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攻略不能ゲーム攻略作戦 〜濃厚ホモエンドを回避せよ!〜  作者: めの。
高校生編

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Case.2 綴原悟の場合


 失敗をして絶望して、どうしていいか分からなかった、あの日。



『でも、綴原って何やっても上手く行ってる感じだったからさ。正直、結果聞いてざまぁって思ったよ』



 聞こえてきた言葉に、足を止めた。それは、さっきまで俺を慰めてくれていた友達の声で。同じ声で、別の友達に俺に言ったものとは全然違う言葉を投げかけていた。



 そんなこと、思っていたのかよ。

 友達だと思っていたのは俺だけか?



 人を信じるのが怖くなったあの日。

 俺は、その言葉に立ち向かうこともなく。唇を噛んで、立ち尽くすことしかできなかった。




    *     *     *



 入社した当初はなんとも思っていなかった。

 ただ6歳年上の先輩で、お世話係として仕事を教えてくれた。それだけ。


 小さい頃からそつなくなんでもこなせてきたし、あの失敗以外は、学校でも会社に入ってからもそれは変わらなかった。

 だから、先輩がいる意味なんてそんなになかった。


「綴原、今度締切があるこれなんだけど・・・・・・」

「この前稟議回して提出しました。先輩も判子押していたじゃないですか」

「そうだったか。ごめんごめん」


 俺より別に優れているわけじゃない。


「すごいなー。こんな機能あったのか」

「大学の授業で習っただけですよ」

「そんな授業あるのかー。最近はハイテクだな」

「ハイテク?」

「え……?」

「え……?」


 抜けているところもあるし、後輩の俺の方が知っていることは多いし。

 それでも、俺を妬むでもなく邪魔に扱うこともなく、素直に俺が詳しいところは聞いて、受け入れて。悪口を言われたり変に足を引っ張ったりする連中とは違って。それはそれで居心地は悪くなかった。



「綴原は早いしなんでも知ってるなー。助かったよ」

「・・・・・・別に、普通のことですよ」

「普通じゃねぇよ。すごいところはもっとすごいって胸張っていいって」



 散々、色々な人間を見てきたせいかその言葉も素直には受け入れられなかったけれど、そんな俺の失礼な態度も意に介さず褒めて、お世話係として色々なアドバイスもしてくれていた。


「綴原ができるのは知ってるけど、頼るところは頼れよ。仕事量大分増えてるだろ」

「大丈夫ですよ」


 別に、このくらいできる。このくらい、普通に。


 そうして、だんだんと任される仕事が増えていって、増えていって少しきつくなってきたのに人を頼ることはしたくなくて。残業して、昼休みの時間も使って、時間が足りなくて。先輩が俺の仕事の分をこっそり負担しているのにも気づいて、それにも怒って。

 なんでもかんでも一人で抱え込んだ。



 だから、ミスをしたのも必然だった。



「綴原くんもミスしたりするんだねー」

「一人で抱え込みすぎだよね。誰も頼っていないっていうか、必要としてない感じ?」

「絶対自分が一番できるし完璧って思ってるよねー。自意識過剰的な?」



 分かってる。分かってるよ。

 できる人間は一回だって失敗しちゃいけない。できる人間は、できるままでやっていかないと。そうじゃないと、価値なんてーー。



「そういうのは居酒屋でやれ。本人に聞かれる可能性のある会社でやるなよ」



 遠くで聞こえてきた自分の悪口を、当たり前のように先輩は諫めてくれた。


「綴原。今から一緒に行くから準備できるか?」


 かなり遅い時間に訪問した取引先でも、俺よりも先に頭を下げてくれた。


「あー、緊張した。でもなんとかなって良かったな」


 俺のことは、一言も責めなかった。



「会社戻る前にちょっと休憩するか。どっか入るとアレだし、コンビニかドライブスルーかなー。どっちがいい?」

「・・・・・・んでですか」

「ん?」

「なんで、俺を責めないんですか」

「あー・・・・・・」

 

