旅の思い出ネックレス
「おはよー」
「おはよう」
美術館の紙袋を持った香苗は相変わらずの間延びした挨拶だった。涼花は普通に挨拶を返す。
香苗はここに来る前に美術館に行っていたらしく、原宿でも美術館でも浮かないワイドジーンズと白のシースルートップスを着ている。
涼花は膝丈の花柄のワンピースに香苗と同じくワイドジーンズを履き黒の斜めがけショルダーバッグを掛けていた。
香苗も涼花も薄っすらとナチュラルメイクを施しており、それなりに整った顔をしている2人はどこから見ても可愛らしい少女であるのは間違いない。
(美術館に行ってたから現地集合だったのか)
香苗と涼花の最寄りは同じである。にも関わらず現地集合だったことに涼花は不思議を感じていたがその前に予定があったのなら不思議じゃない。
(私が美術館あんまり好きじゃないの覚えてた?)
図書館や本屋は別としてシーンとしているところが苦手な涼花は美術館はあまり得意ではなかった。一度、苦手って話したかもなと涼花は思い出す。
「よし!クレープ食べよう」
「いいよ」
最初からクレープですか、と思った涼花であったが美術館云々の事をさり気なく覚えておいてくれたことにささやかな感動を覚えていた。そのため、最初からクレープですか、というどうでもいい言葉を飲み込むにあたった。
竹下通りは何度か来たことがあるが、休日より若干空いているぐらいだ。学生はあまり見かけられずいたとしても大学生ばかりで、年齢層は高めだ。
クレープに並んでいると甘い香りが鼻につく。
「香苗ちゃんはなににするの?」
「私はお食事系だね、生クリーム無理だから」
「私はチョコストロベリーレアチーズケーキ生クリームトッピングチョコスプレーがけにする」
「注文長いなー、スタバとかでも注文長い方?」
「いや?スタバ行かないから」
他愛のない会話をしていればすぐに順番になる。
涼花が呪文を唱えると香苗は「ツナマヨ」と大変短く店員に伝える。涼花のときはメモを取っていたのにも関わらず、香苗の時はメモなしだった。
クレープを受け取り食べ歩きをしながら竹下通りを歩く。途中、客引きに目をつけられ話しかけられたが、ガン無視をしながら歩く2人は中高生の手本という他ない。
涼花の生クリームたっぷりのクレープと香苗のツナマヨクレープが紙だけを残してなくなると2人はアクセサリーショップに入る。
「かわいい、かわいい」
涼花はラッピング越しにネックレスを付けて見せる香苗に心からの称賛を送る。星座のモチーフで作られたネックレスは大変可愛らしく、それなりに安価だった。
「涼花ちゃんは何座だっけ?買ったら?」
涼花はチラリとふたご座モチーフのネックレスを見る。涼花は少し顔を曇らせていた。喉から手が出るほど欲しいとは言いすぎかもしれないが涼花はそのネックレスを欲していた。ただし、躊躇してしまう。
そして、けっして金がないわけではない。
(別に買えばいいのにね)
涼花は心のなかで独りごちる。今は平日、そして真っ昼間。丁度給食の時間ぐらいだろうか。体内時計に刻み込まれた時間が頭をよぎってしまう。原宿に行くと親に言い出す時もまともに顔を見て言えなかった。
突然肩に手を置かれた。どんどん、と励ますように香苗が肩を叩く。
「学校に行かなくなってから初めて平日遊びに行ったのはカラオケだったんだけどね。それで、何だか私こんなことやってていいのかって思ってー、でね、十五の夜を歌ってるときに思ったんだけど」
いい話をしてくれているらしい、と思いつつも渋い選曲するなと涼花は思ってしまう。
「いや、犯罪じゃないしって。いやさ、死ぬこと以外はかすり傷って言うじゃん、だから、犯罪しなけりゃ優等生って」
香苗の持っている小さなカゴには、シュシュやら、イヤリングやら、ネックレスやらがはみ出している。
何だかくだらなくなってきた。涼花はふたご座のネックレスをかごに入れた。
ベテラン不登校生香苗って豪語するだけあるなぁ、と思ってしまったのは何だかムカついたので言わないでおいた。
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