番外編 絢斗の気持ち。
シャランと音を鳴らして、絢斗は古風な看板の下をくぐった。紅茶の香り、特にアッサムティーの濃厚で甘い香りが絢斗を迎える。
「何名様でご来店でしょうか?」
茶色のエプロンを首に下げた店員が営業スマイルで近づいてくる。
絢斗は手で3を作り、ちらっと時計を確認する。随分早く着いてしまった。
「人を待つ予定で、3人です」
「では、窓際の席どうぞ」
案内され、絢斗は窓際の席に座る。壁に掛けてある写真には堅焼きプリンが美味しそうに輝いていた。
「ご注文はいかがされますか?」
「アッサムティーストレートでミルク別添えでお願いできますか?」
「もちろん可能です」
「あとプリンも追加で」
店員は頭を下げ、店の奥へと向かっていく。
この喫茶店はこの前、涼花と香苗と話している時と同じ場所だ。紅茶もなかなかレベルが高いというのも絢斗がここを気に入っている理由の一つだ。
そして、同年代の女子がいないというところも絢斗がこの店を好む理由だった。
昔から、同年代の女子というのが苦手だった。
女子に好かれれば、周りから友だちが離れ、やっかみが増える。やることなすことイメージ作りだと揶揄される。
――1回付き合って!
――お試しでもいいので、付き合ってください!
――恋がどんなものか教えてあげる!
そんな、ドラマや漫画でしか見ないような言葉で始まった付き合いはまた、言葉で終わる。
――すごい優しいけど面白みがないよね。
――私のこと好きじゃないのに優しくしないでよ!
――え?イメージと違った。
まったく、その通りだった。
さして、面白みもなく、イケメンを冠しただけの名折れ。
心をえぐるだけえぐって、最終的に責任を取れず、素でいようとすれば幻滅される。
絢斗はきっと自分は恋という感情を理解することはないのだろうと思っていた。
「失礼致します。」
物思いにふけっていると、紅茶が届く。
「アッサムティーミルク別添えとプリンです。」
ふわふわと湯気が立ち上り、熱々の紅茶が芳香をまとって現れた。
「ありがとうございます」
茶器の縁には茶葉の質の良さを表すゴールデンリングが浮かんでいる。
ここの喫茶店ではミルクティー用の茶葉のため、ゴールデンリングが出にくいはずだ。
だが、ブレンド茶葉ではなくアッサム単体の茶葉だったらしい。深いオレンジ色の、ゴールデンリングを堪能できた。
絢斗はプリンに視線を落とした。プリンは食べることなく、目の前の席に寄せる。
どんな時も彼女のことを考えてしまう。彼女の前なら自分らしくいられて、心地が良い。そして、彼女のことばかり考えてしまうのがたまらなく楽しい。
それが、初恋でないのなら、何というのだろうか。
絢斗は涼花が食べたそうにしていたプリンを眺めながら紅茶をすすった。
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