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無限転生 -転生勇者の魔王譚-  作者: ホモンロ
第三章 玉座の少年
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第四十二話 『時渡し-03』

 圧倒的な魔の力が聖の気を埋め尽くす。

 苦労の末に復元された聖剣を滅ぼさんばかりの暴力的な魔力。

 そのまま消滅させることさえ容易くこなし得る、レイヴンの魔力が聖剣を包んでいる。


 不成立な言動の裏腹に覚えた違和感がクロノスを困惑させた。

 能力を差し出した手前にそれを確認しておかないわけにはいかない。


「どうなさるのですか?」


「まあ見ていろ。案ずるな、せっかくの苦労を無駄にはしないさ」


 その表情の綻びが破壊衝動のような危うさではないことに一応の安堵をしつつ、されどその魔力の矛先が紛れもなく聖剣を捉えていることに嫌な予感は拭いきれない。

 無論主君が言うからには傍観を極めるのだが、クロノスの胸中を焦燥感が埋め尽くすのはやむなき状況なのだろう。


「勇者でなければ引き抜けないというなら、引き抜かなければいいだけの話。剣の形そのものさえ残せばいずれそれに相応しき者も現れよう」


 謂わば、クロノスからしてみれば窮地とまで言える状況に、楽観的な言葉は嫌に響く。

 尚も留まることのない魔力の膨張をクロノスが制止しないのは、他ならぬ君主の言葉とそれに準ずる心当たりの存在はあまりにも大きかった。


 疎外感まで覚えるこの思考の格差すら埋めてしまう、大いなる心当たり。

 表情や仕草さえ鮮明に浮かぶ己の想像力をクロノスは呪う。

 あるいは想像すべきではない幼き影を脳裏から振り落とし、およそレイヴンの言うところの相応しき者とやらをクロノスは独りでにいたたまれなかった。


「......こんな物の為にお前たちにかけた苦労を改めて詫びようとも。ファントマとサファイアにも迷惑をかけてしまった」


「我々はレイヴン様の御意向のままに動くまで。その手足となれた名誉を嘆くことなどあり得ません」


 いつもの如く謙った忠誠心を示す言葉。

 若干一名その括りに収まっていないようにも思えたが、されどレイヴンの中で確かな存在感を認める。

 今目の前にある聖剣は紛れもなく四人の忠臣達の働きが繋ぎ合わせてくれた物だ。

 その忠義と功績に賭けて不義理は果たせない。


「そうだったな。もとよりそれは承知の上で敢えて言おう。()()()()の為に払う対価は決して安くなかった、と」


 忠義を受け入れた上で揶揄するように嘯く。

 忠臣の彼等が繋いで払った対価に対し、それは直接的な功績を期待することはできない。


 魔と対を成す聖の名を冠した剣。

 魔族であるレイヴンとその配下の彼等には決して相容れることはないだろう。

 魔族の手元にあったところで持て余す代物に払う対価として大き過ぎる代償は、敢えて嘯いてみせたところで紛れるはずもない。

 だからこそ言葉は戒めとなり、配下達の耳にもその唇を噛むほどの想いを悟らせた。


「無駄な遠回りこそしたが今こそこの手中へと収めてみせよう。我が覇道の、礎となるがいい!」


 強めた語気。

 振りかぶられた腕。

 その瞬間、膨大な魔力がまたたく間に収縮する。

 真空を生み出す如く極限までに圧縮された魔力は、一縷の隙もなく完全なる魔の塊と化している。


 禍々しく淀んだ瘴気が空間を飲み込み、地鳴りと共に舞う砂埃は聖剣の姿を眩ませた。

 ガーネットが絶大な力を恍惚と眺める最中、クロノスはやはりその結末への緊張を隠せない。

 両様の反応が馳せる想いの先を映しながら、クロノスの生唾を飲み下す音は轟音に掻き消された。

 その中に、レイヴンはしたり顔で佇んでいる。


「――こ、これはっ……!」


 やがて晴れた(もや)から垣間見えるその成果にクロノスが思わず声を漏らした。

 瘴気と砂埃が霧散した隙間に姿を現す聖剣は、傷一つとなく清らかに佇んでいた。


 膨大な魔力が振りかざされたはずの見た目の齟齬を疑うまでもなく、クロノスが状況を理解するまでに要する時間は長くなかった。

 これほどまでに分かりやすく理解を促す手立てに感服する。

 よもや、疑うべくは主君の能力だろう。


 そんなことまで可能としてしまうのか、と。

 目の前で()()()()()()を見上げながら、クロノスは息を呑むことしかできなかった。


「……これでようやく、面目を保つことはできたか?」


 ほっと息を吐いたレイヴンの安堵に、クロノスは緊張と緩和の落差で目眩さえ起こしそうになりながら呆然と見つめる。

 忽然と現れた球体の正体がレイヴンの主導によるものだということは嫌でも察しが付くだろう。

 硝子のように透明掛かった魔力の膜の中心部に鎮座するのは聖剣だ。

 ()()()()切り離された魔力の球体が、レイヴンの意思のまま宙空を移ろっていた。


 引き抜かなければいいとはこのことか、と。

 清廉な聖剣が禍つ魔の内に収まる光景の違和感を無理矢理受け入れる。

 聖剣とは選ばれた者にしか抜くことも出来ない代物であることをその身で体感して尚、それを覆すほど強大にして理不尽なまでに明快な解決策だ。

 空間ごと切り取ってしまえば当然、再び手折ることもなくその手中に入れたと言えよう。


 魔族にはおよそ考え付きもしない方法、それを可能としてしまう膨大な力。

 クロノスの中で全ての溜飲を下げさせるのに十分過ぎた光景である。


「よもやこんな方法があったとは。お見事……と言う他ありませんね」


「当然だとも。これ以上、お前たちの働きに唾を吐き捨てるような真似は出来ないからな」


「そのお心遣い――確かに、受け取らせて頂きます」


 クロノスは手に余る程の見返りに跪き頭を垂れる。

 レイヴンからのその言葉こそ何物にも代え難い恩賞だ。


 魔の者が支配する聖剣の価値にレイヴンがどれほどの展望を見据えているのか定かですらない。

 その不透明な未来の為に失った能力(ちから)を惜しむでもなく、クロノスは君主の言葉に浸った。



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