伸びた。そのまま、柔らかな髪に手を滑らし、何度か繰り返す。


「…………何よ」

「いや、女子って好きでもない相手に撫でられるとムカつくって聞いたから」

「なんでそれ思い出して撫でてんのよ……」

「もうちょい怒っといた方が緊張しないだろ。さっきも怒ってたし」


 宮藤は、蹴ることも何か言うこともなく。撫でられ続けていた。他の俳優の演技は台本通り、滞りなく進行していく。撫でるのを止めるタイミングを逸したまま、俺と宮藤はそれをただ見つめていて。


「ほーちゃん! 30cmくらいあるの出たよ!」

「良いことですが静かにしてくださいね」

「はい!」


 必要以上の元気な返事をして太郎が戻ってきた。それをきっかけに手を離す。


「個室越しに会話したけど、マネージャーさんもそろそろ出すもの出し尽くしたから戻ってくるって」

「どう言っていいか分からんが、個室越しの会話って普通なのか……」


 そんなマネージャーは戻ってくることはなく宮藤の出番になった。怒りを溜め込んでいるのか、緊張しているのかは分からないが、静かだ。


「ま、気楽にな」

「宮藤さん知らないかもしれないけど、人っていう字を手に書いて……」


 宮藤は、割とメジャーな情報をただただ聞いて。


「ねぇ」


 目も見ずに、こちらに声をかけた。


「……もう一回、撫でてくれる?」


 その申し出に、先ほどと同じように頭を撫でて、離す。


「僕も撫でておくね!」


 迷わず尻を撫でようとした太郎の手を寸前で止める。


「馬鹿! 撫でていいのは自分の尻だけだって教えただろうがっ!」

「そうだった!」


 危ない。別のバッドエンドへ行くところだった。


『エンディング迎えられたら帰れるから良いぷん?』

『さすがに逮捕者が出るエンディングはちょっとな……』


 何はともあれ。


「よく分かんないけど……そろそろ行ってくるわ」

「うん、全力で応援するよ!」

「俺はドラゴンを止めつつほどほどに応援しとくよ」


 と言いつつも、宮藤はなかなか行かない。何か足りないのだろうか……。


「えっと……頑張れ?」

「なんで疑問系なのよ……」

「いや、お前いつも頑張ってはいるし……」

「なにそれ」


 くしゃりと笑った宮藤に


「もういいわ。行ってくるからねっ!」


 もう、緊張は見られなかった。



    *   *   *



『ひ、ひとしさん誰よこの女!』

『違うんだ! 信じてくれ!』


 俺は何を見せられているんだろう。半裸の男と、包丁を手に持った女と、ギターを持った宮藤。

 宮藤といる時はぼんやりと演技してるなと思っていたが……さてはこれ、ドロドロの恋愛ものか?


『……聞いてください』


 そこに宮藤のギターが響く。


『略奪愛は、突然に』


 誰だこの脚本書いたやつ。

 宮藤の歌はいつもどおり良いけど……これ、次のチャンスに繋がるものか? 出演者が可哀想になってくるが……。


『あなたのおかげで、世界が変わったの』


 宮藤と目が合った。



『私だけを、見て』



 射抜くようなその視線は。

 強く、切なくて。


「宮藤さん、なんだか格好良いねー」


 いつの間にかポップコーンを食べている太郎へのツッコミも忘れて。


「……そうだな」


 握っていた手の熱さに、ようやく気付いて。



『あなたのことが——』



 その先を聞く前に。



 熱を逃した。


お読みいただきありがとうございました。

休んでいた間も読んでいただいたり、アクセスいただいたり、評価マークを教えいただいて本当にありがとうございます。


桐生すみれの攻略失敗、綴原ルートへは入らなかったことを経て、また新しいルートを書いていきたいと思います。お時間のある時にでもお読みいただけたら幸いです。

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