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危害のないダンジョンです。潰さないでください。  作者: もりお


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1/10

最初から地球に存在しないことになった。

「こんにちは~」


いつものように市役所の窓口業務をこなしていた。


相馬黎二(そうま れいじ)、二十六歳、独身、彼女なし。


顔は中の上。周囲からの評価も悪くない。それなのに、なぜか彼女ができない。


(公務員なのに……)


心の中でぼやきながら、今日も淡々と仕事を片付けていく。


すると、窓口に一人の老人が現れた。


そして開口一番、こう言った。


「お前、ダンジョンマスターやれよ」


「……え?」


いきなりのダンジョンマスター任命に戸惑う黎二。


だが老人はそんなことなどお構いなしに話を進める。


「俺な、異世界のダンジョンを管理してるクロノスっちゅーんだがな。最近、この世界のこの国から来た勇者どもにバンバンダンジョン潰されてるんだわ」


「はぁ……」


「そこでな。対抗策として、ダンジョンマスターにもこの国の人間を据えようって話になったわけよ。んで、選ばれたのがお前だ。おめでとう」


「は? え? あ、いや、え?」


聞きたいことは山ほどある。


だが、その中でも真っ先に出てきたのは一つだった。


「なんで俺なんだ?」


「運、だな」


理不尽だった。


だが同時に、最大限公平な選出方法でもあった。


「いやいやいや! 俺が急に消えたら周りの人が不思議に思うだろ!? 家族とか、友達とか!」


実際、友達は少ない。


だが数人はいる。


「その辺は大丈夫だ。こっちの世界の神に話はつけてある」


「は?」


「お前は元々この世界に存在しなかったことになる。ていうか、もうなり始めてる」


「マジかよ……」


「マジだ」


外堀どころの話ではない。


敷地ごと全部埋められていた。


もう逃げ道なんてどこにもない。


「……わかったよ。不本意ではあるが、ダンジョンマスターをやる」


「おっ、話が分かるねぇ。まあ、受ける以外の選択肢はなかったわけだけど」


「はぁ……。それで、俺はどこの世界で何をすればいいんだ?」


「俺の世界――【エンゲルス】でダンジョンマスターをやってもらう」


クロノスはそう言って指を一本立てた。


「任期は無限。お前が死ぬまでだ」


「なるほど。つまり俺はダンジョンマスターとして、その勇者を倒せばいいんだな?」


「いや? 倒さなくていいぞ?」


「ん?」


予想外の返答に黎二は首を傾げる。


「倒す必要はねぇ。ただ、ダンジョンを存続させ続ければいい」


「簡単じゃないか?」


「そうでもねぇんだよ」


クロノスは肩をすくめた。


「ダンジョンってのは人間からすれば危険な存在だ。スタンピードって現象があってな。一年に何度か、ダンジョンから制御しきれない数の魔物が溢れ出す」


「なるほど」


「それが人間社会に被害を出す前に、原因ごと潰しちまおうって流れがあるわけだ」


「つまり――」


黎二は少し考える。


「俺が長期間存続できるダンジョンを運営して、そのノウハウを集めたいってことか」


「察しが良くて助かるぜ。まあ、そういうこった」


「はぁ……」


大きくため息をつく。


だが、ここまで来たら腹を括るしかない。


「じゃあ、行くか……」


「そうだな。あんまり長くここにいると、お前の存在が消えちまうし」


「は!? おまっ、それを先に言え!!」


黎二の悲鳴が市役所に響くことはなかった。


その瞬間、相馬黎二という人間は――


最初から地球に存在しなかったことになった。

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― 新着の感想 ―
市役所ですか。「日曜版だけでも」と無理矢理新聞を買わされるんですよね。そして「エンゲルス」……真っ赤な恒星「マルクス」を周回していそうな世界名……。
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