回収物№973――声をしまう瓶【後編】
保管庫は今夜も変わらず静かだった。
ただ――。
いつもと雰囲気が違う。辺りを見回すと、どの棚もやけに空きがある。保管庫内の通路を歩く係員たちの姿も、いつもは回収物に隠れて見えないことが多いのに、奥の方まではっきりと見える。
「お疲れさま。保管はこっちの棚ね」
管理人に手招きをされ、俺は保管庫の奥へと進んだ。
「回収ナンバー、九七三。回収日時、三月十三日。保管庫ナンバー、十三のP四番」
処理番号を入力しながら、視線をあちこち移してみる。
やっぱり、どの棚も空きだらけだ。
昨日、搬入に来たときは、ほとんどの棚に、回収ボックスが隙間なく並んでいたのに。
「あの……」
聞いてみようかと、管理人に話しかけると、すぐに返事が返ってきた。
「今日のは、ボクじゃないよ」
「え?」
「ん?」
管理人はタブレットを小脇に抱え、首をかしげている。いや、意味も分からず否定されて、首を傾げたいのは俺の方だ。
「何の話ですか」
「彼女、現場に呼んだって、文句を言いたいんでしょ。でも今日のは、ボクじゃない」
以前、現場に舞日を寄越したことで、管理人に詰め寄ったことがあったのを思い出した。
「あ……いや、それは分かってるんで……そうじゃなく……」
「あ、そう? じゃあ、何かな」
「回収物、減っていませんか」
「あー。うん、そう。保管庫の容量が限界に近づいてきたから、処分に回したんだよ」
無限に保管ができる訳ではないから、ある程度の数になると、保管庫内の整理をするんだと言う。
処分……。
あんな物を、どんな風に処分するのか……。
捨てる、なんてことはないはずだ。俺は迷いながらも、それ以上、聞くのはやめた。
回収はもう終わっている。俺の仕事はここまでだ。
「ああ、そうだ。キミ――空木くんね――」
「――健康診断ですよね」
言われる前に自分から言った。今回は絶対に言われると思っていたから。
管理人は、いつもの笑顔で頷く。
「そう。玖瀬くんが手配しているはずだから、行ってね」
「分かりました」
そう答え、保管施設を後にした。
事務所に戻ると所長が待っていた。
俺の顔を見るなり、舞日が運ばれていった後の状況説明を始めた。
舞日も友人も、消耗してはいるものの、無事でいるという。経過観察のために、夜光物品管理が提携している病院に、一週間ほど入院するらしい。
「記憶への干渉が多少認められるが、日常生活に支障はないそうだ」
「……そうですか」
「それから――」
「――健康診断ですね」
ここでも先回りする。保管庫管理人が、所長が手配していると言っていたから。所長は表情を変えず、黙って頷いた。
「明日の午後、予約を入れてある」
「分かりました」
舞日が無事であることに安堵しつつも、俺は今日の所長のやり方には納得がいかず、あの時の言葉を思い返しては苛立ちを感じていた。
一緒にいて会話を続けていると、暴言を吐いてしまいそうだ。端末に今日の回収データを入力すると、短い挨拶だけをして帰り支度をする。
「面会は午後八時までだ」
「……え?」
「健康診断が終わってからでも、十分に時間はある」
所長は言いながら、俺を追い払うように手を振った。
とんでもなく非情な人だと思って腹が立っていたのに、怒りが一気に冷めた。黙ったまま頭を下げ、事務所を後にした。
バイクで社宅に戻る途中、いつか聞いたオルゴールの曲を思い出していた。
頭の中で繰り返される曲と共に、夜の校庭、教室の窓、揺れるカーテンが浮かんでくる。
切り取られたような場面。
見ていた記憶のはずなのに、思い出せないのは何故なのか。
――一体、思い返すたびに過る、この違和感はなんだろう。




