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わがかわいい『妹』の話

 完全没入型VR。

 これだけ聞くとえらいSFチックな名前だが、それが正式名称なんだから仕方がない。

 文字通り、従来のVR技術から何倍も進化した仮想現実を見せてくれる機械だ。

 子供からお年寄りまで、あらゆる世代にヒットしたロングセラー商品。


 ちょっと高いのがたまに瑕だが、高校生でもバイトをすれば買えない額じゃない。

 俺も最初はてんで興味がなかったんだが、ケイの奴がしきりに勧めてくるから、仕方なしに買ってみたところ。

 一時期ドはまりしてしまった。

 現実と変わらない、むしろ現実の質感を超えた世界で繰り広げられる戦争ゲームや。

 様々な海の仮想生物を堪能できるゲーム。

 その他、仮想現実であることを活かした種々のゲームが楽しめる。


 その中でも俺がはまったというか、のめりこんでしまっているのが。

 『デジタル・ファミリー』というゲームだ。

 これは文字通り、『デジタル』な――つまり電子上の――『家族』を構築するゲームだ。

 まあ、ギャルゲーとかも平たく言えば嘘の家族関係を構築していることになるだろ?

 それがもっとリアルになって、CPUじゃない他人同士で家族ごっこをするゲームっていう感じだ。


 ……そんなおままごとが面白いのかって?

