第五十三話:
―クロガミホット一息 歴史編―
真っ暗な教室。
黒板。
チョーク。
そして。
なぜか教師姿の クロガミ 。
黒スーツ。
黒縁メガネ。
似合っているのが腹立つ。
⸻
「はい注目〜」
パチン。
黒板に文字が浮かぶ。
六居館の歴史
教室ざわつく。
生徒役。
なぜかいる。
焔牙
鳥羽姫
ポセイドン
そして一番後ろ。
腕組みしながら座る アポローン 。
授業参観か。
⸻
クロガミが黒板を叩く。
「ええか〜」
「昔々あるところに」
焔牙即ツッコミ。
「雑!!」
「昔話スタートやめろ!」
⸻
クロガミ真顔。
「細かいこと気にする奴はハゲるで」
焔牙。
「燃やすぞ」
⸻
黒板に六つの紋章が浮かぶ。
神。
炎。
海。
月。
雷。
黒翼。
「これが六居館や」
「管理者から世界を隠すために生まれた」
鳥羽姫が手を挙げる。
「先生」
「はい鳥羽さん」
「先生って何歳なんですか?」
静寂。
クロガミ固まる。
「……次いこか」
「逃げた!」
⸻
ポセイドンが机に肘をつく。
「結局なんで六居館作ったんや」
クロガミは少しだけ真面目な顔になる。
「世界が壊れ始めたからや」
空気が静かになる。
⸻
黒板に映る。
崩れる都市。
泣く人々。
空の裂け目。
巨大な“目”。
管理者
「管理者はな」
「気に入らん世界を消す」
「せやから」
「隠れる場所が必要やった」
⸻
アポローンが腕を組む。
「それが居館か」
「そゆこと」
クロガミが笑う。
「まぁ簡単に言うと」
チョークで大きく書く。
世界避難シェルター
焔牙。
「急に安っぽくなるな」
⸻
その時。
教室後方の扉が開く。
ギィ……
入ってきたのは。
トリードン
静かに席へ座る。
クロガミが吹く。
「お前ほんまに来たんか」
「暇だった」
「深海の王が授業受けに来るな」
⸻
トリードンは静かに言う。
「で」
「結局お前は何者なんだ」
教室静まる。
鳥羽姫も焔牙も見る。
クロガミは数秒黙る。
そして。
ニヤッと笑った。
「先生や」
全員。
「誤魔化すな!!」
教室にツッコミが響いた。
第五十三章:深海の記憶
―海冥の海居館―
海が、割れていた。
空ではない。
海そのものが左右へ裂け、巨大な道を作っている。
その先。
深海のさらに底。
誰も辿り着けぬ死の領域。
そこに存在する居館――
海冥の海居館
六居館の一つ。
記憶と死を司る、蒼き神域。
⸻
深海の道を歩きながら、 鳥羽姫 は周囲を見渡していた。
巨大な魚群。
海底遺跡。
沈んだ神殿。
まるで世界そのものが眠っている。
「……綺麗」
その声は自然に漏れた。
⸻
その後ろ。
焔牙 は顔をしかめる。
「俺、水苦手なんだよな」
「炎だからですか?」
「多分」
そこへ。
半透明状態の クロガミ 。
「燃えたら蒸発やな」
「縁起悪いこと言うな」
⸻
その時だった。
深海全体が震える。
ゴオオオオ……
海流が渦を巻く。
巨大な門が現れる。
青い珊瑚。
白い柱。
死者の文字。
門の上には巨大な王冠紋章。
⸻
そして。
門が開く。
海が歌った。
深海から、一人の男が歩いてくる。
長い蒼髪。
青銀の外套。
静かな瞳。
だが。
その背後には“死海”が揺れていた。
トリードン
彼が現れた瞬間。
海の音が止まる。
⸻
鳥羽姫が息を呑む。
「この人……」
圧が違う。
優しい。
だが。
底が見えない。
深海そのものだった。
⸻
トリードンは静かにクロガミを見る。
「久しいな」
クロガミが手を振る。
「元気そうやん」
「半分消えている者に言われたくない」
「皆わいに厳しない?」
⸻
トリードンは焔牙を見る。
「炎の者か」
焔牙が頷く。
「……あんたが当主?」
「そうだ」
短い返答。
だが。
その瞬間。
焔牙の足元へ“水”が絡みつく。
「っ!?」
動けない。
鳥羽姫が驚く。
「焔牙!」
トリードンは静かに言った。
「怒りが強すぎる」
「深海では、感情に呑まれる者から死ぬ」
⸻
焔牙が炎を放つ。
水蒸気爆発。
海底が震える。
だが。
トリードンは一歩も動かない。
その瞳だけで、海を支配していた。
⸻
クロガミが苦笑する。
「相変わらず怖いなぁ海坊主」
「お前ほどではない」
トリードンの視線が鋭くなる。
「……クロガミ」
「何や」
「お前、“記憶”が削れているな」
空気が止まる。
鳥羽姫が振り返る。
クロガミは黙る。
珍しく。
何も言わなかった。
⸻
トリードンが目を閉じる。
すると。
海面に映像が浮かぶ。
幼いセラ。
笑う鳥羽姫。
焔牙。
白都。
仲間たち。
そして。
“消えた記憶”。
⸻
鳥羽姫が震える。
「これは……」
トリードンは静かに言う。
「海は全てを覚えている」
「忘れられた記憶も」
「死者の声も」
「消された時間も」
深海が唸る。
⸻
その時だった。
海底が崩れる。
巨大な裂け目。
黒い泥。
死の波。
そして。
空間の向こうに現れる巨大な“目”。
管理者
「――観測領域侵食開始」
深海が震える。
死者たちの声が響く。
⸻
トリードンの瞳が冷たく染まる。
「また来たか」
その瞬間。
海冥の海居館全域が蒼く発光する。
無数の魂。
沈んだ記憶。
深海の神気。
全部がトリードンへ集まっていく。
焔牙が息を呑む。
「なんだこの力……!」
クロガミが低く笑った。
「深海はな」
「一番古い“墓場”なんや」
⸻
トリードンは静かに手を上げた。
その瞬間。
海そのものが、“巨大な龍”へ変わった。
登場人物
―第五十三章:深海の記憶―
トリードン
海冥の海居館を治める当主。
記憶・死・深海を司る超越者。
穏やかな性格だが、その奥には“海そのもの”の恐ろしさを秘めている。
海に眠る記憶や死者の声を読み取る力を持つ。
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クロガミ
半消滅状態の観測者。
トリードンから“記憶が削れている”ことを見抜かれる。
六居館の当主たちとは古い因縁を持つ。
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焔牙
炎を操る戦士。
水と深海を苦手としている。
海冥の海居館で、“感情に呑まれる危険性”を指摘される。
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鳥羽姫
白都の姫君。
深海に眠る記憶や、セラの過去の映像を目撃する。
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セラ
現在は昏睡状態。
だが海冥の海居館では、“消された記憶”の中心人物として映し出される。
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管理者
海冥の海居館への侵食を開始する存在。
“観測領域”そのものを消去しようとしている。
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用語
海冥の海居館
六居館の一つ。
深海に沈む記憶と死の居館。
海底神殿のような構造を持ち、死者の記憶や忘れられた時間が沈んでいる。
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深海の記憶
海に蓄積された過去の残滓。
死者の声、失われた歴史、消された記録などが眠っている。
トリードンはそれらを呼び起こすことができる。




