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赤い満月の雫  作者: 月原 悠
こいごころ

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10/11

ある日のこと。

房江が一人で三味線の稽古をしていた。


稽古部屋で三味線を強く弾いていた拍子に、糸が切れた。

切れた糸は廊下へとはじけ飛び、鋭い音を立てた。


哲夫は房江のことが気になり、稽古部屋へと来ていた。

二人は視線が合った。


房江は恥ずかしかった。

思わず哲夫に声をかけた。


「申し訳ありません。私の不注意で、稽古中に三味線の糸が切れてしまいました。そちらに飛んでいったようです。お怪我はございませんか」

「いえ、大丈夫です。それより、あなたの弾く三味線の音色に惹かれて、ここまでやってきました」

「恥ずかしゅうございます」

「いえ、恥ずかしいのは私の方です」

「どうしてでございますか?」

「それは言えません」

「申し訳ありません。失礼なことを申し上げてしまいまして」

「いえ、私の方こそ、申し訳ありません。さあ、稽古をお続けください」

「はい……」


それを一人の芸者が障子の隙間から見ていた。

キリという芸者で、一番の年長であり、経験も豊富であった。

哲夫に対して淡い恋心を抱いていた。


嫉妬心ゆえ、それ以来、キリは房江に辛く当たるようになった。

キリを姉のように慕っている芸者もいたため、房江に対する様々な虐めが少しずつ始まった。

さらに房江は接客も上達し、芸者の中でもひときわ客の心を引くようになっていった。

それが、なおさら他の芸者からの嫉妬をあおった。


些細な揉め事であっても、房江は一番年少であったため、結局は房江が叱責されていた。

そんな房江の姿を見るたびに、哲夫は愛おしさがこみあげた。

しかし、哲夫には家同士の理由による婚姻が待ち受けており、なすすべもなかった。

押し寄せてくる時の流れが、哲夫には歯がゆくてたまらなかった。


逃れられぬ定めは、まるで三味線の切れた糸のようであった。

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