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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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7/10

メロンクリームソーダ

 涼花の水色のワンピースが梅雨のもわっとした風になびく。そろそろ、梅雨も明けてくる頃だろう。天気痛が酷い涼花にとっては嬉しいことだった。


 涼花は目の前にあるカフェの古風な看板を見上げる。何度か来たことがある店だが、こんなにマジマジと観察したことはなかった。


 (緊張しているのか)


 涼花は他人事のように思う。そして、息を吸うとドアに手をかけた。シャランとドアベルが涼しい音を奏でる。店内を見渡すと既に2人――香苗と絢斗は席に座っていた。店員に待ち合わせと伝え「ブラックコーヒーをあそこの席に」と言っておく。


「涼花ちゃーんおっはー!」

「うん、おはよう」


 どこにいても香苗は香苗だ。かっちりとしたチェックのジャケットを着た香苗はいつもより大人っぽい。


「涼花、おはよう」


 絢斗はニコッと美丈夫な顔を和ませて言う。ロンTにジーパンという軽装だが、雑誌に出られそうなのは彼の顔のおかげだろう。


 ほんの数ヶ月前に会ったばかりなのに懐かしいと感じてしまう、声変わりが済んだ少し低い声は涼花の心に染み込んでいった。


「おはよう」


 涼花は挨拶を返すと香苗の隣に腰掛ける。香苗は香水をつけているらしく近づくとフローラルな香りがする。いい匂いなので今度教えて欲しい。


 カフェというより喫茶店に近い店内は趣があり、可愛らしい。固めのプリンが売りで、店内にはさくらんぼが乗ったプリンの写真が置いてある。その横にはプリン・ア・ラ・モードの写真も置いてあるが、そっちの方は値段的に手が出せなそうだ。


 プリンに気を取られつつ涼花は絢斗に向かい直る。


「待った?気まずかったよねごめん」


 涼花は手のひらを合わせて絢斗に謝罪する。


 香苗と絢斗は初対面である。絢斗は意外に人見知りなので気を使ったろう。本当なら涼花が早めに着いているべきだったのだが、どうも心の整理がつかなかった。


「いや、ほんの5分前についたばっかりだから」


 絢斗は気にするな、と笑んで見せる。


「涼花さんー?私の方には気遣いしてくれないんですかねぇ?」

「香苗ちゃんは大丈夫」


 涼花はこの前香苗と買った星座のネックレスを手でいじりながら考えを張り巡らせる。ちなみに香苗もお揃いのネックレスをつけていた。今日、香苗は鎖骨が見えるデザインのインナーにジャケットを着ているので、肌にネックレスが映えている。細部まで計算されているようだ。


 (絢斗に香苗のことは大体LINEで説明したのでそのことについては説明しなくてもいいでしょ?なにを話せば)  


 涼花はちょっと良くわからなくなってきたので、とりあえず挨拶をする。


「久しぶりだね絢斗」

「数ヶ月会ってなかったもんな」


 本題に入ろうとすると店員がお盆を持ってやってくる。お店のロゴが入った茶色のエプロンを着た店員は微笑む。向こうは覚えてないだろうが、何回か会ったことがある店員だ。


「失礼致します。コーヒーのお客様?」

「はい」


 涼花は答える。香ばしい香りを称えた漆黒のコーヒーは白い湯気が上がっていた。何回か来たことがあるのでここのコーヒーの美味しさは知っている。酸味がありながらもまろやかでフルーティーなブラックコーヒーはここに来たら絶対に頼むと涼花は決めていた。


「紅茶のお客様?」

「はい」


 絢斗は若干声を弾ませて答えた。紅茶のカップに鼻を近づけて香りを嗅いでいる。トロンとした瞳で恍惚の表情を浮かべる彼は、外に出せる代物で無いことに間違いないだろう。


 涼花もコーヒーが好きな方ではあるが、絢斗は相当な紅茶マニアである。前に茶菓子に合う紅茶を聞いたところ2時間紅茶談義を聞かされたことは忘れない。あれ以来紅茶を聞く時はLINEで、と涼花は決めている。


 少し前の事を思い出して涼花はふふっと口元で笑い、コーヒーに口をつける。


「メロンクリームソーダのお客様?」

「はーい」


 コーヒーを口に含んでいた涼花は噴き出しそうになる。お盆の上に乗っているメロンクリームソーダは別の誰かのものだと思っていたのでびっくりしてしまった。これから、ちょっと真剣な話をするのにメロンクリームソーダを頼むやつがいるか、と涼花は思う。


 絢斗はそんな事を気にするたちじゃないので驚いていない。


 (なにを頼むかは自由だけども)


 涼花は楽しそうにメロンクリームソーダを見つめる。キラッキラした瞳はまるで小学3年生。ちなみにこれはいい意味ではない。


 流石に本題に早く入りたい。涼花はリップが塗られた唇を開く。


「今日は話がしたかったんだけど」

「うん」


 絢斗は静かに頷いた。絢斗の紅茶に釘付けになっていた瞳は真っ直ぐに涼花の瞳を見据える。


 絢斗のそんな視線を欲しがっている女子は5万といよう。だが、絢斗は涼花を見てくれる。涼花はそれに優越感とはまた違う独占欲のようなものを見出していた。


「私はもう、中学に戻る気はない」


 湿っぽい空気の中で香苗がずずっとメロンクリームソーダを飲む音が響く。

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