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異世界落胤セラ ~ポセイドンに捨てられた俺は、救うたびに誰かを溺れさせる~  作者: マーたん


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第七話:

登場人物


セラ


本作の主人公。

神の子として生まれながら、神々にも人にも居場所を持てなかった少年。

ルナ村での暮らしを通じて少しずつ感情を学び、リナの存在を特別だと意識し始める。

弟トリートーンとの再会により、捨ててきた過去と向き合うことになる。



リナ


ルナ村の少女。

明るく真っ直ぐで、孤独なセラの心を自然に溶かしていく存在。

第七章ではセラとの距離が一気に縮まり、彼にとって「帰る場所」の象徴となる。



アルテミス


月と狩猟を司る女神。

セラの失われた過去に深く関わる存在。

リナと寄り添うセラを見て、自ら身を引く決断をする。

その胸には嫉妬と、誰より深い愛情が残っている。



トリートーン


セラの弟。

海の神に愛され、正統な後継者として育てられた青年。

礼儀正しく穏やかな顔をしているが、内には強い選民意識と兄への複雑な感情を抱える。

味方を装って現れるが、その本心は別にある。



ポセイドン


海の王。

セラを拒絶し、トリートーンを溺愛する父。

その判断が兄弟の運命を大きく歪めた。

第七章:女神の嫉妬


―偽りの味方―


 


夏の風が、村を優しく撫でていた。


 


盗賊団の襲撃から数日。

ルナ村には、久しぶりに穏やかな時間が戻っていた。


 


畑には笑い声があり、

井戸には水を汲む列ができ、

子どもたちはセラの後ろをついて歩く。


 


「兄ちゃん、また水の剣見せて!」

「こら、困らせるんじゃないよ!」


 


セラは無言のまま歩く。


 


だが、以前のような冷たさはなかった。


 


子どもが転べば手を貸し、

荷物を持てずにいる老人がいれば自然に運ぶ。


 


村人たちは口々に言った。


 


「変わったな、あの兄ちゃん」


 


 


 


「ねえ、セラ!」


 


リナが駆け寄ってくる。


 


額に汗を浮かべ、笑顔のまま彼の腕を掴んだ。


 


「今日は畑手伝って」


 


「断る」


 


「却下」


 


「……意味が分からん」


 


「私が決めたから」


 


 


強引に引っ張られる。


 


その様子を見て、村人たちは笑った。


 


 


畑で土にまみれながら、リナが言う。


 


「最初は石像みたいだったのに」


 


「今は少し人間っぽい」


 


「失礼だな」


 


「しゃべる石像よりは進歩してる」


 


 


セラはため息をついた。


 


だが、口元はわずかに緩んでいた。


 


 


 


夕暮れ。


 


丘の上で、二人は並んで座っていた。


 


空が赤く染まり、村に煙が上がる。


 


リナが肩を寄せる。


 


今度は、セラは何も言わなかった。


 


 


「ねえ」


 


「なんだ」


 


「最近、ちゃんと隣にいてくれるね」


 


「……逃げても追ってくるだろう」


 


「当たり前」


 


 


リナは笑う。


 


そして、そっと彼の手を握った。


 


 


「今日は離さない」


 


 


セラは手元を見る。


 


小さく、温かい手。


 


 


「……好き、とは」


 


「まだ分からないの?」


 


「少しだけ」


 


 


リナは驚いた顔をし、すぐに嬉しそうに笑った。


 


「じゃあ教えてあげる」


 


 


彼女はセラの肩にもたれた。


 


 


「こうしてると、嬉しいでしょ?」


 


 


セラはしばらく考え――


 


 


「……悪くない」


 


 


「もっと言い方あるでしょ!」


 


 


笑い声が丘に響いた。


 


 


その光景を、森の奥から銀の瞳が見つめていた。


 


アルテミス。


 


彼女は静かに目を伏せる。


 


 


「……よかった」


 


 


その声は、誰にも届かない。


 


 


「人として、生きられるなら……それで」


 


 


だが胸の奥は、焼けるように痛んでいた。


 


 


彼女は踵を返す。


 


月の光の中へ、音もなく消えていった。


 


 


 


その夜。


 


村の広場に、一人の青年が現れた。


 


海色の髪。

整った顔立ち。

堂々とした気配。


 


セラとどこか似ていた。


 


 


「兄上」


 


 


その一言で、空気が凍る。


 


 


セラの目が細まる。


 


「……誰だ」


 


 


青年は微笑む。


 


 


「お忘れですか」


 


「私はあなたの弟――」


 


 


トリートーン。


 


 


村人たちがざわめく。


 


リナはセラの前に立つ。


 


「何者よ、あんた」


 


 


トリートーンは優雅に一礼した。


 


「敵意はありません」


 


「今日は兄を迎えに来ただけです」


 


 


「断る」


 


セラが即答する。


 


 


弟は苦笑した。


 


 


「相変わらずですね」


 


「ですが父上――ポセイドンも考えを改めました」


 


「あなたを認め、迎え入れたいと」


 


