其は、悲しみ打ち砕く女神の怠惰
「はっ!なんだそりゃ?罪人が人を裁くって??」
「何かおかしなこと言った・・・?何と言われても、どうしようもない・・・それが私だから・・・」
女神の怠惰から生まれた?良く分からない話ではあるが・・・
「悪りいけどそういう設定はもう聞き飽きてんだわ。話しそれだけなら再開していいか?」
要するにあれだ。よくある七つの大罪になぞらえた敵設定。そいつらが親玉を復活させて親玉と一緒に人類を滅ぼす。的な話だろう??
その手の話は腐るほど見てきたのでチュートリアルなんてすっ飛ばしてしまって問題ない。
「放て!!」
「「大炎」」
思案していると後方に弾き飛ばされたヴァルトからの号令を合図に先の攻撃を逃れた騎士達から一斉に魔法による絨毯爆撃がお見舞いされる。
おれの世界で言う所の英語に近い発音による詠唱魔法。
奇襲は見事命中し火柱にミットライトは包まれた。
だが、自らを取り巻く火柱を蜘蛛の巣でも払う様にあっさりと掻き消す。
「なんだそりゃあ!」
「すさまじい「対魔力」ですな。ヴァルト様やリザリー様にも匹敵するやもしれません。」
対魔力。要するに魔法に対しての抵抗力らしく免疫が強く病気にかかりにくいように、防御するとかそれ以前に魔法の効果自体を打ち消す体質のようなものだとは聞いていたが・・・
「それにしたってあんなんありか!?」
「タイヨウの言う通りだねジル。私も自分の対魔力は王国一だと自負しているがあれは、次元が違う。」
「はぁ・・・人の話を最後まで聞かないから余分な体力使うんだよ・・・」
ため息とともに羽織ったローブのようなものに着いた土ぼこりを払いながら一歩こちらとへと距離を詰めてくる。
「私達にはそれぞれに本来女神が有していた権能を与えられているんだ・・・私の場合は『全知』・・・この場合の「知」というのは女神が作った知の結晶っである魔法の事だね・・・」
だるそうに何度もため息を挟みながら言葉を続けるミットライト。
「簡単に言うと・・・私はこの世界に存在するほぼすべての魔法を使えるし・・・逆に魔法は私には効かない・・・こう言ったら伝わるかな?」
「出たよチートキャラ、、、!けど、わざわざなんでそんなこと説明すんだ。」
「それが役目だからね・・・何か勘違いしているようだけど私たちの使命は君たち人類への”断罪”なんだよ・・・方法や考えはそれぞれ違うけど・・・せめて、自分たちは悪人であったことくらい知ってから死んでもらわないと・・・」
「自分自身の罪も知らず、気づかぬうちに死んでいくなんて・・・それこそ『怠惰』な行いだと思わないかいタイヨウ・キリュウ?」
「ご指名ありがとうございますってか。まだそこまでの悪さはしてねえと思うんだけどな?」
「はぁぁ・・・まあいいや。説明も面倒だし・・・」
言い終わると振り向きもせず、今日一の速度で後方へ回り込み振り払ったリザリーの鎌を何らかの魔法で防御する。
「なに言ってるか分かんねっすけど一個だけ同感っす!こっちもそろそろ長い話聞くのは面倒になって来てたところなんで!!」
次いで二撃、荒れ狂う暴風のように振るわれる鎌はそのすべてが見えない壁に阻まれすんでのところで届かない。
「おい!ロリっ子!何回やったって一緒だろうが!頭使えよ!」
「うるっせえっすよ!大概のもんは殴り続ければ壊れるんすよ!それは魔法でできたもんでも例外じゃねえっす!あとその呼び方なんか腹立つっす!!」
話しながら鎌を振る手は緩まず、絶え間なく暴風雨のように荒れ狂う。
「まったく、、。しかし今は彼女の言う通りかもしれないね。魔法が効かない以上物理的に倒す以外手は無いだろう。それに、どちらにしても私やリザリーは魔法は不得手でね。その領分でアレと払うのはいささか分が悪そうだ。」
「脳筋どもめ、、、!わかったよ!!やればいいんだろやれば!!」
一足先に走り出しヴァルトも剣を振るう。
「言ってみたはいいものの・・・あんな所に混ざれんのか、おれ、、、?」
ミットライトを中心とした二人の刃圏はまさに巨大なミキサー状態。正直混ざった瞬間にミンチにされそうな勢いだ。
「致し方ありますまい。それにあのお二人の攻撃をしのぎ続けていればそう遠くないうちに魔力も尽きるというもの。あれだけの連撃であれば他の魔法の使用も防げる。理には適っているかと。」
冷静に分析しジルバークが淡々と語っているが
