忘れぬ過去
「本当に…父さんなの?」
ソファの背に顔を半分隠しながらヴィルは警戒気味に聞く。その様子をチラリと一瞥しセヴィルは苦笑した。
「俺だよ、そう警戒するな。今顔を巻くから」
クローゼットから朱色の細長い布を取り出し頭からクルクルと巻いていった。最後に目だけ残し顔を全て覆ってしまうと見慣れた父が完成した。
「これでご満足かな?」
ふざける様に両手を広げ見せびらかす父。
そぉーっとソファから顔を出すとヴィルはようやくホッと胸をなで下ろした。
「いつもの父さんだ」
安堵しそう言った。
「そう言えば、お前に顔を見せるのは初めてだったな。どうりで分からなかったわけだ」
「別人すぎるよ、本当に分からなかった。ねぇ、何でいつも顔隠してるの?」
世間話をするようにサラリとヴィルは聞いてみた。でもその問は今までタイミングを伺い聞こうと思っていた父に対する最大の疑問だった。
セヴィルは息子に背を向けたまま黙々と着替え続けた。
「別に見られたくない傷がある訳でもないし、そんなに……悪い顔してる訳でもないのに……」
自分の口から父の顔立ちが良いと言うのも恥ずかしくて最後はゴニョゴニョと小さく呟いた。それを聞いたセヴィルは小さく笑うとソファに居座るヴィルへ顔を向けた。
「この布、どうして赤いと思う?」
唐突な質問、意図が分からない質問にヴィルは戸惑った。首を傾げ横に振る。
自身の頬にそっと触れながらセヴィルは答える。
「血――人の血に浸ったからだ」
「人の……血?」




