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異世界落胤セラ ~ポセイドンに捨てられた俺は、救うたびに誰かを溺れさせる~  作者: マーたん


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第五話:

登場人物


セラ


本作の主人公。

海の神の子とされながら、その血筋を疑われ異世界へ追放された少年。

人を救う力を持つが、そのたびに別の誰かが命を落とす呪いを背負っている。

感情に乏しかったが、村での暮らしやリナとの出会いによって少しずつ心が揺れ始めている。

第五章では、自分の出生そのものに大きな疑念を抱くことになる。



アルテミス


月と狩猟を司る孤高の女神。

冷静で誇り高く、誰にも心を許さぬ存在。

しかしセラを見ると感情が乱れ、知らぬはずの過去を知っているような言動を見せる。

第五章では森に現れ、セラの秘密に初めて触れる。



リナ


ルナ村の少女。

明るくまっすぐな性格で、孤独なセラに遠慮なく接する。

第五章では直接登場は少ないが、セラの心に「人との繋がり」を残した重要な存在。



クロノス


時の彼方からセラを見守る古き神。

セラの出生と運命について深く知っている様子だが、答えを与えず選択だけを迫る。

第五章:月下の狩人 ―セラの秘密―


 


夜の森は、静かだった。


 


風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが闇を満たしている。


 


ルナ村の宴が終わったあと、セラは一人で村を離れていた。


 


笑い声の中にいられなかった。


 


自分が守った村。

だがその裏で、また誰かが死んだ。


 


歓声と悲鳴が、頭の中で混ざり合って消えない。


 


 


「……ここなら、静かだ」


 


そう呟き、森の奥へ進む。


 


月明かりが差し込む開けた場所に出た。


 


そこには、小さな泉があった。


 


水面は鏡のように澄み、空の月を映している。


 


 


セラはその前に立ち、自分の顔を見る。


 


見慣れたはずの顔。


 


だが最近、それが少しずつ分からなくなっていた。


 


 


「俺は……何者だ」


 


 


その瞬間。


 


ピン、と空気を裂く音。


 


矢が飛んだ。


 


セラは反射的に身を捻る。


 


頬をかすめた矢が背後の木に突き刺さる。


 


 


「……誰だ」


 


 


闇の中から現れたのは、一人の女だった。


 


銀色の髪。

夜の森に溶ける白い肌。

月光のように冷たい瞳。


 


弓を携え、音もなく歩いてくる。


 


 


セラの心臓が、強く脈打った。


 


知らないはずなのに。


 


知っている。


 


 


「……アルテミス」


 


 


その名を口にした瞬間、女の眉がわずかに動いた。


 


だがすぐに無表情へ戻る。


 


 


アルテミス。


 


月と狩猟を司る孤高の女神。


 


 


「その名を、軽々しく呼ぶな」


 


 


冷えた声だった。


 


 


「お前は誰だ」


 


「……セラ」


 


 


「違う」


 


彼女は即座に否定した。


 


 


「名ではない。本質を聞いている」


 


 


セラは答えられない。


 


それは自分自身が最も知りたいことだった。


 


 


アルテミスは弓を下ろし、ゆっくり近づく。


 


「なぜ人を救う」


 


「……助けを求められた」


 


「その結果、誰かが死ぬと知っていて?」


 


「ああ」


 


「愚かね」


 


 


その一言は鋭かった。


 


だが、怒りより先に違和感が来る。


 


なぜこの女に責められると、胸が痛むのか。


 


 


「なら、なぜお前は助けた」


 


 


セラが言うと、アルテミスの瞳が揺れた。


 


「盗賊の頭目に矢を放った」


 


「お前も選んだはずだ」


 


 


沈黙。


 


風が二人の間を抜ける。


 


 


やがて彼女は小さく吐き捨てた。


 


「……偶然よ」


 


「下手な嘘だな」


 


 


一瞬だけ、アルテミスの頬が引きつる。


 


 


「変わったわね」


 


「……何?」


 


 


彼女は自分で口にした言葉に、はっとする。


 


変わった?