「いや、ただのゴリ押しだろ、、、。特に小さい方・・・」
そんなことまで考えているようには見えないんだが。
「どっちにしてもおれは悪いけど様子見だな。あれには混ざれねえ、、、。」
「その方が賢明かと。私もここで多少の休憩をいただきますかな。」
悲しいかな、今のおれではまさに足手まとい。
おそらくは二人もまだ全力ではない。ご丁寧に説明をしてはくれていたが色々と謎な部分が多そうなのだ。
「・・・気になったんだけど。あいつはなんで魔法を使うのに詠唱もなにもしねえんだ?」
「お気づきでしたか。私も気になっておりました。おそらくはお二人が全力を出さず攻めあぐねておいでなのもそその辺りを危惧しての事かと。」
二人の連撃も止むこと無く続いているが、それ以上にミットライトの余裕が崩れない。
「うん・・・本当に、まじめに頑張ってきたんだね・・・すごいや・・・」
そう呟いた瞬間、ミットライトがいたはずの場所には無だけが残され鎌と剣はその無を切りつける。
「まさか、今のは!」
「間違いなさそうだね。先の私の剣を避けられた時にもまさかとは思っていたが。あれは間違いなく〈空間移動〉と呼ばれる空間転移の魔法。今は使えるもののいなくなった『失われた魔法』だね。」
ずいぶん前にシルヴィアから聞いた種類の魔法。治癒ではなく再生を扱えると彼女も言っていたが他にもあるんだな。
「所詮場所を移動するだけっすよ。見えない速度で移動するだけなら僕やヴァルト君だってできるじゃないすか。」
「厳密にはその認識は間違いだ。私たちのやるのはあくまでも早く動くだけ。見えなかろうとその移動は線になる。故にその線上では攻撃は当たるが」
「奴がしたのは点から点への移動だ。ある意味回避という行動に置いて言うのなら完璧と言えるかもしれないね。」
「思ってたよりも驚かないんだ・・・」
「いや、正直驚嘆している。君たち”女神の子”を侮っていたよ。けれどリザリーの言葉を借りるなら「所詮は移動」だ。さほど大きく何かが変わったとは思えないが?」
さすがは王国最強の騎士様たち。取り巻きで見ている宮廷騎士達ですらすでに置いてけぼりだというのに、「失われた魔法」とまで大層なものを「ただの移動」と言い切ったよ。
「ヴァルト様油断なされませんよう。あやつ、何かおかしいように感じます。」
「ああ私もだ。〈空間移動〉を使ったことよりも、――君はなんなんだ?」
突然、ヴァルトが自己紹介を求めた。
「どうした急に?大体のことは自分から言ってたじゃねえか?」
「そう言うことじゃないよタイヨウ。ミットライト・ロットマン。彼女から流れる魔力量に減退が見られない。いや、もはや魔力が流れているのが感知できない。」
おれにはイマイチ質問の意味が理解できない。
そもそも、魔力の流れを感じ取るなんて芸当は出来ないし。自分を流れているものを感じるので精一杯だ。
「魔力が無いってこと??けど生物は必ず持ってんだろ??」
「その通りだ。彼女も魔力は保有している。だが、魔法を使う際にそれが体から流れているのが感じ取れないんだ。」
ヴァルトの言葉にジルバークも頷いている。
「一流の魔術師であれば魔力の流れを隠蔽し発動の痕跡を隠せるものですが。それでも目の前に居れば、オリヴィエ様の魔法でも感知することはできるのです。ですがそれがまったく感知できない。」
「先の〈大炎〉発動の時もそうだった。あれだけの魔力量の魔法を使っておきながら魔力の流れを全く感じられず反応が遅れてしまったんだ。」
「そういうもんなのか・・・」
全くピンと来ないが二人の顔色を見ていれば状況があまりよろしくないことは感じ取れた。
「なんでもいいっすけど気い抜き過ぎじゃないっすか?一応戦闘中なんすけど―?」
いつも通りなのは現状一番前で構えているリザリーだけだ。
「おれと一緒でヤバさが理解できてない感じ?もしかしてお仲間??」
「一緒にされるのはさすがに腹立つっす!けど結局のところ僕に出来んのはこれで首をはねることだけっすし?それに――」
鎌をプラプラと持ち上げてニヤリと笑ったリザリー。
「どんなにヤバい奴でも首落とされて死なない奴なんていないっしょ?それでも生きてたらそん時にまじめな顔してやるっすよ。」
見た目は中学生か下手すれば小学生のロリなのになんて頼もしい・・・
「君たちは自分の知識が間違ってるとは思わないんだね・・・新しいこと、正しいことに目を向けない、向けられない・・・私が言うのもなんだけど、本当に怠惰な生き物だね・・・」
