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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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スパイ

 「何か悩んでるんだったら、相談しなーね」


 無理にとは言わないよー、と付け加えた香苗はほんのりと笑った。


 香苗は大きく口を開けて、パクリとアメリカンドッグを頬張る。


 悩み事を抱えているか、という問いに悩んでいる涼花は2日前のことを思い出す。



 ◇◇◇


 

 人が起こす行動一つで、人の1日がガラッと変わることがある。人が言った一言で、一日中上手くいかなかったり、人のメールひとつで、落ち込んだりする。


 平日の昼間に1人でお昼を取ることが習慣化しつつあった普通の1日。涼花は自分で作った冷麺を啜ってTVを見ていた。


 バイブ音が机を伝い、名前が表示された。そこまでは普通だ。


 ――桜木 玲、と表示されていた。


 {涼花ちゃんの友達に聞いて追加しちゃった!勝手にごめんね、謝りたいから会えないかな?今週の日曜日はどうかな?}


 「謝る気さらさら無さそうだけど?!」


 悪態が口からついて出たのは久しぶりだった。スマホを持ちながらしばし涼花は強気な気持ちでいた。


 中学の涼花の友人に聞いて勝手に追加したというLINE。玲と連絡先をとっていなかったのが唯一の救いだと思っていた。


 プロックしようか、どうしようか。


 悩みに悩み、スマホの前で怖気ついた。強気な気持ちはほんの一瞬だった。



 ◇◇◇


 

 そのメールはまだ、返せてない。


 誰にも、悩んでいる事などおくびも出さないようにしていたのに、なぜ、香苗にバレたのだろうか。


(香苗ちゃん、間諜スパイなのか?)


 「あっ、ちなみにー、スパイじゃないよー」


 涼花の疑惑が、ますます深まる。


 香苗はもう一度、アメリカンドッグを口に入れ、頬を綻ばせる。


 ――悩みは相談した方がいいか。


 大なり小なり相談事は相談した方がいいという人や、人と話しても理解してくれないから話さないという人がいる。


 涼花がどちらに近いかといえば後者の方が近しい。


 人に話して、共感してくれなかった場合や、アドバイスがはまらなかった時。気持ちを理解してくれず、モヤモヤすることが多い。それに、人に悩みを伝えて、相手も重い気持ちになる場合もある。


 そんなんなら、相談なんて、と涼花は思ってい《《た》》。


 共感してくれなくても、アドバイスがハマらなくても、気持ちを理解してくれなくても、人に悩みを伝えて相手が重い気持ちになっても。


 なにか問題があるだろうか。


 (もし、理解してくれなくても、私は立ち直る自信がある)


 そして、その自信をつけてくれたのは香苗で、彼女にならなんでも話せる気がした。


 涼花はオロナミンCを口に運び、飲み込むと口を開いた。


 「桜木ちゃんからメールが届いて」


 香苗はたいして驚いたことも無く、アメリカンドッグで口をぱんぱんにしながら頷く。


 「会えないかなって、言われた」

 「涼花ちゃんはどうしたいの?」


 やっと口の中の物を飲み込んだ香苗は穏やかに言った。爽やかな風が涼花の髪を撫でる。


 会わないという選択肢の方が穏やかで、逃げるが恥でもためになるという通り、そちらの方がいいのだろう。


 「私、勝てると思うの」


 そんなことを思っちゃダメだろうか。勝ち負けの問題じゃないだろうか。


 それでも言い返してやりたいと思うのは安定よりそちらを選ぶのは果たして間違いなのだろうか。


 「絢斗くんも呼んで作戦会議だねー!私、スイパラ行きたーい!」

 「却下」

 「ガーン」


 大袈裟に項垂れて見せる香苗は本当に落ち込んでいるようだった。



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