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‐女神の罪‐

 

 成人男性の身長よりも大きい二振りの鎌がまるで羽毛のように軽やかに跳ねる。

 その軌道上にある命を巻き込み、断末魔を伴奏に、飛び散る血しぶきを装飾に、刈り取られた魔獣たちをかわるがわるパートナーにして。

 まるで流麗なダンスのように群れている魔獣たちの生を終わらせていく。


「最凶の、人災・・・」


 今までに二度彼女とは相対した。それでも、まったく二つの名の意味を理解できていなかったと再認識する。

 弧を描く鎌の軌道は往路で数体の魔獣を切ったかと思えば、振り下ろされた対の鎌は地面にぶつかると先ほどの爆発を彷彿とさせる大きな土煙を上げる。

 これらの動作を、たった一人の可憐な少女が、なんの魔法の力も借りず()()()()で行っているというのだから。


「ゾっとしねえなぁ、、、。」

 援軍に追いついてくれた安堵も、目の前で繰り広げられる惨劇への恐怖も無くもはや笑うしかなかった。


「なにボーっとしてんすか!これでも疲れてんすよ!?お兄さんも手伝ってくれっす!」

「疲れてるやつの動きやないじゃねえだろ、。」

「疲れてるに決まってるじゃないすか!どんだけ走ったと思ってるんすか!」


 言われて気づいたが彼女を降ろして別れた場所からここまではどう軽く見積もっても100km以上はあったはずだ。

 まさか走ってきたとは文字通りあの距離を走ってきたのか??

「・・・人間離れし過ぎだろ。」

 要するに彼女は某テレビで24時間かけて走る100kmという距離をたかが2.3時間で走破したという事だ。


「タイヨウ殿ご無事ですか!?む?なぜここにリザリー様が!?」

「サプラ~イズ。てな。」

 相変わらず言葉の意味が伝わらないのでジルバークはキョトンとした顔をしているが今はふざけている場合ではないだろう。

 

 それにしても、この老騎士も普段仏頂面なわりには結構コロコロと表情が動く人だな。

「おれらがここに追いつけたのもあいつのおかげってわけよ。リザリー的にはおれらをダシにして戦場へ来れるしってさ。」

「なるほど。リザリー様らしいと言えばらしいですが。」

 話をしているとひときわ大きな音で鎌が地面へと打ち付けられた。


「二人して何サボってんすか!!ジル爺ちゃままでおしゃべりに夢中になっちゃって!!昔は僕がサボってたらすぐ怒ったくせに!!!」


 と駄々をこねる子供のようにリザリーが怒っていた。

 今の大きな音もその怒りを乗せて叩きつけたものだろう。万が一あんなものを地面じゃなくこちらにやられてしまえば間違いなく原形をとどめてはいられないだろうな・・・


「これは失礼を。では我々も働きますかな。」

 言い終わると同時に耳の横を弾丸のような速度の突きが通り抜けた。そしておれの背後に迫っていた魔獣が串刺しにされている。


「ははは、、、。こういうのよく見る~。」

 引き攣った笑顔をのおれにニコリと笑って剣を引き抜く。

 このジジイ絶対わざとだろ。


 文句を言った所で今の所この老騎士にも勝てないのでいつかやり返してやろうと決意し目の前の群れに突っ込んでいく。

 やはりリザリーの参戦の影響は大きく先ほどまでヴァルトに集中していた魔獣たちが明らかに目標が定まらなくなりヴァルト自身も戦いやすそうだ。

 さらには他の騎士たちの士気も上がり勢いが出て来た。これならばなんとかなりそうな気がしてきた。


 色々と思案しながら戦っていると視線を感じそちらに目をやる。

「・・・さっきあんだけ人に文句言っといて自分は休憩ですか??」


 視線の先には大きな石に腰を掛け、まるでピクニック中の子供のようにこの期に及んでまだ酒を飲んでいるリザリーの姿があった。

「水分補給っすよ。ちょっとくらい休憩したっていいっしょ?」

「お前の飲んでるそれに水分補給効果はねえよ。」

 確かに息の荷車で飲んでいたものよりは度数は低そうだが・・・


「・・・・・・・・・・」

 返答も反論もせずなぜかおれの方をリザリーはまだ見ている。

「なんっだよ!気い散るだろうが!!」

 何かを考えこむような仕草の後唐突に

「う~ん。お兄さんってそんなに強かったっすか??」

褒められた。


「ほんとになんなんだ??気持ち悪いぞ???」

「いや、強いって言ってもあれっすよ?虫が小動物になったくらい的な?僕からしたらどっちも変わんないっすけど。」

「例えが辛辣。」

「でもっすよ?実際虫が数日で小動物になったりしたらびっくりするっしょ??少なくとも今のお兄さんの殴打ならこないだみたいに本当に無防備で受けたら多少は痛そうっすもん。」