「心外だね。これでも生まれてから鍛錬や勉学などできる限りのことはしてきたつもりなんだが?」
「けれど「間違っている」と疑うことはしなかった・・・それは十分、できること全てを怠らずにやったとは言えないよね・・・?」
「禅問答でもしてえのか?悪いけどそーゆうのはよそで頼むわ。あいにくおれは煩悩まみれなんを自覚してるし、直すつもりもこれっぽっちも無え。」
何度目だと言うほどため息をつくミットライトだがその中でも目立って大きなため息をつく。
「めんどくさいなぁ・・・そっちがあんまりにも無知だと説明することが増えて面倒だ・・・」
「別に頼んでねえけど?」
「そうはいかないんだ・・・これも、役目だから・・・君たちが自分の犯した『罪』にも気づけないまま進歩できず淘汰されるのは・・・それじゃあ、あまりにもかわいそうだ・・・」
会話をしているのは目の前にいるおれたちのはずだ。
だと言うのにミットライトの放った言葉はおれたちではない、どこか遠くへ向けられたモノのように聞こえた。
「少し長くなるから、ちゃんと聞いてね・・・」
「まずい!」
言われてから気づいた。体が動かない。
何かに羽交い絞めにされているような感覚。
「君たちの疑問に答えるよ・・・なぜ魔力が流れていないのに魔法が発動するのか?だったよね・・・それはね。根本的に君たちが使っている魔法が間違えているからだよ・・・」
「魔法が、間違えてる?」
「そうはいっても君たちには理解が出来無いと思うけどね・・・君たちが『オド』と呼ぶそれは本来魔法に使用するためのものじゃない・・・生きるために使うものなんだ・・・」
「なら、なぜ使うことになったのか・・・それは君たちが魔法を使うにはそうせざるを得なかったからだ・・・『術式』や『詠唱』なんてものも魔法を扱いやすくするために作られたものだ・・・」
まるで昔ばなしでも語るように淡々と、ミットライトは話し続ける。
「これは君たちにも伝わっている話だね・・・なら本来は魔法とはどういうものなのか・・・本来魔法は自然にあふれる魔力、君たちで言う『マナ』のみで行使するモノだったんだ・・・」
「けれどそれを理解できない怠惰な人間たちの為に・・・誰でもある程度は使えるように改良された結果が『オド』を使うことであり、『術式』や『詠唱』と言った簡略化だったんだ・・・」
ここまで聞いていてある疑問が脳内に浮かび上がる。
何故改良したのかは理解できる。むろん「便利」だからだ。明らかに人の範疇を超えた力。それをある程度のラインまで平等に使えるようにすれば文明は飛躍的に進歩する。
特にこの世界の化学的な意味での進歩は明らかにおれのいた世界に比べて劣っている。正確には進歩させる必要も無かったのだろう。だって、エンジンなど無くともそれ以上の馬力を自分自身で生み出せるのなら車なんてデカい器は邪魔でしかないはずだ。
だから誰にも理解されなかった力を、誰にでも使えるように簡略化した。
じゃあ、それは、一体誰がやったんだ?
「君は相変わらず勘が良いみたいだね・・・けど、その答えを教えるのは私じゃないんだ・・・」
おれを見るミットライトの視線は、喜びや、称賛をほんの少し織り交ぜながらもどこか悲し気で憐れむような色々な感情が綯い交ぜになったようなものだった。
「それで、私の質問には答えてくれるのかな?それとも自力でこの拘束を剥がしてしまっても?」
「できるとは思えないけど・・・話を戻そうか・・・」
視線をおれから外すとミットライトはさらに言葉を続ける。
「君たちが私の魔法の起こりを感知できないのも無理はない・・・君たち『マナ』を感じ取るために『オド』を混ぜなければ感知できないんだから・・・『マナ』しか使っていない私の魔法は目で見なければ感知できない・・・まあ、感じることができたなら『詠唱』みたいな面倒なことしなくていいわけだしね・・・」
「マナしか使っていない。となると奴の魔法は・・・」
言葉を発したジルバーク、加えてヴァルト、リザリーまでもが眉間にしわを寄せた。
「ああ。理論上、彼女に魔力の減退は無い。」
「要するに?」
「海の水を掬ってかけるようなもんすよ・・・ほぼ無限って事っす。」
何ともまあ、初戦からド級のチートスペックのお披露目会となったことをようやく理解した。




