第二十四話:
正規教ザバスは滅びた。
正規教バチスもまた、自ら幕を下ろした。
信徒たちは散り、旗は燃え、祭壇は崩れた。
何もかも終わった――はずだった。
だが、人は肩書きを失っても生きていく。
教祖も、女王も、明日から飯を食わねばならない。
そして二人は、最も現実的な道を選んだ。
ギルド登録である。
第二十四章:ザバスの残り香
―消えた教祖、現れた冒険者―
王都近郊、冒険者ギルド。
朝から人で溢れていた。
依頼掲示板。
武具商人。
受付嬢。
酔っ払い。
昨日から寝ている者。
その列の最後尾に、妙に場違いな二人がいた。
白い上着を羽織り、無駄に姿勢のいい男。
マサユキ
そして隣には、妖艶な雰囲気を隠そうともせず腕を組む女。
ミレナ
「……なあ」
とマサユキ。
「教祖から冒険者って落差すごくない?」
「収入があるだけましよ」
とミレナ。
「寄進って偉大だったな……」
⸻
受付に呼ばれる。
若い職員が書類を差し出した。
「新規登録ですね。パーティー名をどうぞ」
マサユキが胸を張る。
「任せろ」
「こういうのはセンスが出る」
ミレナがため息をつく。
「不安しかない」
マサユキはペンを走らせた。
職員が読み上げる。
「……残り香の双針 ?」
「いいだろ」
「過去を忘れず、未来へ刺す」
「今考えたわね」
とミレナ。
「はい、登録完了です」
と職員。
「突っ込まないの!?」
⸻
こうして二人は、元教祖と元女王から、正式な冒険者となった。
* 前衛:マサユキ(口先)
* 後衛:ミレナ(実力)
* 評価:未知数
⸻
その頃、別室。
ギルドの高難度依頼一覧を眺める男がいた。
黒衣。
鋭い眼差し。
背には使い込まれた武器。
セラ
マサユキは扉越しにその気配を感じ、笑った。
「やっと会えるか」
ミレナが目を細める。
「前から気になってたけど、どうしてその男を知ってるの?」
⸻
マサユキは珍しく真面目な顔になった。
「……昔、召喚された時にな」
「神殿の古文書を読んだ」
「そこにこう書いてあった」
“東方より来る二人の異邦人。
一人は王になれず、
一人は神を殺す”
「俺は前者だと思った」
「でも違った」
ミレナが静かに問う。
「後者が……セラ?」
マサユキは頷く。
「たぶんな」
⸻
ミレナはさらに問う。
「じゃあ、ワダって誰なの?」
マサユキは少し黙り、苦笑した。
「……ワダは人の名じゃない」
「は?」
「古い文字の崩れだ」
「本当は――」
“和蛇”
「海を裂き、神を呑む蛇」
「それが召喚対象だった」
「じゃああなたは」
「完全に誤召喚」
ミレナは額を押さえた。
「最低の真実ね」
「でも結果オーライだろ?」
「どこが?」
⸻
その時、ギルド内が騒然となった。
受付嬢の声が響く。
「緊急依頼!」
「北方遺跡に神性魔獣出現!」
「高ランク冒険者、至急招集!」
セラが立ち上がる。
同時に、マサユキも手を挙げた。
「新人ですけど行けます!」
ミレナが襟首を掴む。
「死ぬ気?」
「初対面で印象残したい」
セラがゆっくり振り返る。
二人の視線が交わった。
「……お前、誰だ」
とセラ。
マサユキは満面の笑みで答える。
「元教祖です」
セラは無言で顔をしかめた。
物語は再び、本編へ繋がる。
今回は、
* ザバスとバチスの完全終焉
* マサユキ&ミレナの冒険者転向
* セラとの接点発生
* ワダの正体判明
を描きました。
ワダとは勇者の名ではなく、
古文書の誤読された言葉。
つまりマサユキは最初から勇者候補ですらなかった。
それでもここまで生き残り、
人を集め、時代を動かしてきた。
これはある意味、真の勇者より厄介です。
登場人物
セラ
本編主人公。神々と戦い続けてきた男。多くの悲しみを背負いながらも進み続ける。冷静で強く、人望も厚い。
マサユキ
元・正規教バチス教祖。異世界召喚された高校生だったが勇者ではなく誤召喚だった。現在は冒険者。話術と度胸、人を巻き込む才能に優れる。セラに強い興味を持つ。
ミレナ
毒蜂族の元女王。現在はマサユキの相棒として冒険者登録。毒術・回復術・指揮能力に優れた実力者。マサユキの暴走を止める役目も担う。
ダーマネッギ
旧王族の血を引く戦士。外伝終盤で帝国騎士団長となった。寡黙で誠実、苦労人。マサユキたちとは別行動中。
ワダ
勇者の名前と思われていた存在。しかし実際は古文書の誤読で、人名ではなかった。マサユキ誤召喚の原因。
残り香の双針
マサユキとミレナが結成した冒険者パーティー名。現在ギルド所属。
人物関係整理
セラ × マサユキ
英雄と元教祖。初対面だが、マサユキは以前からセラの存在を知っていた。
セラ × ミレナ
互いに実力を認める関係。まだ距離はあるが今後の信頼候補。
マサユキ × ミレナ
相棒同士。喧嘩も多いが息は合う。
マサユキ × ダーマネッギ
戦友。宗教騒動を共に生き延びた仲。
この章の位置づけ
外伝の主要人物であるマサユキとミレナが、本編のセラ側へ正式合流した転換点。