 正直なところやたらと体が動く自覚はあった。

 もちろん〈強化〉は相変わらず使っているし体調だってすこぶるいい。軽口を叩いてはいるが状況が状況なだけに集中もしている。

 だがそれにしても調子が()()()()


 まるで自分の物じゃないところから魔力を借りているように、稽古の時には感じられなかったほどの量が通っているのがよくわかる。そして、時間が経つにつれ量も増え、体になじんでいるのも感じられる。

 今の所副作用的なものは何も感じないのでありがたく使わせてもらっているが。


「ま、主人公の宿命ってやつ??窮地で秘められた力が解放された的な?」

「その程度の力じゃ秘められてても反応に困るっす。どうせならこう。がばーっ!とあたり一帯更地になるくらいのもん出してくださいよ。」

「反応が辛辣!無い物ねだりしない!うちはうち。よそはよそ!!」

 なにも解消してはいないがあらかた満足したのかリザリーも立ち上がり戦闘を再開する。


 しかして、長い長い夜はまだまだ始まったばかりであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ぶぁ~~~~疲れたっす~~~」

「そればっかりだな。聞き飽きたぞ。」

 リザリーの参戦でヴァルトも動きやすくなりすでに化け物じみていたのにさらにギアが上がったように思えた。


 結果としてはそのおかげで少しの間ではあるが後衛に下がり休憩をする時間が取れるようになった。


「大丈夫??」

「おう。今んところ問題無し!自分でもびっくりするくらい体がよく動く!」

 ほんの少しづつだが攻勢に出ることができており戦線は維持どころかいくらか前へ押し返すことができている。


 後衛で治療にいそしむシルヴィアやその補佐をしていたボルクス、屋敷のメイドさん達にもおれが来た時に比べて余裕が出来ている。

「だからって無茶しないでね?」

「わーってるって!できることをやる。要するに自分にできる範囲の事をちゃんと見極めてって話だ!」

 

 だが戦況はやはり芳しくないと言えるだろう。

 こちらには援軍が無いのに対し向こうはわんさかあふれ出てくる勢いに翳りは見られない。

 であればおれたちは普段通りに日が昇れば魔獣が戦闘をやめる事に賭けて朝まで防衛を続けることになるわけだが、どう頑張ってみても物量差ばかりはなかなかに覆しがたい。


 最悪のパターンとしては日が昇っても魔獣の群れが退かない場合、どう対処するかまで考えておかないと八方塞がりになりかねない。


「・・・ふぅ。」

「なーーにをシケた面してんすか??」

「ごぼふっ!!」

 隣で休むリザリーに景気づけの平手を背中にお見舞いされた。


「げぇほっ!お、おまえ力加減って言葉知ってる??」

「あはは!暗い顔してたってなんも良いこと無いっすよ?そんな感じの事自分でも言ってたっしょ?『笑うアホにはグーが来る』?あれ?なんか違うっすね。」

「なんで笑っただけで殴られんだよ。日常にバイオレンスが溢れ過ぎだろ。」


 とは言え隣で笑うバカの言う通りか。しっかりしなければいけないな。


「大体何考えてるかはわかるっすけど、最悪多少の被害は無視して僕が本気で暴れて全部ひき肉にしてやるっすよ!」

「まだ本気じゃねえのかよ・・・」

 被害を考えずに。それここのあたりががばーっと更地になりそうだなと思い苦笑いする。


「ほらそろそろ行くっすよ!またまじめなヴァルト君に怒られるっす!」

「そうだな。いくら少し余裕が出来たって言ったてこの物量差。おれなんかでも前線で役立たねえとな。」

 

