ベテラン不登校生、香苗。
「綺麗にしてるね」
香苗はしげしげと涼花の部屋を見渡す。ウインドブレーカーを脱いだ香苗は黒のモード系のセットアップを着ていた。動くたびにキラキラとイヤリングが揺れ、手にはピンキーリングをはめている。ただ、装飾類を付けすぎてクドくなっている訳ではなく上品な可愛らしさがあった。
対して涼花は部屋着だ。よく分からないグレーのTシャツに異国情調あふれる変な模様の黒いズボンを履いている。
「普通だよ。これクッキーとジュース」
自分の着ている服が今更ながら恥ずかしい思いにかられながら、今更着替えるわけにもいかず涼花はささっとブランケットで黒いズボンを隠す。
「おっ!ありがとう」
香苗はクッキーを口に運すると至福そうな笑みをこぼした。昔と味覚は変わらないらしい。昔からシンプルなプレーンクッキーを好んでいる香苗は小説のお供にいつも食べていた。
「それで、なんだけど。私の話誰から聞いた?」
クッキーをまた一つ口に運んだ香苗に涼花は口にこわばりを感じつつも問いかける。クッキーをジュースで飲み干すと香苗は口を開いた。
「由美ちゃんからLINEが来て。どうして学校こないか聞いて欲しいって」
(やっぱり、由美ちゃんか)
由美は香苗と涼花の共通の友人で、小説鑑賞会を発足した人物である。涼花と中学小学と一緒で、香苗は保育園が一緒だったようだ。
「だから・・・来たの?」
由美はけして悪い人間じゃない、ということは涼花もよく理解していた。きっと心配で香苗に理由を探ってくれと言ったに違いない。少々先走りグセと友達思いが過ぎるが故の重さは感じたが現在はクラスも離れているため、丁度良い距離感が掴めていた。
由美が知っている理由としては、結構な人気者であった涼花の噂はすぐにながれる。
ただし、たとえ涼花を思ってくれた行動だったとしても涼花は学校に行かない理由など言うつもりもなかったし、簡単に説明できるようなことではない。
今から来たる学校に行かない説明として無難な物を涼花は頭で考えていると香苗が言う。
「違うよ、私は涼花ちゃんに無理やり聞いたりすることはないし、理由を聞きに来たわけじゃない。私は遊びのお誘いに来たの同じ不登校同士ね」
「ごっほごほ、へ?」
ジュースを飲んでいた涼花はびっくりして咳込んでしまう。涙目になりながらも頭の中はぐるぐると回転する。
(同じ不登校同士って言った⁉)
「私立通ってるんじゃないの?」
香苗は有名私立に行ったはずだ。それはもう、周知の事実だったし、特に誰も言及するようなことはない。ただ、香苗の通っている私立がどこだと聞かれれば分からないが。
「あーあれね。多分それ誰かの憶測だね。私に「通っている所はどう?」って聞かれて「楽しいよ!」って言ったからその通っているところが私立の中学だと勘違いしたんだと思う。本当はフリースクールだよ」
「学校行ってないの?不登校生ってこと?」
「ううん、私はただの不登校生じゃないよ?今年で8年目のベテラン不登校生、香苗だから」
香苗は首を振り、ドヤ顔を決め込んで言う。
香苗と学校の事を話したことはなかった。いつも小説感想会をやっていたので小説の話ばかりだ。だから、行っていないことを知らなくてもおかしくはないか、とほんの少しだけ涼花は納得する。ほんの少しだけだが。
(8年って!小1からってこと?)
涼花は幼い頃から習っているそろばんでつちかった計算力をここぞとばかりに活かす。
「聞きたいことがあったら何でも教えるよ!私の行っているフリースクールのこととかね、だけどまずその前に原宿行こうよ」
「なぜ、そんなに原宿にこだわる?」
情報量が多くて頭がパンクする、と涼花は頭を抱える。
「私の友だちは同じフリースクール行ってるんだけど、週5行ってるからさ平日空いてないのよ。で、原宿って平日すいているからさ行きたくて」
「香苗ちゃんは週5行ってないの?」
「私、週5行ったら爆発するから」
「そんな馬鹿な」などと軽口を叩こうとすると香苗が真剣な顔をしているのに気づき、涼花は真面目に受け取っておく。
香苗はスマホの時間を見ると飛んで立ち上がった。急な行動に涼花はジュースをこぼしそうになる。「明後日、駅に11時集合ね!」と一方的に決めた予定を香苗は叫ぶとピンク色のウインドブレーカーを羽織って走り去っていった。
(私、外出られるのかな)
ちゃんと口角を上げられるだろうか、笑えるのだろうか。と不安を募らせながら、涼花は洋服選びに取り掛かった。
た。
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雨の日は傘をさしてに続いて、ベテラン不登校生、香苗。をご拝読頂きましてありがとうございます!!




