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異世界落胤セラ ~ポセイドンに捨てられた俺は、救うたびに誰かを溺れさせる~  作者: マーたん


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第八話:

信じることは、強さではない。

時にそれは、最も脆い祈りになる。


助けられた者は感謝する。

だが災いが起これば、同じ口で石を投げる。


人とはそういうものだと、神々は笑うだろう。

愚かで、弱く、移ろいやすい存在だと。


けれど――


それでも誰かを信じたいと願う心もまた、人の中にある。


セラはこれまで、敵意や拒絶には慣れていた。

神々からも、血縁からも、世界からも。


だがこの章で彼が知るのは、もっと静かで深い痛み。


信じた場所に疑われること。

守りたい者たちに恐れられること。


そして、笑顔の裏に刃を隠す者が現れる。


弟か。

使者か。

あるいは王座を狙う蛇か。


波は外から押し寄せるだけではない。

内側からも、堤を崩していく。


これは、絆が試される章。

そしてセラが初めて、怒りを選ぶ章である。

第八章:裏切りの潮騒


―波は、内側から崩れる―


 


嵐の前の朝だった。


 


空は晴れている。

風も穏やか。

村人たちも、いつも通り畑へ向かっていた。


 


だがセラは、井戸の前で空を見ていた。


 


「……臭う」


 


「何が?」


 


背後からリナが来る。


 


籠を抱え、首を傾げていた。


 


 


「海だ」


 


 


この地に海はない。


 


だが確かに、潮の気配が近づいていた。


 


 


リナは少し顔を曇らせる。


 


「また、あの弟?」


 


 


セラは答えない。


 


だが沈黙が、答えだった。


 


 


 


その昼。


 


村の井戸水が、突然黒く濁った。


 


 


「なんだこれ!」

「飲めねぇぞ!」

「臭い……!」


 


 


村人たちが騒ぎ出す。


 


水面には泡が浮き、魚の腐ったような悪臭が漂っていた。


 


 


村長ガイウスが怒鳴る。


 


「誰か井戸に毒を入れたのか!?」


 


 


その瞬間。


 


村人の一人が、セラを見た。


 


 


「……こいつが来てからだ」


 


 


静まり返る広場。


 


 


「水を出したのもこいつだ」

「その水が呪われてたんじゃ……」


 


「神の子なんだろ? 災いも呼ぶんじゃねぇか」


 


 


疑いは、一度生まれると早い。


 


セラを囲む視線が変わっていく。


 


感謝から、恐れへ。


 


恐れから、敵意へ。


 


 


リナが前に出た。


 


「ふざけないで!」


 


「セラが何度助けたと思ってるの!」


 


 


「でも現にこうなってる!」

「お前、こいつに肩入れしすぎだ!」


 


 


リナの表情が固まる。


 


 


その時だった。


 


広場の端から、穏やかな拍手が響く。


 


 


「見事です」


 


 


現れたのは、海色の髪の青年。


 


優雅な足取り。

整った笑み。


 


 


トリートーン。


 


 


「人はいつの時代も同じですね」


 


「少し揺らせば、簡単に割れる」


 


 


リナが睨む。


 


「……あんた!」


 


 


トリートーンは肩をすくめる。


 


 


「誤解しないでください。私は助けに来たのです」


 


「この村の水を清めるために」


 


 


彼が手をかざすと、濁った井戸水が青く澄み渡る。


 


村人たちが歓声を上げた。


 


「すげぇ……!」

「本物の神だ!」

「助かった!」


 


 


セラは黙って見ている。


 


やはりそうだ。


 


濁らせたのも、清めたのもこいつだ。


 


 


「兄上」


 


トリートーンが振り向く。


 


 


「あなたは人に近づきすぎた」


 


「だから嫌われる」


 


 


「……最初から、お前の仕込みか」


 


 


「仕込みとは失礼な」


 


弟は笑う。


 


