悲しい事実
時を逆戻りさせセヴィルが顔を覆う秘密に迫ります。
「俺がまだ部隊長だった頃、西南部のある村で反乱が起きた。特別大きな村でもなかったから、鎮圧には一個部隊と俺と前軍隊長だけで向かったんだ」
「前軍隊長…あの悪名高いミザエル軍隊長?」
顔をしかめるヴィルにセヴィルも黙って顔をしかめた。
「思い出したくもない上司だ。あの男の統制は滅茶苦茶で、敵を作るタイプだったな。嫌われ者の極みだ」
「そんな人が反乱を沈められる?父さんだけで行く方が良かったはずだ」
「ああ……後悔してる。あの時、強いて行きたがるあの人を止めなかった自分が馬鹿に思える」
「……その反乱、"ヤダナシカの悲劇"の事?」
ヤダナシカの悲劇――軍界内で知らない者はいない史上最悪の事件だ。軍界の最大汚名とも言う。
反乱を起こした村人全員を軍界は皆殺しにしたのだ。一方的に…降伏し無抵抗だった村人達を。
「そう。ヤダナシカの村人を殺したのは俺の部隊だ」
ヴィルには信じられなかった。父が、これ程平和を重んじ国民から強く信頼を得ている父が――はるか昔、虐殺行為を行っていたのだ。
「…嘘だ。父さんがそんなことするはずない」
セヴィルはヴィルを見ない。
「これが事実。嘘も何もない」
「違う、アイツだ」
「………」
「ミザエル軍隊長…あの男が命令したんだ。父さんの部隊を使って、村人を皆殺しにした。そうだろ?」
セヴィルは何も答えなかった。それが肯定なのか否定なのか、ヴィルには分からなかった。
壁時計の針の音だけがカチコチと沈黙に鳴り響いた。
「――銃撃が止んで、俺は村人が集められた広場に走って行った。銃を構えた部隊が円になって中心を囲んでいた」
部下を押しのけたセヴィルが見たのは―
折り重なって倒れる死体の山だ。
目を見開いて死んでいる子供、涙を流し死んでいる母親、妻子を庇うように死んでいる男、恐怖に顔を歪めて死んでいる老人……
「あぁ〜あ、スッキリしたぜ。俺に刃向かおうとするからこうなるんだ」
「……な、ぜですか……」
「うん?」
分からないという顔をしているミザエルに、セヴィルは擦れた声で聞く。その目には力がない。
「反乱は、武力無しに話し合いで解決するとあなたは仰られていた。それなのに…約束が違います。私が自分の隊を出動させたのは軍隊長の護衛の為です。こんな、こんな事の為じゃない」
「うん、そう言えばそうだったな。でも状況が変わった。モスキート科学長が大量の死体が欲しいと言ってきてな。こいつらを殺せば丁度よかった。死体を大きさごとに分ける。部下にそう指示しろ」
悪びれる事もなく、反省もなく、約束を破った事を謝るでもなく、ミザエルはそう言い放つと馬に乗り幾人かの部下と共に帰って行った。
「………遺体を分けろ。大きさごとに」
「はっ」
全てが終わったのは日が沈み始めた頃だった。
血の様に赤い太陽だった。
誰も居なくなった村の広場に餌を貰いに来た子猫が一声鳴き飼い主の少女を探し始めた。




