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異世界落胤セラ ~ポセイドンに捨てられた俺は、救うたびに誰かを溺れさせる~  作者: マーたん


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第九話:

裏切りとは、刃で斬られることだけではない。


信じた言葉が嘘だった時。

守りたい場所に疑われた時。

隣にいてほしい者の過去を知った時。


人の心は、静かに壊れていく。


セラは神々に捨てられ、世界に拒まれてきた。

それでも村での暮らしの中に、小さな救いを見つけかけていた。


笑う声。

食卓の温もり。

隣に座る少女の体温。


それらは、居場所と呼べるものだったのかもしれない。


だが、運命は優しい場所ほど壊したがる。


弟が残した毒。

父が差し向ける使徒。

そして明かされる、少女の過去。


味方はいない。

信じる先も見えない。


そんな時こそ、人は本性を問われる。


孤独に沈むか。

怒りに呑まれるか。

それでも誰かを守るか。


これは、神に捨てられた子が、

初めて自分の意思で牙を剥く章である。

第九章:父の使徒


―味方なき者へ―


 


雨だった。


 


朝から冷たい雨が、ルナ村を打っていた。


 


畑はぬかるみ、空は灰色に沈む。


 


広場を歩く村人たちの視線は、以前とは違っていた。


 


感謝は消え、親しみも薄れた。


 


残っているのは――疑い。


 


 


セラは井戸のそばに立っていた。


 


誰も近づかない。


 


子どもたちすら、母親に引かれて離れていく。


 


 


「……」


 


 


慣れているはずだった。


 


神々の国でも同じだった。


 


異物として見られ、

厄災として扱われ、

存在そのものを拒まれる。


 


それでも――


 


ここだけは違うと、少し思ってしまっていた。


 


 


「セラ」


 


声がした。


 


リナだった。


 


だがその表情も暗い。


 


 


「話があるの」


 


 


村外れの納屋。


 


雨音だけが屋根を叩いている。


 


リナはしばらく黙り、やがて震える声で言った。


 


「……私、隠してたことがある」


 


 


セラは何も言わない。


 


 


「私……昔、この村を守る代わりに契約させられたの」


 


「海の神の使いと」


 


 


空気が凍る。


 


 


「その相手が……トリートーン」


 


 


セラの目が細まる。


 


 


「形式だけの誓約よ!」


 


リナは慌てて続けた。


 


「干ばつの時、水をもらう代わりに……村長たちが勝手に決めたの」


 


「私は子どもだった。断れなかった……!」


 


 


セラは静かに聞いている。


 


その無表情が、かえって痛い。


 


 


「妻、って神界では扱われてる」


 


「でも会ったのなんて数回だけ! 私は――」


 


 


「……そうか」


 


 


それだけだった。


 


 


リナの顔から血の気が引く。


 


「怒って……ないの?」


 


 


「分からん」


 


 


本当に、分からなかった。


 


胸の奥が重い。


 


だがそれが怒りか、悲しみか、自分でも判別できない。


 


 


「セラ、私は……」


 


 


「少し、一人にしてくれ」


 


 


その言葉に、リナは泣きそうな顔で立ち尽くした。


 


 


 


その夜。


 


村に鐘が鳴り響く。


 


 


火事だ!!


 


 


東の倉庫が燃えていた。


 


乾いた木材に火が走り、炎が雨を裂いて立ち上る。


 


人々が叫ぶ。


 


「子どもが中にいる!」

「誰か助けろ!」

「無理だ、崩れる!」


 


 


セラは走った。


 


考える前に体が動いていた。


 


 


燃え盛る倉庫へ踏み込む。


 


熱風。煙。崩れる梁。


 


奥で、小さな泣き声。


 


 


「……いた」


 


 


幼い姉弟が隅で震えていた。


 


セラは二人を抱え、水の膜で炎を裂きながら出口へ向かう。


 


その瞬間。


 


背後の柱が崩れた。


 


 


「危ない!!」


 


 


飛び込んできた影が、セラを突き飛ばす。


 


柱が落ちる。


 


鈍い音。


 


 


外へ転がり出たセラの腕の中には、子どもたち。


 


だが――


 


 


「リナ!!」


 


 


炎の中に、彼女がいた。


 


セラを庇い、柱の下敷きになっていた。


 


 


雨が降る。


 


炎が揺れる。


 


時間が止まったようだった。


 


 


セラは駆け寄る。


 


柱を持ち上げる。


 


血が広がっていた。


 


 


「……なんで」


 


初めて、声が震えた。


 


 


リナは苦しそうに笑う。


 


 


「だって……あなた、助ける時……自分のこと忘れるから」


 


 


「馬鹿だ」


 


 


「うん……知ってる」


 


 


彼女は弱々しく手を伸ばす。


 


セラの頬に触れる。


 


 


「怒ってても……嫌いになっても……いい」


 


「でも……一人にならないで」


 


 


セラは何も言えない。


 


胸の奥が裂けるように痛かった。


 


 


その時。


 


空が割れた。


 


雷鳴と共に、海の匂いが満ちる。


 


 


村の上空に、巨大な水の門が現れる。


 


そこから降り立つ影。


 


青銀の鎧。

三叉槍。

神の威圧。


 


 


「罪人セラ」


 


 


低く響く声。


 


 


「父なる ポセイドン の命により、貴様を粛清する」


 


 


村人たちが震える。


 


 


「我が名はネレウス」


 


 


ネレウスの名を継ぐ使徒。


 


父の処刑人だった。


 


 


セラはゆっくり立ち上がる。


 


腕の中には血まみれのリナ。


 


背後には怯える村人たち。


 


味方はいない。


 


信じた者も揺らいだ。


 


それでも――


 


 


「……遅い」


 


 


ネレウスが眉をひそめる。


 


 


「何?」


 


 


セラの瞳に、初めて明確な怒りが宿っていた。


 


 


「来るのが、遅すぎた」


 


 


地面が割れる。


 


井戸の水が天へ昇る。


 


雨粒すら逆巻き、巨大な槍となる。


 


 


「今、機嫌が悪い」


 


 


神の使徒と、神に捨てられた子。


 


村の夜に、戦いの幕が上がる。

この章の要点


* リナは過去に村を守るため、トリートーンと形式上の婚約契約を結ばされていた

* セラは精神的に孤立し、「味方がいない」状態になる

* 火事でリナがセラを庇い重傷

* その直後、ポセイドン直属の使徒が襲来

* セラに初めて“怒りによる覚醒”が起こる

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