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【電子書籍化】異世界もふもふ幼稚園(無認可)  作者: 翡翠
第六章 もふもふ幼稚園
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6

 その後、虹のかかる滝や一面の花畑を見て、最後に小高い丘へとやって来た。

 夕陽が丘と呼ばれるここは、その名の通りどこよりも美しい夕陽を見ることが出来る。

 今日一番の目的地であり、どうしてもこの景色を彼女に見せたかったのだ。

 ーーここは、今は亡き母との思い出の場所だったから。

 そんな俺にとって大切な場所が、彼女にとっても大切な思い出の場所になったらいい、と。

 二人で空いているベンチへと腰掛ける。

 

「うわぁ、キレイだねぇ……」


 思わずといった感じでリオナの口から溢れ出た言葉に、満足気な笑みが浮かぶ。喜んでもらえたようだ。

 少しの間、言葉もなくただジッとその景色を眺めるリオナの横顔を見つめる。

 少しだけ寂しげに見えるその姿に、俺が彼女の寂しさを埋められる存在になれたらと切に願う。

 今はまだ、リオナにとって俺は『頼りになる友人』といったところだろう。

 彼女の周りの奴らより一歩リードしている程度だ。

 出来るならば彼女の細い肩を抱きしめて、心まで温められる存在になりたい。

 恋というには重すぎて、愛というにはまだ早すぎるこの気持ちは、まだリオナに伝えるつもりはない。

 ようやくこの世界に慣れてきたばかりの彼女に伝えたところで、混乱させてしまうだけだろう。

 とはいえ、悪い虫はこれからも徹底的に排除していくつもりではいる。他の誰にもやるつもりはないからな。

 リオナから視線を外し、美しい夕陽を目に焼きつける。



 ーーどれくらいの時間、そうしていたのか。

 

「さて、冷える前にそろそろ帰るか」


 ポンとリオナの頭に手を乗せてからサッと立ち上がり、手を差し出すと、


「ありがとう」


 彼女はニッコリ笑顔で俺の手を取り立ち上がる。

 俺はゆっくりと馬車乗り場へと足を向けた。

 少し冷えた彼女の指先を温めるように、キュッと握りしめて。

 

◇◇◇


 家まで送ってくれたロイさんに玄関先で手を振り見送る。

 今日は本当に楽しかった。

 ファーマーズマーケットはハワイのそれと似ていて、一緒に行った今は亡き両親との思い出が蘇って少しだけ切なくなったけれど、それと同時に楽しかったあの日を思い出せたことが嬉しかった。

 はぐれないようにと繋がれた大きな手に、最初はとても緊張したけれど、いつの間にかそれが当たり前のようになっていて。

 それに……。

 ロイさんにつけてもらった髪留めを外し、掌に乗せたそれをまじまじと見る。


「似合うって、言われちゃった。へへ」


 胸の中がジワジワと温かいような、くすぐったいような気持ちになり、自然と口角が上がっていく。

 虹のかかる滝や花畑もキレイだったけれど、丘の上から見た夕陽は、きっとずっと、忘れられない記憶になると思った。

 あまりにも美しくて、涙が出そうになるのを必死に堪えた。

 ……あんなところでいきなり涙なんて流したら、ロイさんに迷惑掛けちゃうものね。

 何か、こっちの世界に来てから涙腺緩くなっちゃったのかな?

 初めて乗った馬車は揺れが結構酷くて、バランスをとろうと足に力を入れていたせいか若干筋肉が張っている気がする。


「明日は筋肉痛かなぁ」


 困ったなぁといった風に小さく呟きながらも、里緒菜の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 いきなり家の玄関扉が異世界へと繋がってしまって、どうしたらいいか分からない自分に優しく声を掛けて、親切に色々と教えてくれたり、今も気にかけてくれるリンデルさん。

 危機感のない私を叱りながらも、相談に乗ったり助けてくれるロイさん。

 そして私を慕ってくれるナギくんとリリちゃんとゲイルくんにゾイルくん。

 そんな可愛い子ども達を、信頼して私に預けてくれるフェンさん夫妻にヤンさん夫妻。

 優しい人達に囲まれて、私は幸せだ。

 ーーこれから先、困難な状況に直面するかもしれない。

 それでも、ここならきっと、私は笑っていられると思う。

 日本に帰れないのは寂しいけれど、これからはここが私の生きる場所。

 お父さん、お母さん、お墓参り行けないけどごめんね。

 そして、明美。

 とんでもなく心配掛けてると思うけど、私は異世界で幸せに生きてるよ。心配掛けてごめんね。どうか幸せになって。

 里緒菜はロイからもらったリボンを軽く撫でると、丁寧に引き出しにしまった。


◇◇◇


 トントンというノックの音が聞こえる。


「は〜い」


 元気よくそれに答えながら、パタパタとスリッパの音を立てながら玄関へと向かう。

 ドアノブに手を掛けて扉を押し開けると、ニコニコ顔の子ども達が目に飛び込んできた。

 里緒菜は満面の笑みを浮かべ、今日も元気に挨拶の言葉を口にする。


「おはよう!」

これにて一旦完結です。

今後里緒菜とロイの恋の行方や、幼稚園に新しい園児を迎えるのかなど、to be continuedといきたいところではありますが、続編を書くかはまだ未定です。


他作品出版などでなかなか時間が取れず、かなりの亀更新となっておりましたこと、お詫び申し上げます。

本作品で少しでもほっこり楽しんで頂けたなら幸いです。

最後までお読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m


翡翠

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜか電気、水道が通っていることの他に、冷蔵庫の中身が翌日には補充(元の量に)されているようなのですが。サイダーやボールペンのインク、千代紙もそうなのかな?そしてゴミ。野菜屑や空瓶空き…
[一言] 完結おめでとうございます!面白くって一気読みしました! いつまででも待てるので、いつか続編が見たいです…!
[一言] 祝完結! 思っていたよりもあっさり終わってしまった感があり是非とも続編希望します! ですが、あくまで作者様のペースでたまに小話を出してもらえるだけでも嬉しいです。 ちなみに他作品出版などで~…
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