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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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9/10

香苗の夜と朝


 「あーあ」


 ロフトにあるベッドで香苗は仰向きになりながら呟いた。隣の部屋には聞こえないけど、自分の部屋には響く大きさで。


 目はぱっちりと開き、暗闇に慣れてしまったためか天井の顔に見える節がよく見える。


 「多分時刻2時30分。目はぱっちり」


 布団に入った時は2時ぐらいだったので、今は2時30分ぐらいだろう。


 香苗は壁がけ時計に目をやる。暗闇に目が慣れているため、今はもう動かない時計の秒針がよく見えていた。


 針は時刻6時のままだが、今は夜6時でも、朝6時でもない。あの壁がけ時計はもう4年は前に電池が抜かれている。


 香苗が好きな時間6時のまま動かない。


 最近、睡眠バランスが崩れていた。特に嫌な事があったわけでもないし、調子が崩れた訳でもない。


 それでも、夜2時に寝て12時に起きるを繰り返してしまう。そのバランスをもとに戻す方法を香苗は知っていた。


 (早く、ベッドに入ればいいんだよねー)


 香苗はベッドに入ればすぐに寝られてしまう人だ。


 今だって、目を閉じて無心になれば5分後には寝息を立てているだろう。ただ、寝たくないな、と思えば起きていることは可能だった。


 「寝たくなくても、寝なきゃいけない日ってあるって言うけどさー。寝たくないから寝ないっていうのはわがままって言うけどさー」


 香苗は呟く。明日は涼花が初めてフリースクールテントに来る日だ。流石に涼花をけしかけた手前、香苗は行かなければいけない。

 

 「ちょっとぐらい、大目に見てやってくれませんかねー」


 やる気がない日が大半だけど、今日は寝られない日だってある。

 本を読む活力もないけど、眠る勇気も、手帳を開く気力も、ないけど明日もちゃんと笑うから。


 それだけで許して欲しい。


 目をつぶった香苗は、久しぶりに一昔前の夢をみた。


 ◇◇◇


 『うわーん、うっうう』


 目頭が熱く、どくどくとなる心臓が不愉快だった。流れ出た涙が床に小さな水たまりを作る。小学1年生の少女――香苗は自分の部屋のフローリングの上で泣きじゃくっていた。


 目の前はぼやけて何も見えない。曇りで暗い部屋は不気味で、自分の部屋じゃないみたいだ。香苗は泣きながら自分を抱きしめるように両肩に手をまわした。


 辛く、辛く、辛い。


 全部が自分に牙を向いているように見え、逃げる所はない。自分の中を流れる負の感情が何より恐ろしい。何をしてしまうか分からないから。


 負の感情が自分を支配してしまいそうで、何ならもう支配しているから。


 恐ろしかった。


 『なんで、私は泣いているの!』


 香苗はまだ小さな手で目元を拭い、嗚咽が漏れる口元を押さえながら言う。


 理由も思い出せないような小さな出来事、ご飯に苦手な野菜が出てきたぐらいのちっぽけなことで泣いていたはずだ。


 『色々我慢してたから、我慢できなくなっちゃったのかな』


 学校に行っている人には負けたくないから勉強しよう、友だちがやりたがってるから譲ってあげよう、これをやると変だからやめておこう、ママ困らせないようにお風呂ぐらい一人で入れるようにならなきゃ。


 『もう嫌だ!』


 幼い香苗は大声で叫んだ。全部は小さな積み重ねだが、それが積もり爆発してしまった。人の目を窺い、自分を律し、人を助ける、そんな生活に、人生に。


 『みんなみんな困ればいい!私はもう、こんな辛いの我慢できない』


 ――人を傷つけてでも、自分が平和でいられるのなら、それでいいと思った。

 それで、自分が自分でいられるなら。負の感情が、自分を支配しないのなら。

 

 ――それがいいと思った。


 ◇◇◇


 けたたましいアラーム音が耳に響く。スマホのアラーム音を手の感覚だけで停止する。寝ぼけ眼のまま布団に座った。


 (今日は久しぶりに昔の夢を見た)


 そう思ったところで、香苗は笑みをこぼした。

 

 今日見た夢は昔、香苗が悪夢と呼んでいた夢だった。


 だが、いま香苗は()()であった()よりも目が腫れていないかが気になっている。もう一度ふふっと笑うと香苗はスマホを手に取る。


 「目腫れてませんように」


 寝た時間と言えば5時間もない。香苗はおそるおそる、スマホのカメラ機能を起動させる。


 「げっ」


 残念ながら予想通り目は腫れていた。コンシーラーかなにかで、どうにかしなきゃいけない。

 

 (朝早いのに・・・)  


 香苗は気合を出してベッドから降りた。 


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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ご拝読ありがとうございました!!!

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