表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い満月の雫  作者: 月原 悠
こいごころ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

ある日のことであった。

その日、置屋には女将でさえ快く思っていない下品な客が来ていた。

しかし、その客は富豪であり、置屋も世話になっていたため、出入りを断ることができなかった。


「女将、そういえば、房江という器量のいい娘がいるそうだな。今日はあれをよこしなさい」

「いえ、房江はまだ、芸者としては半人前でございます。もっと経験のある芸者をおつけしますので」

「いや、私は若い娘が好きなんだ。どうか、頼むよ」

「わかりました……」


そして、房江はその客の相手をすることになった。


「おお、お前は本当に器量がいいな。それに、いい体をしているじゃないか」

「いえ、私はまだ未熟者です。とても、お客様を十分にもてなすことは……」

「そういう、初々しいところがいいんだ。私と今日は夜を共にしないか」

「いえ、それはできません」

「何、私の言うことが聞けないのか」

「申し訳ありません」

「いいじゃないか、こっちに来い」

「いや、やめてください」


房江の声が座敷に大きく響いた。

それを聞きつけ、女将が慌てて駆け付けた。


「申し訳ありません。この娘はまだ未熟でございます。他の者をつけますので……。ほら、房江、あんたも謝りなさい」

「申し訳ありません……申し訳ありません……」


房江は必死に頭を下げた。


「房江、こういう時もあるのよ。その時は仕方がないの。わかっているでしょ」

「はい……」

「あんたの体の一つや二つくらい、なんてことないのよ。しばらく我慢すれば済むことなんだから」

「申し訳ありません……」


房江は辛くて置屋を飛び出した。

けれど、行くあてもなく、泣きながらまた戻ってくるしかなかった。


客の中には、平気で房江の体に触れてくる者もいた。

それがたまらなく辛かった。

他の芸者たちは、そうした客さえ器用にあしらっていた。

その姿を見るたび、房江は自分の未熟さを思い知った。

心にある僅かな灯が消えゆくようであった。


哲夫は、その姿を見るたびに不憫でならなかった。

助けてあげられぬ自分が情けなかった。


房江は上手く接客することができず、何度も部屋で涙を流した。

稽古の最中に、ふいに涙ぐむこともあった。

それでも健気に耐え、懸命に励む姿を、哲夫は幾度も目にした。

そしていつしか、哀れみは静かな恋心へと変わっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