ハームレス
野球拳をしているクロノスと冒険者三人組を冷ややかな目で見ていると、向こうもこちらに気が付いたようで、話しかけてきた。
「おう! 黎二! 金は稼げたか!?」
半裸でそう問いかけてくるクロノス。
「まず服を着たらどうだ……。金は稼げたよ。んで、そっちは?」
「ああ、冒険者の……なんだっけ、名前」
「「「酷いぞ! 俺たちはAランク冒険者【クルセイダーズ】のアセット、バーモット、コリンだ!!」」」
(見事にABCだな……まあ、それよりも)
「おう、よろしくな。んで、どうしてこんなとこにいるんだ?」
「ああ、ダンジョンへの階段らしきものを見つけたんでな。何かお宝があるかと思って入ってみたんだけど、おっさんがいるだけでな」
「おっさん!?」
クロノスが不服そうな顔をするが、話が長くなるので目で制する。
「んで、話を聞くと、今日の朝、このおっさんもここを発見してな。家がないからここを寝床にしているらしい」
クロノス、ナイス。
心の中で親指を立てておく。
「でもダンジョンの生誕期? みたいな感じだから、数日後に来たら面白いものがあるかもって、そのおっさんが」
(やっぱ余計なこと言ってるじゃないか!! くそ!!)
「んで、あんたらは誰なんだ?」
アセットが話の矛先をこちらへ向けてきた。
「ああ、俺はレイジ。そこのクロノスと一緒に旅をしながら、定住できる場所を探してる。こいつはタルタル。モンスターテイマーで、ここで捕まえたクリーンスライムを町に売ってきたんだ」
「クリーンスライム」という言葉が出た途端、冒険者三人の目の色が変わった。
「おいレイジ!! 今、クリーンスライムって言ったか!!」
(あー、さっきも似たような反応されたな)
「ああ、クリーンスライムだ。キャリーゴーレムもいた」
「おいおいおいおい、そいつら、今じゃ世界中の金持ち連中や貴族が目を皿にして探してるモンスターだぞ? もしこのダンジョンでそいつらが獲れるなら……ふふふ」
怪しい笑みを浮かべるバーモット。
俺は、このダンジョンの掟を先にこいつらへ伝えておくことにした。
「ああ、注意してほしいんだけどな。このダンジョンの中じゃ、危害を加える行動ができないんだ」
「危害を……え?」
「攻撃とか、無理やり捕らえるとか、そういうことができない」
「……なるほど。だからモンスターテイマーか」
こいつら、なかなか頭はいいらしい。
「そう。ここは、リスクほぼゼロで金が稼げる美味しいダンジョンになる可能性が高い」
「こりゃあ、早速冒険者ギルドに報告せねば!!」
「ああ。でも、俺たちの次の宿が見つかるまでは、ちょっとここへ来るのはやめてくれ。やっと見つけた寝られる場所なんだ」
クルセイダーズの面々は顔を見合わせ、やがて頷いた。
「ああ、分かった。報告は明日にする。だからレイジたちも次の宿を早く見つけるんだぞ」
「ああ、ありがとう。十分金も稼げたし、次は町のホテルに泊まることにするよ」
「じゃあ、俺らはいったん拠点へ戻る」
「ああ、達者でな」
そう言って、クルセイダーズは帰っていった。
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「ああー!! 緊張した!! ふざけんな!! 冒険者来んなよ!!」
冒険者たちが帰った後、黎二は大きく息を吐いた。
「クックック、俺に感謝しろよ?」
「ああ……クロノス、今回はナイスだ。これ、土産」
「ん? ああ、饅頭か。まあ俺は食わなくても死ぬことはないんだが、味は感じる。いただくよ。そんで、いくら稼いだ?」
「金貨二十枚」
「は?」
「だから、金貨二十枚」
「何だってそんな金額になるんだよ!!」
「さっきも聞いただろ。なんか需要があるっぽいんだよ、無害モンスターズ」
「そうか……戦闘力がない代わりに何らかの仕事をする。そして、それが戦闘力のない人間から人気、と。ダンジョンマスターからは不人気だから召喚コストも低い。……なんか、ボロ儲けな雰囲気だな?」
「だな。まあ、流通量とかには気を付けないと価格が下がるから、そこはこっちでコントロールする」
「なんだか明るい未来が見えてきたな! そういえば、このダンジョンの卵は完成したら名前を付けるんだった。名前はどうするんだ?」
「それはもう決めてあるんだ」
「ほう?」
「名前は【ハームレス】。危害を加えず、益をもたらす。人間にとって、旨みしかないダンジョンを作り上げる」
「いいじゃねえか。楽しみだぜ」
これが、後に伝説となるダンジョン【ハームレス】の、記念すべき第一歩であった。