 


「私は人の本性を少し早く見せただけです」


 


 


 


村人たちの視線が再び揺れる。


 


今、助けたのはトリートーン。

疑われているのはセラ。


 


誰が味方で、誰が敵か。

単純な話ではなくなっていた。


 


 


その時。


 


一人の女がトリートーンの横へ歩み寄る。


 


 


村人たちがざわめく。


 


 


「……リナ?」


 


 


セラの目が細まる。


 


そこにいたのは、確かにリナだった。


 


だが表情は冷たい。


 


いつもの笑顔がない。


 


 


「ごめんね、セラ」


 


 


広場が静まり返る。


 


 


「最初から、私はこの人に頼まれてたの」


 


 


セラの心臓が一度止まったようだった。


 


 


「村に入り込んだあなたを監視するようにって」


 


 


トリートーンが優しく彼女の肩に手を置く。


 


 


「彼女は賢い」


 


「人間として生きる道を選んだだけです」


 


 


村人たちは息を呑む。


 


セラは何も言わない。


 


ただ、リナを見る。


 


 


彼女の瞳が、一瞬だけ揺れた。


 


だがすぐに伏せられる。


 


 


「……そうか」


 


 


それだけだった。


 


怒りも叫びもない。


 


その静けさが、かえって痛かった。


 


 


トリートーンは満足げに笑う。


 


 


「兄上。人は裏切ると言ったでしょう?」


 


「愛らしいものほど、簡単に」


 


 


その瞬間――


 


 


リナの肘が、弟の鳩尾へめり込んだ。


 


 


「がっ……!?」


 


 


広場が凍る。


 


 


リナはそのままトリートーンの足を払って地面に転がし、胸ぐらを掴んだ。


 


 


「誰があんたの女よ、このナルシスト海藻野郎」


 


 


沈黙。


 


 


セラが初めて目を見開く。


 


 


リナは怒鳴った。


 


 


「演技に決まってるでしょ!」


 


「セラが傷つく顔したから、もう限界!」


 


 


トリートーンは咳き込みながら笑った。


 


 


「……なるほど。面白い」


 


 


「だが、兄上はもう疑われた」


 


「この村に亀裂は入った」


 


 


村人たちは互いに顔を見合わせる。


 


確かに、疑った。

確かに、責めた。


 


その事実は消えない。


 


 


セラはゆっくり前へ出る。


 


 


「……終わりか」


 


 


地面が震える。


 


井戸の水が浮かび、巨大な槍となって空へ伸びた。


 


 


「次は、外さない」


 


 


トリートーンは立ち上がり、口元の血を拭う。


 


 


「やっと神らしい顔になった」


 


 


海霧が広場を包む。


 


彼の姿が消えていく。


 


 


「また来ます、兄上」


 


「次は父上の名のもとに」


 


 


霧が晴れた時、弟の姿はなかった。


 


 


 


広場に残されたのは沈黙だけ。


 


村人たちはセラを見られない。


 


リナだけが近づき、そっと手を握った。


 


 


「……ごめん。黙ってて」


 


 


セラはしばらく黙り、やがて答えた。


 


 


「……少しだけ、本気で傷ついた」


 


 


「え」


 


 


「お前があいつの女なら、趣味が悪いと思った」


 


 


リナは一瞬ぽかんとし、次の瞬間吹き出した。


 


 


「なによそれ!」


 


 


笑い声が戻る。


 


だが、村の亀裂は残ったままだった。

この章の真相


セラの敵現る


→ 表向きは トリートーン。

だが背後に ポセイドン の意志がある可能性大。


ポセイドンの刺客か?


→ トリートーン自身が使者兼実行役。父の命令も、自分の野心も混ざっている。


トリートーンの陰謀?


→ 村人にセラへの不信感を植え付ける心理戦。


リナはトリートーンの女?


→ 完全な偽装工作。リナの演技でした。

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