 立ち上がりふと空を見上げる。本日も良いお日柄で、いつものように行儀よく並んだ金色の双眸がこちらを見降ろしている。


「やっと月が頂天に届く頃っすか~。いや~長い長い!」

「文句言うなよ。みんな思ってんだから。ほら、行くぞ。」

「タイヨウ?わたしに出来ることがあったらすぐに呼んでね?」

「大丈夫。なんとかなるよ!けど死にかけたら、そん時はよろしく!」

 振舞えるだけの明るさを振舞って戦線へと戻る。


 そうして前線へ戻ると状況は一変していた。

「なんだ・・・これ・・・」

 今まで我先にと言わんばかりに攻め込んできていた魔獣たちがこぞってお座りをし、一様に月を見上げていた。


 その様は、まるで天を仰ぎ祈りでも捧げているような、厳かささえ感じられる異様な光景だった。


「ヴァルト?」

「分からない。・・・こんな光景初めて見たよ。ジルは聞いたことあるかい?」

「私も初めて見ましたな。噂ですら聞いたこともありませぬ。」

「えーーっ。こんなの面白くないっすよ!」


 何とも不謹慎な反応だとは思ったがバトルジャンキーの彼女からすれば確かに不服だろう。

 なにせ空を見る魔物たちは、切りつける騎士もなんのその。死に絶えるその瞬間まで抵抗はおろか反応すらしないのだ。


「これは、好機と捉えてよろしいのでしょうか?」

「異様な光景ではあるが・・・我々には悠長に構えている余裕はない。何の意図かはわからないができうる限り数を減らしてしまおう。」

「賛成だな。どうせ何かの罠だとしてもおれらには余裕が無えんだ。長引けば長引くほど不利になる。」

「ぶーーっ!・・・まあ仕方無いっすね。あくまでも僕らのやってるのは防衛戦。被害が出ないようにするのが最優先すもんね。」


 ぶーたれるリザリーを除けば大方ガンガン行こうぜで方針がまとまった。

 その矢先に頭上から声が響いた。


「疲れているでしょう?ゆっくりしてください。良ければ少しお話しませんか?――紅茶でもいかがです?」

 虫唾が走る。不快感を振動に変換したようなものが鼓膜へ流れ込んできた。


「・・・エンダ、、!」

「こんばんは。お元気そうで何よりです。」

 デロスで逃がしてしまった元騎士、エンダ。彼はニコやかに人の頭上から挨拶をしてくる。

 ご丁寧にテーブルとイスまで宙に浮かせ、見たことのない女と二人、優雅にティータイムかよ。


「・・・どこの英国紳士だテメエは。いくら何でも空中ティータイムは世界初だろ。」

「ふふ。また何かおかしなことを言っているようですね。」

 イラつく爽やかさで語るエンダ。その対面には初めましてのけだるそうな顔の女が座っている。

 宙に浮いているので「座っている」という表現が正しいのかは分からないが。


「知り合いかい?」

「くそ野郎だよ、、!ボルクスと出会った街を襲わせたのも、おそらくあいつが首謀者だ。」

「なるほど。どういう手法かは分からないが要するに・・・敵という事だね。」

「これはこれは!まさかこんな場所で王国最強の騎士と会うことができるとは!一時とは言え騎士の末席に座った身としては、教説至極にございます。」

 依然ふわふわとしたまま深々と礼をするエンダ。


「いいから降りてこいよエンダ。フルボッコにしてボルクスの前で焼き土下座させてやる。」

「エンダ?ああ、そういえばそんな名前を語ってましたね私。」

「芝居がかってて気持ち悪いとは思ってたけど、いよいよ名前まで嘘かよ。」

「せっかく初めましての方々もいることですし改めてご挨拶を。私の名は――」


 言い終わるのを待たず二つの人影が跳び上がる。

「口上の途中にすまないが、あいにく外道相手に尽くす礼は持ち合わせていなくてね。」

「よくわかんないっすけど、的なら迷わず首ちょんぱっす。」


 瞬間移動を思わせる速度で10mはあろうかという場所へたどり着き、『死神』と『人災』が一度に降りかかる。


 そして、二人が放ったはずの剣戟は強固な壁に阻まれたようにその切っ先を不自然に空中で止めていた。

「おお、、!怖いですねえ。ありがとうございますミットライトさん。」

 エンダは言葉とは全く合致しない表情で「ミットライト」と呼ばれた目の前の女に話しかける。


「・・・あなたに死なれると私の仕事が増える・・・」

 なにが起きているかは分からないが、あの女は身じろぎ一つせず紅茶をすすりながらあの化け物二人の攻撃を止めたのだ。

「何がどうなってんのか知らないっすけどとりあえず降ろせっす。」


 さらにはこの間、二人が地上に()()()()()

 何らかの魔法で捕まっているのだろうが、身動きすら取れていない。


「ちょうどいいですね。自己紹介が終わるまでそのままでいてもらいましょう。では改めて、こんばんは。はびこり過ぎた人間の皆さん。私はゲダイエン・ヒルゲイザー。そして私の命の恩人の彼女はミットライト・ロットマン。あなた方風に言うなら”女神の子”にあたる者です。」