 俺も最初はそう思っていた。

 現実の家族だけで手一杯なのに、なんでわざわざ架空の家族を作らないかんのだと。

 だが、その考えは間違いだ。


 さすがにゲームというだけあって、開発者側も色々とギミックを織り込んでいる。

 家族関係が上手くいくようにステータスが用意され、プレイヤー達はそれを元にどう行動するか決めていく。

 面白いのは必ずしも自分が『人間』である必要性がないってところだ。

 例えば小動物の家族を演じることも出来るし、そうなるとその動物の特性に合わせた『家族』のイベントが用意されている。


 ハムスターになりたいならどうぞ。たくさんの子宝に恵まれる苦労をリアルに味わえる。

 あんまり気持ちの良いものじゃないが、ゴキブリの家族になることだって出来るんだ。

 そうなると、人間とのまさにサバイバルゲームになってくる。


 他にも、架空の生き物――天使だとか、怪物だとか。

 とにかくその生き物に合わせたシナリオが色々と用意されていて、中々これが飽きることがない。

 むしろ『人間』であることが一番退屈なくらいだ。

 そんな中で、俺は初心者ということもあり、まあ『人間』を選択したわけだが。

 とにかくやってみることだ。


 ※※※※※※※※


 ギアをつけてから数秒経った頃。

 目の前には、見慣れた俺の部屋ではない、新たな光景が広がっていた。


 最初のスタート地点だ。プレイヤー達には『広場』と呼ばれているここに、『人間』であれば、まずは一同集結することになる。

 そして各々、それぞれの『家族』の下に行くわけ。

 空中に浮かんだ液晶画面のようなホログラムをタッチする。

 ステータスの確認。

 自分の姿も確認できる。


 VRだけあって、まあこれは一昔前の技術でも出来たことだが、様々な『外見』が用意されている。

 俺のアバターも、現実の自分よりは少し……いやかなり……いやいややはり少しだけ……かっこいい感じの外見を構築した。

 両手を握ったり戻したり。

 空気をすうっと吸う。


 地面を軽く蹴る。

 「うん」

 久しぶりのVR空間だ。

 仮想現実とは思えない、現実の質感を超えたリアルがそこにあった。


 色々忙しくて長らくプレイしていなかったから、今日はたっぷり遊ぶぞ。

 自分にそう言い聞かせてから、俺は『家』に向かう。

 要は『家族ごっこ』をするゲームなわけだが、当然自分達が住む『家』も用意されている。

 しばらく行くと見えてきたのは、現実のボロ家とは比べ物にならないほど豪勢な家だ。

 意気揚々と玄関のチャイムを押した。


 しばし待つ。

 もしあっちがログインしていなければ、この世界でも俺はだんまりを決め込まれてしまうわけだが……

 ところが、そうはならなかった。

 まだチャイムの音が鳴りやまないうちから、勢いよく開け放たれるドア。

 「おかえりなさい!!」

 そこには、『妹』がいた。

 いや、正確に言えば、『妹』の役割をまっとうしてくれている赤の他人なわけだが。

 ともかく、このゲームをプレイしている間は、彼女こそが俺の妹なのだ。

 凛とした顔だち。

 けれども優し気な目。

 華奢な体ながら、出る所はしっかり出ているボディライン。


 まさに理想の『妹』。

 そして性格は……

 「もう、兄さんたら。どれだけ妹を待たせたら気が済むの?」

 ぷくーと頬を膨らませて仁王立ちになる『妹』。

 かわいい。

 俺は頭を掻いて

 「悪い悪い……現実が忙しくて」

 「もう、あっちの世界の話なんかしないで」


 ふくれた『妹』がこんなにかわいいなんて。

 おかしいな、いつも怒っている『妹』は身近にいるはずなんだが。

 「ごめんよ、アイカ」

 アイカ。


 これが俺の『妹』の名前。

 ちなみに俺の名前は『ケンヤ』となっている。

 「もういいわ。ほら、さっさと入って」

 そうやってぐいっと俺の腕をひっぱるアイカ。


 俺はにやつく顔を抑えきれずになされるがままに従っていく。

 「お腹空いたでしょ?」

 長い廊下を行く。

 正直言えば現実世界で食べたばかりだったがそんなやぼは言わない。


 こくんとうなずいた。

 すると『妹』は嬉しそうに

 「そうだと思った。もう、兄さんはあたしがいないとダメなんだから」

 リビングの扉を開け、俺の背中を押す。


 「ほら、待ってて今作るから」

 そういってキッチンに入っていく『妹』の姿を見て。

 俺は感動している自分を感じた。

 おお、これぞ家族。

 これぞあるべき家族の姿!!


 そう思いながら食事を待つ。

 ちなみにこの世界がいくらリアルだといっても、まさか本当に物が作れたり、食べられたりはしない。

 だが、味の再現は可能であり、そこは我が『妹』のことである。

 高い料理ステータスを誇り、極上のしろものを用意してくれる。


 出現した料理に手を伸ばすと本当にそこにあるかのように手に馴染む。

 それを口の方向に持っていくと、その食べ物がなくなる代わりに味が口内に広がるというわけだ。

 やがて並べられた数々の逸品に舌づつみを打ちつつ、俺は『妹』と話をする。

 「どうだ、アイカ。最近学校は?」

 「楽しいよ、兄さん」


 この世界にも学校があり、子どもの年齢説定ならイベントの一つとして通うことになっている。

 「兄さんこそ、最近サボり気味なんだから、明日こそ一緒にいこうね?」

 「ああ、もちろんだ」

 ああ、やっぱりいいなあ。

 優しい『妹』。

 食事を終えれば、一緒にテレビを見ようと提案してくれる『妹』。

 「あはは、面白いね、兄さん」


 「そうだな、アイカ」

 会話が弾んでいく。

 これだよ、これ。

 これこそがあるべき『妹』の姿だよ!!

 会話に華が咲く。

 その華は美しく、花弁は細やかで。

 色鮮やか。

 途切れることを知らない会話。

 本当の妹との会話と10倍は濃い話をしただろうか。


 しばらくして。

 「ふああ……なんだか眠くなっちゃった」

 「もう夜も遅いしな」

 窓の外は、再現された暗闇が辺りを包んでいる。

 「今日はここまでにしておくか?」

 「うん……そうだね」


 ちょっと残念そうな顔をする『妹』。

 ああ、そんなに俺のことが大事なのか!!

 俺は『妹』を抱き締めたくなって……


 というか抱き締めた。

 「ふわっ、に、兄さん? 」

 「大丈夫だ、アイカ。現実に戻っても、アイカは俺の妹だからな」

 「……うん。兄さん」


 ありがとう。

 そう心から言われて。

 俺の心は暖まる。


 ※※※※※※※※※


 やがて。

 ギアを外した俺。

 一人寂しく部屋で伸びをする。

 やはりこの感覚だけは慣れないものだ。

 特に、あんな出来た『妹』がいるとなれば。


 かいがいしい『妹』。

 美人な『妹』。

 俺を慕ってくれる『妹』。

 なんて最高な『妹』だろうか!!


 「最高だー!!」

 夜に向かってそう叫んだ俺に。


 「うっさい」


 ガシッ。

 椅子に座っていた俺はそのままガタンと床につっぷす。

 「い、痛い……」

 「今何時だと思ってんのよ」

 「そ、そういうお前は何で俺の部屋に」

 「これ、返しに来たのよ」


 そうやって妹が差し出してきたのは一冊の漫画本だった。

 「……貸した覚えがないんだが」

 「そりゃあんたの留守中に借りたからね」

 それは借りたといわないと思うんだが!?


 「っ!? ……てめえ」

 「じゃ」

 そういってすたすたとと出ていく妹。

 ……『妹』となんて違いだ。


 「……たく、あっちの兄貴となんて違いよ」


 妹が何か言った気がするが、それは俺の耳には入らない。

 ただ怒りだけが募っていく。


 本当に、なんて妹だろう!!





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