第四十九話:
お館様〜
第四十九章:お館様
―神の滝居館―
白都崩壊から三日。
空の裂け目は、さらに広がっていた。
昼でも夜のように暗い。
風は冷たく、
世界そのものが軋んでいる。
そして――
セラ はまだ眠っていた。
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白都地下医療区画。
片翼を失い、全身包帯だらけ。
呼吸も浅い。
鳥羽姫が静かに座っていた。
鳥羽姫
その目の下には、眠っていない痕がある。
「……馬鹿です」
小さく呟く。
「本当に」
だが、その声は震えていた。
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部屋の外。
焔牙が壁へ寄りかかる。
焔牙
「まだ目覚めないか」
そこへ黒コートの男。
クロガミ
珍しく静かだった。
「……限界超えとる」
「魂ごと燃やしたからな」
焔牙が拳を握る。
「助かるのか」
クロガミは少し黙る。
「普通なら無理や」
その空気が重くなる。
だがクロガミは続けた。
「せやけど」
「“普通”ちゃうやろ、あいつ」
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その時だった。
白都全域へ鐘の音が響く。
ゴォォォン……
誰も聞いたことのない音。
クロガミの表情が変わる。
「……来たか」
空間が揺れる。
白都の北。
霧の奥。
存在しないはずの山が現れていた。
巨大な滝。
その中央に建つ古い館。
神域。
禁足地。
その名は――
神の滝居館
兵士たちがざわめく。
「伝説の館……!」
「本当に存在したのか!?」
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クロガミは帽子を深く被る。
「面倒なん出てきよったなぁ」
焔牙が睨む。
「知っているのか」
クロガミは珍しく笑わない。
「あそこには“お館様”がおる」
空気が凍る。
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白都の空に、声が響く。
低く。
静かで。
それでいて圧倒的。
「……久しいな」
その瞬間。
兵士たちが膝をつく。
魂が震える。
鳥羽姫ですら息を呑む。
「この声は……」
クロガミが小さく舌打ちした。
「相変わらず威圧感おかしいわ」
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滝が割れる。
その奥から、一人の男が現れた。
白い羽織。
長い黒髪。
杖を持つ老人。
だがその目だけは、異様に若い。
お館様
空気が完全に変わる。
まるで世界そのものが頭を下げているようだった。
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お館様は静かに白都を見る。
崩壊した街。
裂けた空。
苦しむ民。
そして。
眠るセラ。
「……また始まったか」
その声には、疲れが滲んでいた。
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クロガミが前へ出る。
「久しぶりやな、お館様」
お館様はクロガミを見る。
「まだ外側におったか」
「しぶといやろ?」
「悪運だけはな」
セラたちが驚く。
クロガミへ対等に話す存在など、ほとんどいなかった。
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焔牙が問う。
「何者だ」
クロガミが肩をすくめる。
「簡単に言うと」
「“最初の観測者”や」
静寂。
鳥羽姫が目を見開く。
「最初……?」
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お館様は滝を背に立つ。
「クロガミ」
「お前はまた繰り返す気か」
クロガミの笑みが消える。
「……今回は違う」
「本当にそう思うか?」
空気が張り詰める。
⸻
その時。
医療区画。
眠っていたセラの指が動いた。
鳥羽姫が顔を上げる。
「セラ……?」
セラの意識は、深い闇の中にあった。
どこまでも暗い世界。
そこへ足音。
コツ……コツ……
誰かが近づく。
そして声。
「よう」
聞き覚えのある声。
セラが顔を上げる。
そこに立っていたのは――
三十七歳の自分。
三神凌牙
スーツ姿。
疲れた顔。
だが、どこか優しく笑っていた。
⸻
セラは目を見開く。
「……俺?」
凌牙は肩をすくめる。
「そろそろ起きろ」
「お前、まだ終わってねぇだろ」
闇の世界が揺れる。
遠くで鐘が鳴る。
ゴォォォン……
⸻
その頃。
神の滝居館。
お館様が空を見上げる。
裂け目の向こう。
管理者。
お館様は静かに呟いた。
「……とうとう来るか」
すると。
空の裂け目の奥で。
何かが、“目を開いた”。
管理者ですら沈黙するほどの何か。
クロガミの顔から笑みが消える。
「……おいおい」
「それは聞いてへんぞ」
クロガミが消える