 まるで社交界の挨拶のように礼儀正しく、品位にあふれた口調でそう言った。


「そうそう。そうやってできるだけ働いてね・・・」

「お褒めに預かり光栄です。」

 ”女神の子”。予定通りではあるが、まさか二人も登場するとは。

「なるほど。貴様らが王国の敵か。それよりも・・・そろそろ主を解放していただこうか。」


 言い終わると同時にジルバークは自らの剣をミットライトに向けて投げつける。

 残念ながら投げた剣は避けられ空を走り去る。

「いくら何でもそれは怠けすぎ・・・動くのが面倒でもそれくらいは避けれる・・・」

 避けたミットライトの視界にはすでにジルバークの姿は無い。

「ちぇぇぁあ!」

 投げた剣を追い越し空中で掴むと背後から一閃。


 これも同じく見えない壁に阻まれるが気が逸れたのかようやくヴァルトとリザリーが解放され、後を追う様にジルバークも着地する。

「すっげ、、、。」

「魔法とはどれほどの術者であっても、二つ同時には使えぬものです。上級者になればなるほど魔法と魔法の継ぎ目がなだらかになり、いくつも使っているように見えるだけ。であれば、私に意識を向けさせ防御させればヴァルト様への魔法が途切れるは自明の理。」

「へぇ。そういうもんか。」


 新たな知識を頭にしまった所で気持ちを入れ替え視線を空中の二人へと戻す。

「世話をかけたねジルバーク。」

「助かったっすよー!」


「油断しましたねミットライトさん?」

「こっちも休憩だったからあっちも休憩だと思ったのに・・・あのおじいさんまじめなんだね・・・」

 空中の二人は無いごとも無かったかのようにティータイムを続けている。

「いい加減にしろよてめら、、、!」


「ふぅ・・・前にも言いましたが。私がここでこうしているのはあなた方への敬意と興味からです。私が本当にあなた達を殺すつもりならわざわざ真正面からだけ攻めさせたりすると思いますか?これはただの暇つぶしです。()()()私の番ではありませんから。」

 紅茶をすすりながら涼しげな顔で語るゲダイエン。


「なんとも傲慢な物言いだね。まるで私たちを生かしてやってるとでも言いたげだ。」

 こちらも涼し気な顔で返すヴァルト。だがこちらの表情にはほんの少しイラ立ちが含まれている。

「当り前でしょう?いくらあなたが王国最強であっても、街の住人やほかの騎士を庇いながら魔獣どもを相手にしていつまでもちますか?」


「ゴチャゴチャうるせえっすよ。そこまで言うなら試してみればいいんすよ。」

 明らかな怒気を放ちつつリザリーが前に出る。

「まったく。人間というのはどうしてこうまで傲慢なんでしょうね?あなた達の尺度程度で秀でたものが、我々と比べても秀でているとでも?」

「よーし決定っす。あんたはかけら一つ残さずに僕がすりつぶしてやるんで覚悟しとくっすよ。」


「安い挑発だ。それで私たちが乗ると思ったのかい?」

「乗ってくれると楽だったのに・・・自分から出向いて来てくれれば動かなくてよかったのに・・・」

「ではそのまま動かずにいてくれるとこちらも助かるね。次こそはその首、確実に落として見せよう。」

 それでもやはり無闇には跳び込めないのが辛い。


 悔しいがゲダイエンの言う通り魔獣たちに何の制御も無く屋敷へ攻撃を仕掛けられては街の人たちを守り切れない。

 それはヴァルトたちも理解している。故に今は様子見。歯痒いが、ほかに選択肢が無いのだ。

「で?今回は何の話だ?ちゃっちゃと済ませようぜ。子尾後しなくちゃなんねえことがいっぱいあるんだわ。」

「質問は一つだけですよ。あなた方はなぜ我々と戦おうと思うのです?」

「はぁ??」


 また訳の分からないことを。質問など聞かずとっとと始めてしまった方がイライラはしなくて済んだかもしれない・・・


「それは簡単だろう。君たちが”女神の子”だと言うのならば王国の敵だ。そして私は騎士だ。王国の敵であるならば、騎士の誇りにかけて討ち滅ぼすのみ。」


「なるほど。大体事情は察しました。思っていた以上に傲慢で、その上愚かとは。こんなものを()()()()と願ったあの人も相当に愚かしいですが・・・」

「君たち風情に愚かと蔑まれるとはね。何の話をしたいのかがよくわからなかったがもういいかな?」

「まあ、同じ話でも視点が変われば「悲劇」も「喜劇」に。「敵」も「味方」になるということですよ。」

 