 運転中だから、先輩は俺を見ない。俺から見る先輩の横顔は、いつもとあまり変わらなかった。


「ちょっとそこで停まるか」


 夜の公園は人気もなく、街頭にたかる虫の羽音だけが耳障りに響いていた。

 ベンチに座るよう促され、飲み物を聞かれたので適当にコーヒーを頼んでおく。



「うわ、なんだこの自販機!? おしるこしか残ってねえじゃねぇか!」



 耳障りな音の中で、ひときわ大きく響いたその声に少し頬が緩んだ。


「綴原ごめん。なんか自販機におしるこしかなくて……飲める? いや、食べれる、なのか?」


 頼んだコーヒーはなぜかおしるこになって手元に返ってきた。


「しかも異様に熱いから気をつけろよ。うっわあっつ!」


 包んでいたハンカチごとおしるこの缶を1本俺に渡したせいで、自分は素手で熱々の缶に触ることになったらしい先輩は夜の公園で一人賑やかに騒いでいた。なんだか、今日の失敗なんてどうでもよくなるくらいに、普通に。



「あー……あのさ。まあ、ありきたりなことを言うようだけど、ミスくらい誰でもするし。あれだ。俺も個人情報書いてある書類見えなくなって焦ったこともあるし、時間的に間に合ったから良かったけど、締切日過ぎてから締切までに渡さなきゃ行けない書類出てきて冷や汗かいたこともあるし、色々あるよ」

「……先輩は、いつもそうじゃないですか」

「さすがにひでぇな! いや、確かに個人情報のやつ引き出しから出てきたのはつい最近の話だけどさぁ!」



 いつもと変わらず。俺を責めない。


「いつも……そうやって、自分は大したことないって言って、人のフォローばっかりしてるじゃないですか」

「え?」


 先輩は俺よりミスも多い。ただ、それは俺や他の人の仕事も手伝ったり、フォローしたりしているせいで、俺たちよりも負担が多い中だから当然ミスも多くなるだけだ。それでも、人に当たり散らしたりしないし、俺たちのせいにしたりもしない。


「……まあ、頭を下げるのはそれが俺の仕事だし、俺は綴原ほどには仕事できねぇよ」


 単純な出来不出来で言えば、確かにそうかもしれない。だけど。


「今回のことだって俺の管理ミスだよ。担当者だけだと気づかないことを見つけるのがダブルチェックの役割なのに、それができていなかったんだから」



 人として、優れているのは。きっと先輩の方だ。



「綴原はなんでもささっとこなせるから、周りもそれが当たり前になってるけど、人間だからミスくらい当たり前にするもんだよ。俺なんかはミスが多いから周りもそんなもんだで気にしてないけどさ。そう考えると、ちょっと損だな」



 言って、笑ってくれる先輩には、あの日友達から感じたような邪気はない。


「俺」

「うん」

「受験、失敗したんですよ」

「ん? ああ……大学?」

「はい」


 誰にも積極的に話したことはなかった。思いも見なかった失敗の話。


「なんか……それで、周りの反応とかが今までと違うようになって。あんまり、人を信じることもできなくなって。なんでも一人でやらなきゃって……思ってしまっていたんだと思います」


 そして、一人でもやれると自惚れていた。他者よりもできる自分を作ることでしか、自分を守れなかった。いつの間にか、他者を見下していることにも気づかずに。



「すみませんでした」



 何を言われるのか、先輩の顔も見ることができないまま謝罪する。



「真面目だなぁ」



 俺の言葉に、先輩はのんびりとした声で答える。


「じゃあ、次からは進捗状況逐一確認する時間を取るか。綴原がどのあたりまでできるか話し合いながら、難しそうなものとか間に合わなさそうなものは俺が持つから。そうしたら、綴原も頼りやすいんじゃないか。何をどこまで人に頼んでいいか分からないこともあるだろうし」


 こういう人が、上に立つ人なんだと改めて実感した。仕事ができるできないだけじゃない。俺の性格や能力も考えながら寄り添って対応してくれる人。

 今の俺には、どうしようもなくそれが欠けていた。


「そろそろ冷めてきたし、飲んだら帰るか。帰れそうか?」

「……はい」


 先輩のハンカチに包まれたおしるこは、温かくて、口に含むと蕩けそうなくらい甘い味が口中に広がった。


「お?」


 先輩も同じタイミングで飲んだのか。そのまま、何口か飲み進めて。



「案外うまいな」



 笑ったその顔が、たまらなく眩しかった。



「綴原はおしるこ好きなん?」



 何気ないその質問に。



「好きです……すごく」



 意味を持たせて、答えたくなるくらいに。


大変間が空いてしまってすみません。

入院したり手術したり色々ありましたが、またちょこちょこ更新していきますのでお読みいただければ幸いです。


次回は本編更新です。

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