 


リナが顔をしかめる。


 


「今さら都合よすぎるでしょ」


 


 


「ええ、私もそう思います」


 


トリートーンは穏やかに答えた。


 


「だからこそ、私は兄上の味方として来ました」


 


 


セラは無言。


 


弟の瞳を見つめる。


 


そこに敵意はない。


 


だが――冷たい。


 


 


「……なぜだ」


 


 


「兄上は利用されている」


 


「この村に縛られ、力を搾り取られている」


 


 


村人たちがざわつく。


 


リナが怒鳴る。


 


「ふざけないで!」


 


 


トリートーンは彼女を見もしない。


 


 


「本来、兄上は神の座に立つべき存在」


 


「人間の泥にまみれる必要などない」


 


 


セラの胸に、奇妙な違和感が走る。


 


味方の言葉。


 


だが、何かが違う。


 


 


「……俺を助けたいのか」


 


 


弟は笑った。


 


あまりに整いすぎた笑みだった。


 


 


「もちろんです」


 


「兄上がいなくなれば――」


 


一瞬、言葉が滑る。


 


 


「海の王位継承争いも終わりますから」


 


 


静寂。


 


 


リナが呆れた顔をする。


 


「本音出てるじゃない」


 


 


トリートーンはすぐ表情を戻した。


 


 


「失礼。冗談です」


 


 


だがセラには分かった。


 


この男は、自分を排除しに来た。


 


味方の顔をして。


 


 


「……帰れ」


 


 


「兄上」


 


 


「二度と言わせるな」


 


 


空気が震える。


 


井戸の水が浮かび上がり、セラの背後で槍のように尖る。


 


 


トリートーンの笑みが消えた。


 


 


「……変わりましたね」


 


「人間風情に染まって」


 


 


「そうかもしれん」


 


セラは静かに答える。


 


「だが、お前よりはましだ」


 


 


弟の瞳に、初めて憎悪が宿る。


 


 


「ならば近いうちに理解するでしょう」


 


「人間は、神を裏切る」


 


 


彼は海霧のように姿を消した。


 


 


村に重たい沈黙が残る。


 


リナがそっとセラの袖を掴む。


 


 


「……大丈夫?」


 


 


セラはしばらく空を見ていた。


 


やがて、初めて自分から彼女の手を握る。


 


 


「分からん」


 


「だから、少しだけここにいろ」


 


 


リナの顔が赤くなる。


 


 


「……うん」


 


 


遠くの海で、何かが目覚め始めていた。

昔の記憶 ― セラとトリートーン


幼き日の神殿


青い海に囲まれた神殿。

白い柱、潮風、波音。


まだ幼いセラは、神殿の端で一人座っていた。


海に触れようとしても、水は彼を避ける。

近づけば波が引き、手を伸ばせば静かに離れていく。


その様子を見て、幼い神々の子らは笑った。


「見ろよ、海に嫌われてる」

「本当に父上の子か?」


セラは何も言わなかった。


言い返す言葉を知らなかった。


その時、小さな足音が近づく。


まだ幼い トリートーン が立っていた。


金の三叉槍を抱え、誇らしげな顔で兄を見る。


「兄上」


「なんだ」


「父上が呼んでいる」


セラは立ち上がる。


少しだけ期待した。

初めて父に必要とされたのかもしれないと。


だが神殿の広間で待っていたのは、冷たい視線だった。


ポセイドン は弟の肩に手を置き、言った。


「見よ。これが真の海の子だ」


トリートーンの周囲で、水が踊る。

波が歌い、魚たちが集まる。


「そしてお前は違う」


セラは黙っていた。


幼いトリートーンは兄を見る。


その目には、哀れみと優越が混ざっていた。



二人きりの回廊


その夜。


神殿の長い回廊で、トリートーンが声をかけた。


「兄上、悔しいですか」


「別に」


「嘘ですね」


弟は笑う。


まだ子どもの顔なのに、妙に完成された笑みだった。


「僕なら、海に愛されています」


「父上も、神々も、皆が僕を選ぶ」


「でも兄上は違う」


セラは壁にもたれて答える。


「だから何だ」


トリートーンは一歩近づく。


「それでも兄上は、僕の兄です」


「……そうか」


「ええ」


弟は優しく微笑んだ。


「だから、安心してください」


「兄上の居場所は、僕が全部もらってあげます」


沈黙。


その時初めて、セラは理解した。


この弟は、敵意で殴ってくる者より厄介だと。



記憶の終わり


現在。


トリートーンの笑顔を思い出し、セラは静かに目を閉じる。


「あいつは昔から変わらん」


リナが隣で首を傾げる。


「どんな人だったの?」


セラは少し考え、短く答えた。


「笑いながら奪うやつだ」


リナは顔をしかめた。


「最低」


「……ああ」


だが次の言葉は、心の奥で飲み込んだ。


――それでも昔、一度だけ。

弟が自分に毛布をかけて去った夜を、まだ忘れられない。


兄弟だった時間が、確かに少しだけあったから。

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