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「妹」と友達になりたがる少女の話

 東メイは強い女である。

 それはもちろん物理的に強いという意味でもあり、精神的にタフという意味でもある。

 物理的方面は、彼女が市内の空手大会で優勝したことから。

 精神的なタフさは、兄のケイとのラブラブさを見せつけているがゆえに一部女子生徒から奇異な目で見られていても、一向に気にしない様子から。


 とにかく、強引で、手強い女なのだ。

 そのことを我が妹も思い知った様子だった。

 俺が家に帰り、束の間の休息を楽しんでいるところへ。


 ルナがバンっとリビングの扉を開けて入ってきた。

 その顔は上気し、肩をいからせている。

 そしてかつかつとこちらに詰め寄ると

 「ちょっとあんた!! あいつ何なのよ!! 」

 「あいつ? 」

 「あいつよあいつ!! 東メイとかいう女よ!! 」


 胸ぐらをつかまんとせんばかりの勢いに、俺は気圧されて

 「め、メイがどうしたんだ? 」

 俺の問いに

 ルナは思い出すのも腹だたしいといった感じで

 「あの女、まず私のクラスに押しかけてきたのよ。そんで……」


 それから、メイに対するルナの愚痴がこぼれ始めた。

 曰く、教室にやってきて、ルナの席の前に陣取り、笑顔で

 「や、ルナちゃん。おはよう!! 」

 「……そろそろHRが始まるんだけど」

 「だからなに? 友達になろうよ!! 」

 そしてぶんぶんと無理矢理握手をしてくる。

 ルナは怒って

 「な、何すんのよ!! 」

 「だって、あたし、ルナちゃんと友達になりたいんだもん!! 」


 「あたしはいや」

 「……なんで?」

 「そんな……実の兄貴と腕を組んで歩くような人間と同類と思われたくない」

 「えーでも、ルナちゃんも今日は一諸にお兄ちゃんと登校してたじゃん!! 」

 「そ、それは、今日はたまたま」


 そこで周囲の視線が自分に集まっているのを感じたルナは

 「と、ともかく、自分のクラスに帰りなさい」

 「えー、その前に友達に……」

 「い・い・か・ら」

 そうやって無理矢理メイを追い出した。


 だが、そんなことで諦める東メイではない。


 彼女はその後も休み時間の度ごとに教室に来て

 「ね、ルナちゃん。友達になろう!! 」

 「ならない!! 」

 「えー、なんで? 」

 「あんたみたいに兄貴にべったりの人間なんかと友達になりたくないのよ」

 「どうして? お兄ちゃんが好きなんだから別にいいじゃない!! 」

 「それが気持ち悪いっていうのよ!! 」

 「じゃあルナちゃんはお兄ちゃんのことを嫌いなの? 」

 「なにを当たり前のことを……」

 そこでルナは一瞬逡巡し

 「……あ、当たり前でしょ。大嫌いよ!! 」

 「えーほんとー? なんか怪しいいーー」

 「うるさい!! さっさと帰れ!! 」


 ただでさえ友人がいなくて浮いているとまでは言わないが、クラスで落ち着ける居場所がないというのに。

 そんなところにこの馬鹿女がやってこられては、ますます自分の存在が奇異に映ってしまう。

 それは何よりも避けたいことだ。

 ……なのに。

 「さあ、友達になりましょう!! 」

 バンっとクラスのドアを開けて入ってくるメイ。


 昼食が終わり、昼休みのことである。

 本来なら、優雅なぼっちスマホいじりタイムに突入していたはずのルナは、大きくかき乱されることになった。

 「またあんた……」

 「友達になってくれるまで、いつまでもつきまとうよ!! 」

 そういってにっこり笑うメイ。

 大胆なストーカー宣言である。

 ルナは気味悪がって

 「なんでそんなにあたしに執着するわけ? あんた今朝兄貴に友達になってくれって頼まれただけでしょう? 」

 「それはそうだけど」

 メイはちょっと困惑していた様子だったが

 「だって、ルナちゃんかわいいんだもん」

 「っ!? ……かわいい? 」


 あんたそっち系なの?という目線をよこす。

 メイは笑って

 「あ、大丈夫だよ。あたし、そういう趣味はないから」

 そんなこと言いながら鼻息が荒い。

 ルナは出来るだけ体をよじって

 「あ、あんた、私のそういうところを狙って」

 「だから違うって」


 あはは、とメイは笑って


 「あたし、お兄ちゃん第一だもん。お兄ちゃんラブ。お兄ちゃん大好き」

 そういって両腕で空を抱くようにするメイ。

 「でもかわいいものも好きなの。ラブじゃなくライク。それで、私はルナちゃんをライクになっちゃったんだ」

 びしっとルナを指さして

 「だから、あたしと友達になってもらうからね!! 」

 「……お断りよ!! 」

 「もう、つれないな~~」

 「当たり前でしょ!! 」


 だれがこんな変人と、とルナは思う。

 「だれがあんたと友達なんかになるもんですか!! 」


 そういってルナはメイを追い出したのだった。

 しかしメイの猛襲はこんなものでは終わらない。

 はあはあと息せききって今日の出来事を述べ立てるルナを見ながら、俺はその予想をしていた。

 


 「こんにちわーー」


 それは、ピンポーンの音とともにやってくる。

 「こんにちわーー。ルナちゃん?メイが来たよ~~!!」

 「あ、あいつ。逃げてきたつもりだったのに」

 だからそんなに息があがっていたのか。

 だが、東兄妹は俺の住所を知っているのでなんの意味もない。


 「おーい、けんや、いるんだろう?」

 兄貴である東ケイの声も重なる。

 ルナを呼ぶ声だけならまだしも、自分も呼ばれてしまっては、出ていかざるをえない。


 「ちょっと、あんたどうするつもり? 」

 ルナが立ち上がった俺を見て、警戒するような視線を寄せて

 「どうって……玄関をあけるんだよ」

 「なんでよ!! 」

 「なんでって、呼ばれたから……」

 「あんな変質者にかかわることはないわ」

 「一応俺の友達なんだが……」


 「とにかく、出ちゃだめよ」

 出たら、殺す。

 そんな殺意をこめた視線を俺によこす。


 だが俺は自分の身の危険と、ルナが困る様子。

 どちらが面白いか天秤にかけて。

 「まあまあ」

 「何がまあまあよ……あっ」

 俺はするりと妹の手から逃れると

 「よう」

 とそのドアを開けた。


 「よう、けんや」

 「やあやあ、けんやさん」

 ケイとメイが相変わらず仲睦まじく腕を組んで玄関前に立っていた。

 「何しに来た? 」

 一応聞いてみる。

 兄妹二人は顔を見合わせて頷くと


 「友達になりに来たぜ!! 」

 「友達になりに来ました!! 」


 快晴の空によく響きわたる声だった。

 ルナの顔は苦痛にゆがんでいた。


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