委託契約
「あ~……お前、どうすんだよ、こいつら……」
のそのそと移動し続けるクリーンスライムたちを横目に、クロノスが呆れたように問いかけた。
「ん、この辺に町ってあるのか?」
「ああ。北に『ホーン』って町があるぞ」
「なら、そこでモンスターを売る」
「なるほど――って、いや待て。使役されてないモンスターは売れないぞ?」
「それについては想定内だ」
俺は自信満々に頷く。
「モンスターと意思疎通ができる人型モンスターを召喚する」
「ほう。でもお前はモンスターを使役できないよな?」
「ああ。だから業務委託契約を結ぶ」
「出た……意味分からん理論」
「簡単だぞ」
俺はさらりと言う。
「俺ができない仕事を、他のモンスターへ委託する。その報酬としてDPを支払う」
「……もういい。やってくれ」
クロノスは考えることを放棄した。
「【オープンリスト】」
リストを開き、『委託』を選択する。
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【リスト】
メニュー
物品▼
工事▼
委託▼
* 管理
* 業務
* モンスター(知能あり)
⸻
俺は『業務』を選び、『モンスター(知能あり)』を開いた。
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委託▼
モンスター(知能あり)
・クレイマン
・ワーキャット
・ワーウルフ
⸻
「……DP表示がないな」
それに、選択肢は三体だけ。
知能なしモンスターと同じ数だ。
「これって条件次第で増えるのか?」
「ああ。ダンジョンの規模に比例する。大きくなるほど、より優秀なモンスターを複数の候補から選べるようになる」
「なるほど」
つまり目下の目標は一つ。
「ダンジョンを人気にしてDPを稼ぐことだな」
「まあそうだな」
クロノスは頷く。
「……でも今日は、それより飯を食う方が先じゃないか?」
「そうだった!」
俺は慌てて叫ぶ。
「日銭を稼がないと!」
そう言ってワーキャットを選択する。
⸻
ワーキャット
猫型の獣人。
魔法も扱えるが肉体派。
魚が好物。
必要数【 】
仕様【 】
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「おっ、仕様まで設定できるのか」
これは助かる。
しかし、必要DPが表示されていない。
「これ、ランクによって必要DPって変わるのか?」
「当然だ」
クロノスは頷く。
「強いモンスターほどDPを食う。これも縛りと同じだ。何かを得るには何かを差し出す。それがダンジョンのルールだ」
「なるほど」
俺は入力欄へ書き込む。
必要数【1】
仕様【攻撃力0・モンスターテイム可・契約期間1日・その他能力は標準以下でも可】
すると画面に表示された。
【必要DP:100】
「思ったより安いな」
俺は【確定】を押す。
すると、やはり仰々しい魔法陣が現れ、その中から猫耳と尻尾の付いた男が姿を現した。
……小太りのおっさんだった。
猫耳と尻尾が付いているせいで、何とも言えない見た目になっている。
(少しくらいDPを追加してでも、見た目に気を遣うべきだったか……)
そんなことを考えていると、小太りの猫人が深々と頭を下げた。
「こんにちは、ダンジョンマスター。ワーキャット派遣サービスより参りました、タルタルと申します」
派遣サービスなんだ。
「この度はご契約ありがとうございます。私はモンスターテイムを専門としておりまして、一度に五体まで使役可能です。短い契約ではございますが、よろしくお願いいたします」
丁寧だ。
これは今後も贔屓にしたくなる。
「なお、今回は100DPの少額契約ですので、請書・契約書の作成は省略しております。ご了承ください」
(ああ、やっぱり)
契約金額によって書類の有無まで変わるらしい。
細かいな、この世界。
「了解した。じゃあ早速だが、五体までテイムできるんだな?」
「はい」
「なら残り二体増やそう」
再びリストを開く。
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【リスト】
物品▼
* クリーンスライム 1DP
* キャリーゴーレム 5DP
* セラピーバット 5DP
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俺はキャリーゴーレムを選択した。
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キャリーゴーレム
運搬に特化したゴーレム。
戦闘能力はない。
必要数【2】
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【確定】
魔法陣が現れ、二体のキャリーゴーレムが姿を現した。
「おお! キャリーゴーレム!」
クロノスが妙に嬉しそうだ。
「……おい、クロノス」
「なんだ?」
「なんでお前、そんな嬉しそうなんだ?」
「失礼な!」
クロノスは胸を張る。
「お前が召喚してるモンスター、全部戦闘力ゼロだろ?」
「そうだな」
「だから他のダンジョンマスターには全然人気がないんだよ。こうやって召喚されると、管理神としてはちょっと嬉しいんだ」
「そういうもんなのか」
俺は肩をすくめた。
「タルタル。早速この五体をテイムしてくれ」
「承知いたしました」
タルタルは一歩前へ出る。
「――この土地に召喚されしモンスターよ。我に従え。【テイム】」
淡い光が五体を包む。
「はい。五体とも問題なく完了しました」
「それで、ご指示は?」
「じゃあ、この五体を連れて町へ行こう」
「モンスターを売って、ついでにダンジョンの宣伝だ」
「待て待て待て!」
クロノスが慌てて止める。
「このダンジョン、まだ何もねぇじゃねぇか! 一発で攻略されるぞ!」
俺は首を傾げる。
「どうやって?」
「そりゃ、お前を殺してダンジョンコアを――」
そこでクロノスの言葉が止まる。
「……殺して?」
「俺、このダンジョンにいる間は無敵だぞ」
「……あ」
「『人はダンジョンに危害を加えられない』って設定だからな」
「えぇ……」
クロノスは頭を抱えた。
「でも……えぇ……」
「まあ、さすがに地下室だけってのも味気ないし、そのうち階層くらいは増やすさ」
「ただの地下室じゃねぇか……」
クロノスは大きくため息をつく。
「……まあ、消滅しないならいいか」
タルタルと、その指揮下に入った五体のモンスターは、静かに次の命令を待っていた。