 結局何の話がしたいのかは最後まで理解ができなかったがゲダイエンは一人納得したようでうんうん。と頷いていた。


「はい。ありがとうございます。では私はこのあたりで失礼しますね。あとはお任せしますねミットライトさん。」

「めんどくさいけど仕方ないね・・・今回は私の番だし・・・」

 そう言うとミットライトは地面へ着地する。


「逃げられるとお思いですかな?」

 ジルバークとリザリーも各々構えなおし臨戦態勢に入る。

「ええ思いますよ。でなければ顔なんて出しませんから。けど私、こう見えて”最弱”なんで援軍がいますけどね?」

 ゲダイエンの言葉と同時に大きな影が月明かりを覆う。


 何かの巨大な影。その場にいる全員がゲダイエンのさらに上。遥な空を見上げる。

「・・・おいおいおい。」

「あれは、、、ウシュムガルか、、?」

 何かで見たようなまさに「竜」としか形容のできない巨体が飛来する。


 立てば100mは下らないであろうその体躯はバシュムの倍はあろうかという大きさだ。

「ではごきげんよう皆さん。今日生き残れればまたお会いすることもあるかもしれませんね?あと、残った魔獣どもはお土産です。それではがんばってください。」

 竜が羽ばたきゲダイエンを背に乗せて空を駆けていく。


「待て!」

 ヴァルトも追いかけようとはするがさすがに高度が高すぎる。彼がどれだけ人外の強さだとしても人の身で追いかけられる高さにいないのだ。

 あれに追いつけるとすれば知っている範囲ではオリヴィエくらいのものだろう。

 追いつけたところで勝てるかは疑問だが・・・


「じゃあ始めようかな・・・けどその前に・・・」

 ミットライトは振り向き魔法を行使する。次の瞬間―――

「まずい!全隊、退避!今すぐその場を離れろー!!」


――ゴオーーっ・・・ドンっっ!!!


 彼女の手から無数に放たれた軽自動車並みの大きさの火球が前方に残っていた騎士と魔獣をもろとも焼き払った。


「貴様ぁあ!!」

 いまだ背を向けるミットライトに剣を振るうヴァルト。

「さっきもダメだったのになんでまた同じことするの?同じ失敗を二度なんて面倒じゃない?」

 放った剣閃は何にも阻まれはしないがそれが切った物は「空」であった。

 まさに、目にも止まらぬの一閃を躱されたヴァルトが体勢を立て直す前にミットライトの魔法は完成している。


―ドン!! 

 

 爆発音とともにミットライトの手元で発動した魔法によって弾き飛ばされるも空中で身をひるがえし着地するヴァルト。

「思ったより頑丈なんだ・・・けど、早く終わった方が楽だったよ・・・?」

「あの程度で死ぬと思われているとは心外だね。それより――なぜ自ら自分の手下であるはずの魔獣を焼き払った?」


「だって、面倒でしょ・・・あれが言うことを聞くのはゲダイエンだけだから・・・それに、あれを見れば諦めてくれるかと思って・・・」

 ぼしょぼしょと聞こえるか聞こえないかギリギリの声で話をするミットライト。

「なめんなよ。あれくらいで諦められるんならこんなとこわざわざ来ねえっつうんだよ!」


「そうだよね・・・君はそういう人間だった・・・」

「訳わかんねえこと言ってんなよ。初めましてだろうあが。おれの好きな食べものも知らねえで知った風な口利くんじゃねえよ。」

「・・・そういうことなんだ・・・ほんとまじめだね・・・だからゲダイエンは自己紹介なんてめんどくさいことしてたんだ・・・」


 どいつもこいつも会話能力0か?会話はキャッチボールなんだよバカ野郎。

「それにしても。要するにこっからがやっと本番って事だよな?」

「そうみたいっすね~。やっと面白くなってきたっす!」

「リザリー様、今は集中なされた方が良いかと。あれはそこらの相手ではございません。」


 九回2アウトのピンチヒッターどころか、まさかプレイボールすらかかっていなかったとは・・・

 あそこで代打に代わられたおれはスタメンから外れてんじゃねえか。


「はぁ。やる気満々みたいだね・・・じゃあ私もちゃんと自己紹介しとくね・・・」


「私はミットライト・ロットマン。女神の『怠惰』より生まれしモノ。そして―――汝らの、『憐憫』を断罪する者なり」


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