 


まるで昔を知っているような言い方だった。


 


 


セラも気づいていた。


 


「俺を知っているのか」


 


 


「知らない」


 


即答だった。


 


だが今度は、わずかに遅かった。


 


 


セラの胸の奥で、何かが軋む。


 


月明かりの下、断片が蘇る。


 


笑い声。

銀の髪。

背中合わせに立つ温もり。


 


そして――


 


『あなたは、私の――』


 


 


頭痛が走る。


 


セラは膝をついた。


 


 


「っ……!」


 


 


アルテミスが思わず一歩踏み出す。


 


その手が、セラの肩に触れかけて止まった。


 


 


「……やめろ」


 


 


自分に言い聞かせるような声だった。


 


 


「思い出しては駄目」


 


 


「何をだ」


 


 


アルテミスは唇を噛む。


 


冷静な仮面が崩れかけていた。


 


 


「あなたの秘密を」


 


 


セラが顔を上げる。


 


彼女の瞳には、恐れがあった。


 


 


「秘密?」


 


 


「あなたは、ポセイドンの子ではない」


 


 


森が静まり返る。


 


風すら止まったようだった。


 


 


「……何だと」


 


 


「海があなたを拒んだ理由。

ゼウスがあなたを庇う理由。

クロノスがあなたを見ている理由。」


 


彼女は震える声で続ける。


 


 


「あなたの中には、“海より古いもの”が眠っている」


 


 


セラの呼吸が止まりそうになる。


 


理解できない。


 


だが本能だけが、その言葉を否定できなかった。


 


 


「俺は……何者だ」


 


 


アルテミスは目を閉じる。


 


 


「それを知れば、あなたはもう戻れない」


 


 


「戻る場所など、最初からない」


 


 


その答えに、彼女は苦しげに微笑んだ。


 


初めて見せる、人間らしい表情だった。


 


 


「……そうね」


 


 


次の瞬間、森の奥から巨大な気配が迫る。


 


獣の唸り声。

赤い眼。


 


闇狼の群れだった。


 


 


アルテミスは即座に弓を構える。


 


セラも立ち上がる。


 


 


「話は後だ」


 


 


「逃げろ」


 


 


「断る」


 


 


二人の言葉が重なる。


 


 


一瞬、視線が交わる。


 


その時だけ、二人はまるで昔からそうしてきたように自然だった。


 


 


アルテミスが矢を放つ。

セラが水の刃を生む。


 


月下の森で、戦いが始まった。

セラとアルテミスの会話


月明かりの森。

戦いの前、二人だけの静かな時間。



「……なぜ俺を避ける」


セラが問う。


アルテミスは視線を逸らした。


「避けてなどいない」


「なら、なぜ目を見ない」


「見る必要がないからよ」


「嘘だな」


彼女の肩がわずかに揺れる。


「……変わったのね」


「またそれだ」


セラは一歩近づいた。


「お前は俺の何を知っている」


アルテミスは答えない。


月光だけが、二人の間を照らしていた。


やがて彼女は低く呟く。


「あなたは、何も知らない方がいい」


「知れば傷つくからか」


「違う」


彼女は苦しそうに首を振る。


「知れば……私が傷つく」


セラは初めて言葉を失った。


冷たく強い女神の声が、震えていたからだ。


「俺たちは、以前会ったのか」


長い沈黙。


やがてアルテミスは小さく笑う。


それは泣きそうな笑みだった。


「会っていないわ」


「だが、別れた気がする」


その言葉に、彼女の瞳が揺れる。


「……ずるい人」


「何がだ」


「覚えていないくせに、そんなことだけ言えるなんて」


セラは無意識に手を伸ばした。


アルテミスの頬に触れかけて、止まる。


彼女は逃げなかった。


ただ、静かに目を閉じた。


「……もし思い出したら」


「何だ」


「今度こそ、私を選びなさい」


次の瞬間、彼女は風のように身を翻し、闇へ消えた。


一人残されたセラの胸に、名前のない痛みだけが残った。

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