友達、できました
~時を戻し、場所が変わってルカとシャナ~
「うわぁ……すごい」
思わず感嘆の声をあげるシャナの視界に広がる光景――3m級の本棚がズラリと立ち並び、敷き詰められた大小古新様々な本達が整列し自分を迎えている。
「医学書、政治書、歴史書…本好きの貴方にはたまらないわね」
少し皮肉っぽく言ってみたシャナだったが、そんなことは全く聞こえず嬉しさで駆け回るルカにシャナは思わず笑みをこぼした。
「すっごーいっ!母様の本より何十倍の量なんだろう!ここにある本全部読んでたら多分私お婆ちゃんになってるわ」
「いや…貴女ならきっと1年で読み切る――」
急に押黙るシャナにルカは声を掛けようとするも、それをシャナは「しっ…」と止めた。何かに耳を澄ませている様だ。ルカもそれにならった。すると…
「………わかる?」
「……うん、地下ね」
地下に続く書籍保管室から何やら話し声が聞こえるのだ。
2人は忍び足で階段を降り本棚に隠れ、相手の顔を見る。
背の高い男が二人――1人はボロボロの服を着たハンサムな男。もう1人は清潔な身なりに藍色の髪をなびかせる知的な顔立ちの男。
「北語を話せる奴に会うのは初めてだ。どうやって学んだ?」
「何て事はない。書いては読み書いては読みの繰り返しだ。そうしていくうちに、段々と癖が分かってくるのさ」
「へぇ……diyutoyihouokuyre(俺の発音はどうだ?)」
突然流暢な北語を話すルークにテトは驚く。志願者の中で難易な北語を話せるのは自分だけだと思っていたからだ。ニヤリと笑うルークにテトもニヤリと笑い返した。
「Buyoti…hrihyucitokliputo,estiniyancuku(そうだな…悪くはないが、やはりまだ発音が固い)」
「Detice…boi,guihuyisquto(そうか…なら、お前に負けねぇように練習しなきゃな)」
「………」「……フフッ」
静寂しかない場所に男二人の笑い声が木霊した。
そこへ……
ドサドサドサッ……「!?」「!?誰だ!」
背後に積み上げられていた本が雪崩の様に散乱したのだ。犯人は厚く重い本の下敷になっている。テトとルークは仰向けに倒れるその顔をまじまじと観察した。
「痛ったー……ちょっと、人の顔見下げる前に助けなさいよ」
どこかで見た覚えのある女の顔をルークはやっと思い出した。
「お前は……あぁ、あの遅れてやって来た女か」
「遅れて来た女?」
テトはまだ分からないようだ。
「ほら、初行式が始まる寸前に来た女二人組がいただろ。黒髪と金髪の女がよ」
「――あぁ、そういえば周りの奴らが騒がしいと思ったよ。君達の仕業だったのか」
「仕業ってねぇ…私達は何もしてないわ。勝手にあっちがうるさく騒いでただけよ……っていうか、どうでもいいっ!早く助けて!」
その後、二人がかりでシャナに被さっていた本を取り除き、ようやくシャナは救出された。
埃まみれになった衣服を叩きながらシャナは二人に礼を言う。
「ふぅ…おかげで助かったわ。ありがと」
「人を覗き見するとは趣味が悪い。次からは声を掛けてくれ」
「何も覗こうとした訳じゃないの。ルカとここへ来て地下から話し声が聞こえたからつい……って、あれっ!?ルカは!?」
「ルカ?君以外にもいたのかい?」
テトの問には答えずシャナは血眼になって瓦礫と化した本の間を探し始めた。テトも急いでシャナに倣う。百科事典の様に分厚い本は一つ一つが重かった。額から流れる汗を拭いながらテトはシャナに聞く。
「君、名前は?」「………」
「出身はどこ?」「…………」
「志願数は何度目だい?」
「…んもうっ!そんなことルカを見つけた後でも聞けるでしょっ!とにかく、あの娘を早く見つけてっ!」
声を荒らげるシャナの必死な横顔にテトは一瞬驚くも、そんなシャナをどこか可愛く感じ小さく笑った。
「ルカ…ルカ…ルカ〜………キャッ!」
シャナが悲鳴をあげたのは、目の前の本の山から突如バラバラと大きな音を立てルークが現れたからだ。
「ふぅ、見つけたぜ」
「……ルカ、ルカっ!」
ルークの腕には気絶したルカがしっかりと抱えられていた。本の角が当たったのか額が擦れ、血が滲みでている。
ルカを長机の上に静かに寝かせるとルークは自分の上着をルカの身体に掛けた。
「ルカ………」
シャナ、テト、ルーク――3人が見守る中、ルカの瞼が少しずつ揺れ始めた。
「……ん………う……」
「ルカっ!」
薄ら目を開くと、そこには少し涙ぐむシャナの顔、それと知らない男二人が安堵した顔で自分を見つめている。
「ん……シャナ?どうして、泣いてるの?」
「ルカ!良かったー……」
何が何だか分からないルカはシャナにきつく抱き締められながら更に聞く。
「えっと……この人達は?」
「あなたと私を助けてくれた人達。えっと、名前は……」
最初に手を差し出したのはテトだった。
「テト・ブライアンだ。宜しく」
ルカは差し出された手をボンヤリ眺めそして握った。次に隣に立つ少し無愛想な顔の男に目を合わせた。
「あなたを本の中から救ってくれた人」
紹介する様にシャナはルカの耳元で囁いた。
「あ、ありがとう。この度は」
「…ああ。ま、無事で良かったな」
ぶっきらぼうな言い方だが、それには確かに気遣う優しさが含まれていた。




