第四十話:
登場人物
セラ(三神凌牙)
本作の主人公。前世は三神凌牙。数々の戦乱を越えてきたが、この章で自分の存在そのものが揺らぎ始める。セラとして生きてきた記憶と、凌牙として“見ていた”感覚の狭間で苦しむ。
鳥羽姫
黒翼の国を治める姫。気高く強く、誰より民と仲間を想う存在。崩れゆくセラを抱きとめ、その温もりで彼を現実へ繋ぎ止めた。
クロガミ
全ての陰謀を操っていた存在。人・神・国・運命すら盤上の駒のように扱う。関西弁で軽妙に語るが、その本質は底知れぬ悪意と知性に満ちている。
美兎姫
鳥羽姫の盟友でもあった白翼の姫。今回、クロガミの使徒であると告白し、衝撃を与えた。真意はまだ不明。
焔牙
ハデスの血を引く少年。セラを父のように慕ってきたが、クロガミ側の因子を埋め込まれていた可能性が判明。本人の意思はまだ揺れている。
小鴉
仲間の傍らにいた愛らしい存在。だが正体はクロガミの魂の欠片。ずっと一行を監視していた。
アテーナー
冷静沈着な女神。クロガミの存在領域が“世界の外側”である可能性に気づき、警戒を強める。
アルテミス(花下翼)
観測者として異変を察知する女神。クロガミの居場所が通常世界ではないと見抜いた。
第四十章:クロガミ合戦の幕開く
深海神殿ネプトラへの進軍を前に、世界は奇妙な静寂に包まれていた。
風が止み、波が止み、鳥さえ鳴かない。
まるで、この世界そのものが息を潜めているようだった。
セラ(三神凌牙) は剣を腰に差し、空を見上げる。
「……気味が悪い」
隣にいた 鳥羽姫 が問う。
「何か感じるのですか」
「ああ」
「俺たちが、見られてる」
⸻
その瞬間。
空が割れた。
昼であるはずの天が黒く染まり、巨大な眼のような亀裂が現れる。
連合軍の兵たちがざわめく。
アテーナー が槍を構えた。
「総員、警戒!」
亀裂の奥から、声が響く。
「ようやく気づいたか」
聞き慣れた、不快な笑い声。
クロガミ だった。
⸻
「お前ら、よう頑張ったわ」
「国を救うた、仲間を得た、愛を知った、真実に近づいた」
「……せやけどな」
空いっぱいに黒い影が広がる。
「全部、わしの舞台装置や」
世界が凍りつく。
⸻
セラが前へ出る。
「何を言っている」
クロガミは笑う。
「言葉通りや」
「お前が出会った敵も味方も、悲劇も奇跡も、全部わしが並べた駒や」
鳥羽姫が怒声を上げる。
「戯言を!」
「私たちの民の涙まで偽物だと言うのですか!」
クロガミの声が少しだけ低くなる。
「涙は本物や」
「せやから価値がある」
⸻
その時、美しい白翼が空から降りた。
美兎姫
鳥羽姫が安堵する。
「美兎姫!」
だが彼女は無表情だった。
ゆっくりと、セラへ剣を向ける。
「申し訳ありません」
「私は、クロガミ の使徒です」
空気が止まった。
「……何?」
鳥羽姫の声が震える。
「冗談、でしょう……?」
美兎姫の瞳に感情はなかった。
「白翼の国が滅んだ日から、私はあの方のものです」
⸻
さらに、焔の柱が上がる。
焔牙 が前へ出た。
セラは眉をひそめる。
「焔牙」
焔牙は笑った。
だがその笑みは、いつものものではない。
「悪いな、セラ」
「俺も使徒だ」
鳥羽姫が息を呑む。
空牙が怒鳴る。
「ふざけるな坊主!」
焔牙は首を鳴らした。
「俺の中にあるハデスの血、あれ全部クロガミが混ぜたもんらしいぜ」
「生まれた時から、あいつの札付きってわけだ」
⸻
セラは剣を抜かなかった。
ただ静かに問う。
「お前の意思はどうした」
焔牙の目が揺れる。
「……知らねぇよ」
その一瞬だけ、いつもの少年に戻った。
⸻
そこへ、小さな黒い影が空を舞った。
小鴉
鳥羽姫が呟く。
「小鴉……!」
小鴉はセラの肩へ止まり、次の瞬間、黒い煙となって弾けた。
その煙は空へ昇り、巨大な顔を形作る。
クロガミの顔だった。
「気づかんかったやろ?」
「小鴉は、わしの魂の欠片や」
