父の顔
「よって、諸君らには任務に励み、軍事に積極的に参加することの義務が――」
テルト部隊長の"励の言葉"はウンザリする程長く、合否発表までの待機、寒波などの影響で"新兵"達は身を震わせながら疲れを見せていた。
それに気付いたヴィルは彼等に助け舟を出す事にした。
静粛な空気にヴィルの乾いた拍手の音が鳴り響いた。それに驚く新兵とテルトは一斉にヴィルを見た。
「テルト部隊長の素晴らしいお言葉、皆も充分噛み締めている事でしょう。ようするに、仕事に励み訓練を怠るな とそう言う事ですね」
「あ、ああ。まぁ……」
「なるほど、なるほど。いやぁ、実に素晴らしい演説でした。皆も拍手で応えよう、はい拍手ー!」
ヴィルの気遣いに察した新兵達は大きな拍手を拍子抜けしているテルトに送った。テルトは「え?え?」と戸惑いつつペコリとお辞儀すると演台から降り、ヴィルと交代した。共に並んで聞いていた他の部隊長達もヴィルに「よくやった」という視線を送った。それにヴィルもニヤリと笑い返した。
「という訳で、これから皆にはこの軍界の施設全てを自由に見学してもらう。言っておくが、ただの見学ではない。君達は何処の持ち場に配属されるか決まってはいないからな。よって、各部屋を充分に把握し頭に入れておくように。分かったな」
「はいっ!」
一斉に声を揃える新兵にヴィルは微笑んだ。
「では、解散!!」
新兵達はなだれ込む様に暖かな建物内に走って行った。後に残ったのは二人の青年、ルーク・ハインドとテト・ブライアンだけであった。
「あれじゃあ室内は混みまくってるな」
「あれでは室内は人混みだらけだな」
「……」「……」
同じ事を口にする二人、それに気付き互いを睨み合う二人。火花が散るかと思いきや……
「お前、名は?」
ルークは初めて自分から名前を聞いた。
「テト・ブライアン。君は?」
テトは初めて人に名前を聞き返した。
「ルーク・ハインド」
ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「そうか…宜しく、ルーク」
「ああ、宜しく」
本来、人間関係が大の苦手なはずなのに何故か互いの目を見た瞬間、二人は相通ずるものを感じていた。それが何なのか二人には分からなかった。
コンコンコン…「軍隊長?セヴィル軍隊長?…父さん?」
セヴィルの具合の悪さに気付いていたヴィルは初行式が終わると直ぐその足でセヴィルの部屋を訪れた。
ガチャ…「父さん?…」
ドアをゆっくりと開け中に入ると父親はソファでぐっすりと寝ていた。寝ている最中に覆面を取ったのだろう――素顔だ。
久方ぶりに見る父の素顔をヴィルは近くでまじまじと観察した。
鼻筋の通った屈強で男らしい精悍な顔つき、いつも覆っている割に肌の色は少し黒いが、整ったセヴィルの容姿には一番合っていた。
初めて父の素顔を見た時の事をヴィルは思い出した。
☆☆☆☆
その日は騎馬訓練で1日中野を駆け巡ったので服は汗まみれ、体は燃えるように暑かった。基地に戻るとヴィルはすぐさまシャワー室に向かった。訓練が終わった直後だったので人気は全くなかった。
「暑〜い、なんなんだ?今日の気温は。全く…うちの軍隊長様もその日その日の鍛練メニューをよく考えてほしいよ。自分はタフだからって僕までそうじゃないんだから」
ブツブツと上司の父に文句を言いながらシャワー室のドアノブに手を掛けた。
ガチャ…「うわっ!」
こちらが開ける前に向こうから勢いよく誰かが出てきたのでヴィルは驚いて後ろに下がった。
出て来たのは182センチの長身のヴィルより更に背の高い男だった。シャワーを浴びたばかりの上半身は締まりがよく余分な筋肉もついていない。
男の下腹部には弾痕の跡がうっすらとあった。
「………」「………」
互いに黙ったままじっと相手と目を合わせた。
ヴィルは相手の顔に見覚えがなく困った。こんな男が自分より階級下でいただろうか…いやそもそも男の放つオーラは自分を遥かに超える程堂々たるものだ。その時のヴィルは治安部副隊長。それより階級が上となると『部隊長』しかいない。
すかさず敬礼を行い、男に謝る。
「申し訳ありませんっ!部隊長殿の道を遮ってしまうご無礼お許しください!」
「……フフッ、アハハハハハッ―」
たまらず腹を抱え笑い出す男にヴィルは敬礼を続けたまま「は?」と聞いた。
男は可笑しさのあまり出てきた涙を拭いながら口を開いた。
「ヴィルお前、俺が分からないのか?」
そう言われ男の顔をじっくり見てみる。
確かに大きく切れ長の二重目には見覚えがある。……そう言えば、この低く重圧感ある声にも聞き覚えがある。
『もしかして……』
「……と、父さんっ!?」




