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危害のないダンジョンです。潰さないでください。  作者: もりお


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2/10

先が思いやられるぜ…

クロノスの技なのか、魔法なのか、それともよく分からない何かで移動した俺たちは、気が付くと見渡す限りの平野に立っていた。


「ギリギリセーフってとこだな」


どうやら俺はギリギリで存在を保つことができたらしい。


ダンジョンの存続どころか、その前に俺自身が消滅するところだった。


「言いたいことはあるが……俺はここでダンジョンを経営するんだな?」


「そうだ。早速、ダンジョンの卵を作ろう」


「ダンジョンの卵?」


「そうだ。ダンジョンがいきなりバーンと生えるわけないだろ」


「いや、『生える』って……まあいいや。俺はその卵作りで何をすればいいんだ?」


「まずはコンセプトを決める」


「コンセプトか……うーむ……」


必死に頭をひねってアイデアを絞り出す黎二。しかし、いきなり素人がダンジョンのコンセプトを考えろと言われても、そう簡単には思いつかない。


「クロノス、なんかヒントをくれ」


「自分で考えろよ。お前の生命線だぞ」


クロノスは肩をすくめた。


「まあ、他のダンジョンマスターの例を挙げるなら【草原】【溶岩】【鉄】とかだな」


「むずいって……もっと!」


「欲張りめ。ダンジョン経営はハイリスク・ハイリターンか、ローリスク・ローリターンだ。何かを犠牲にすれば、その分だけ大きな対価が得られる」


そう言って人差し指を立てる。


「あと、他のダンジョンとコンセプトが被ってると卵は作れない。独創性も必要だ」


「なるほどな……」


少し考え込んだあと、俺は口元を緩めた。


「よし、決まった」


「早いな!」


「次はどうしたらいい?」


「両手を地面にかざしてこう唱えろ。


『クリエイト・ダンジョンエッグ コンセプト○○』


○○にはお前のコンセプトを入れればいい」


「オーケー。じゃあ――」


俺は両手を地面へ向ける。


「クリエイト・ダンジョンエッグ コンセプト【無害】」


その瞬間――


ズゴゴゴゴゴ……!


轟音とともに地面が割れ、地下へ続く石造りの階段が姿を現した。


「む、【無害】!?」


クロノスが目を見開く。


「何考えてんだお前!? これじゃ攻略者を迎え撃てねぇじゃねーか!」


俺は得意げに胸を張る。


「ふっふっふ。【無害】っていうのはな――」


「**ダンジョンは人に危害を加えない。そして、人もダンジョンに危害を加えられない。**そういう意味だ!」


クロノスは唖然とした。


そんな縛りは聞いたことがない。


ダンジョンとは存在そのものが脅威だ。


危害を加えないだけでも十分重い制約なのに、危害を受けないまで付けるなど、普通ならリスクとリターンが釣り合わない。


「お前……他にどんな縛りをかけた?」


「ああ。リスクが足りないと思って二つ追加した」


「何だ?」


「一つは、このダンジョン経営で利益を得ないこと。もう一つは、このダンジョンで生み出した物を俺自身は使えないことだ」


「利益を得ない!? 意味が分からん! 利益がなきゃどうやって生活するんだ!? ダンジョンマスターだって飯も食う、水も飲む! しかもダンジョン資源まで使えないって、水も飯も武器も作れるのに全部捨てるのか!?」


「何言ってんだ?」


俺は首を傾げる。


「給料はもらうぞ?」


「……は?」


「利益っていうのは最後に余る金のことだ。人件費は経費だから普通にもらう」


「…………」


クロノスの思考が止まった。


「地球にはNPO法人ってのがあってな。利益を構成員で分けないだけで、給料はちゃんと払われる。俺はその仕組みを使っただけだ」


言ってしまえば、自治体が公共施設の管理をNPOへ委託する指定管理制度みたいなものだ。


まあ、今は立場的に俺自身がそのNPOなんだけど。


どれだけ指定管理関係でNPO法人とやり合ったと思ってる。


「じゃあダンジョン資源は?」


「俺は運営者として使えないだけだ。必要なら他人から買う。売買まで禁止されたわけじゃない」


「…………」


クロノスはしばらく黙り込んだ。


「細けぇ理屈はよく分からんが……リターンが認められたなら問題ないんだろうな」


そう言って気を取り直す。


「ちなみに、人間がダンジョンに出入りしたり、泊まったりするとDP――ダンジョンポイントが貯まる」


「DP?」


「ダンジョンマスターはそれを使ってモンスターや鉱物、設備なんかを生み出せる。一番大事な資源だ」


「なるほど」


俺は頷く。


「交流人口と定住人口の増加だな」


「お前の言うことは時々よく分からん」


クロノスは苦笑した。


「とにかくDPを稼いで、それを使ってダンジョンを発展させる。それが俺たちの使命だ」


なるほど、なるほど。


それはつまり――


「なんて簡単な仕事だ……!!」


クロノスは大きくため息をついた。


「……お前、本当にそう思ってんのか?」


「もちろん」


「先が思いやられるぜ……」


そう呟いたクロノスの声を、平野を吹き抜ける風だけが聞いていた。

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