「ずっと、お前らの傍で見てたんやで」
鳥羽姫が膝をつく。
「そんな……」
⸻
アテーナーが叫ぶ。
「クロガミ、お前はどこにいる!」
闇の向こうから声だけが返る。
「この世やない」
「時間と世界の狭間」
「神も届かん、物語の外側や」
アルテミスが顔色を変えた。
アルテミス(花下翼)
「……観測者領域」
⸻
セラだけは、じっと空を見ていた。
その瞳が変わる。
まるで別人のように。
クロガミが楽しげに言う。
「そうや、その顔や」
「三神凌牙」
「お前はセラやない」
「ずっと、向こう側からこの世界を見とったんや」
記憶が流れ込む。
教室。
いじめ。
トラック。
死。
そして――画面越しに見る、この世界。
セラが頭を押さえる。
「……何だ、これは」
クロガミの笑いが響く。
「お前は主人公や」
「そして、わしは作者や」
世界が、ひび割れた。
⸻
鳥羽姫がセラを抱きとめる。
「しっかりしてください!」
その温もりだけが、本物だった。
セラは震える声で呟く。
「……俺は、誰だ」
クロガミは最後に告げる。
「次の戦は国取りやない」
「存在そのものを賭けた合戦や」
「第四十章――ここからが本番やで」
黒い空が完全に閉じる。
残された者たちは、ただ立ち尽くすしかなかった。
―三神凌牙とクロガミの漫才―
暗い舞台。
中央にスポットライトが二つ。
左から 三神凌牙。
右から クロガミ。
二人が並ぶ。
沈黙。
凌牙が口を開く。
「……誰が漫才しよう言うた」
クロガミが肩をすくめる。
「堅いなあ君ぃ」
「人生、笑いが大事やでぇ?」
妙に語尾が伸びる。
凌牙が眉をひそめる。
「その喋り方、何やねん」
「関西弁ちゃうし、標準語ちゃうし、なんか気持ち悪い」
クロガミ、胸に手を当てて傷ついた顔。
「ひどぉい!」
「これはな、“異界標準新喜劇式イントネーション”や!」
「知らんわ!」
⸻
クロガミが急に真顔になる。
「ところでやな」
「お前、自分が主人公やと思っとるやろ?」
凌牙も負けじと前へ出る。
「思ってへんわ!」
「勝手に転生させられて、勝手に戦わされて、恋愛もややこしい!」
「主人公待遇どころかブラック職場や!」
クロガミ、手を叩いて笑う。
「アッハッハッハッ!」
「ええツッコミや!」
「テンポええやん君!」
⸻
凌牙が指をさす。
「ていうか、お前や!」
「なんで関西弁やねん!」
会場しーん。
クロガミ、ゆっくり観客席を見る。
そして、もったいぶって口を開く。
「なんで関西弁かって?」
間。
「そら作者が好きやからや」
沈黙。
凌牙、天を仰ぐ。
「メタすなぁぁぁ!!」
⸻
クロガミ、さらに続ける。
「あと怖い敵キャラが関西弁やと印象残るやろ?」
「せやけどな」
「わしも最初は普通に喋ってん」
低い声で真似する。
「……我こそは世界の終焉なり」
凌牙、即答。
「ダサい」
「せやろ?」
「せやから変えたんや」
⸻
凌牙が腕を組む。
「その変なイントネーションも必要なんか?」
クロガミ、得意げにうなずく。
「必要や」
「普通の関西弁やと親しみやすいだけや」
「せやけど、ちょっとズレた発音にすることでな」
「“なんか不安になる感じ”出るやろ?」
凌牙、少し感心する。
「……理屈は分かる」
「でも腹立つ」
「それが狙いやァ~?」
語尾だけ妙に上がる。
凌牙、頭を抱える。
⸻
クロガミが突然肩を組んでくる。
「コンビ組まへん?」
「名前は“転生と黒幕”でどうや?」
「嫌や」
「即答!?」
「当たり前や!」
⸻
最後にクロガミが観客へ一礼する。
「ほな皆さん、次章でもよろしく頼んますぅ」
「笑いあり、涙あり、裏切りあり」
「そして作者の好みありや!」
凌牙も半ばやけくそで頭を下げる。
「頼むから普通に進めてくれ!」
クロガミ、高笑い。
「アーッハッハッハッハァ!」
「ほな、さいならァ~!」




