風邪引いたかも……
「これより合格者の番号を掲示する。番号を確認した者は速やかに中広場へ移動せよ」
進行係の隊長の言葉を合図に志願兵達はぞくぞくと掲示板に集まった。大きな紙を持った兵士が二人がかりで掲示板に貼り付けると志願兵は一斉に兵士二人を突き飛ばし我先にと番号を探し始めた。
番号を見つけるとその若者の顔はぱあっと輝いた。
目を見開き何度も何度も番号を確認する。嬉しすぎて泣く者もいた。
逆に落ちた者は、この世の終わりだ…と言いたげな顔で出口門へトボトボと歩いていく。何とも可哀想になる光景だった。ヴィルは毎年この瞬間を見るのが一番嫌だった。
「……やっぱり可哀想ですね。否の子達は…。僕何回見ても慣れませんよ。若いのに挫折する姿は見るに耐えない」
しみじみと言うヴィルにヒュートはハハハと笑った。
「何言ってんだ、ヴィル。若いから挫折出来るんだぜ。何度も何度も落ちたり壁にぶち当たったり…そうして一人前の大人になっていくんだよ」
その言葉には教訓が満ち満ちていた。ヴィルは自分の言った事が可笑しくて失笑した。
「――そっか、そうですよね。辛さを経験して経験してやっと強くなる……そうやって人は生きていくんですよね」
「そういうこと」
二人の会話を後ろで聞いていたセヴィルも息子の背中を見つつ僅かに笑った。
「……ん?あの二人……」
気になる黒マントの二人をセヴィルの目がとらえた。フードを被り後ろを向いている為顔は分からないが掲示板に殺到する若者達と違い、二人は掲示板に背を向け何やら話している。明らかに志願兵ではないように思えた。
「アフィリ、あの二人に何をしているのか聞いてこい。どうも怪しく感じる」
「分かりました」
傍にいた女兵士に耳元で命じると兵士は二人のところへ走っていった。
「動くなら今ね、父様達や皆が中広場へ移動を始めたら私達も行くわよ」
「分かった。建物に入ったら最初に何処へ行くの?」
「私は父様の書斎が見てみたい。ルカは?」
「私?私は…「そこの二人!」
突然キツイ口調で目の前に現れたのは小柄な赤髪の女兵士だった。二人を睨む目は鋭く冷たい。
「こんな所で何をしてるの?」
「え?いや、別に何も」
「皆掲示板で自分の番号を確認してるのよ。貴方達は?確認した?」
「…してません」
つい正直に行ってしまった。
「じゃあ早く掲示板に来なさい」
兵士に腕を掴まれ引っ張られようとした時……
「ご、ごめんなさい!兵士さん、本当の事言います…」
シャナはギュッと目を瞑った。
「実は、私さっきからお腹が痛くって…でもこのタイミングでトイレに行っていいのかどうかも分からなくて…その子に相談してたんです」
すると兵士は態度は一気に豹変した。
「まぁ、可哀想に。我慢しなくていいのよ。トイレならそこの本部棟にあるから、一緒に行きましょう。お友達も居た方がいいわね」
ルカはこっくり頷いた。
「ここがトイレよ。電気は左、手洗いは右。あとは二人で帰って来れるわね」
「はい、ありがとうございます」
女兵士は笑って頷くと「じゃ」と手を振って行ってしまった。
誰も居なくなった廊下で二人は背中合わせにヘナヘナと座り込んでしまった。
「あぁ〜……ドキドキした〜。本当に殺されるかと思った〜…」
「――プフッ、アハハハハハハッ!ハハハハッ!」
壊れたように笑い出すルカにシャナはびくっと驚いた。
「どしたの?ルカ」
「アハハハッ!だって、だって本当に恐かったんだもん。シャナが機転利かせてくれてなかったら私壁よじ登って逃げようとしてたんだよ。それ考えたら可笑しくなってきちゃってさ」
「壁を登る!?アハハハハハハッ!ルカ〜それ最高〜、本当に追い詰められたら二人でそうしましょ!」
「そうしよー!」
普段弱々しく泣き虫なルカは一度弾けると感情的に凄くハイになるのだ。それがどうやら今だったらしい。
「――そうか、その娘の具合は大丈夫なのか?」
「あの様子なら大丈夫だと思いますが…もう一度見てきましょうか?」
「いや、いい。使って悪かった。持ち場に戻ってくれ――テルト、テルトッ!」
軍界で一番の熱血男 テルト=ロス部隊長を呼んだ。
「はっ、お呼びですか。セヴィル軍隊長」
「急で悪いんだがこの後の"励の言葉"。俺の代わりにやっておいてくれないか。片付けなきゃならん書類がまだ残ってるんだ」
「分かりました!お任せください!」
「……声がでかい、テルト。じゃ、任せたぞ」
自室に戻る父をヴィルは心配げに見つめた。
「父さん、無理しちゃって…」
ガチャ…バタン…
「……ふぅー、マズイな。熱が上がったか」
倒れる様にソファに横になり額を触ってみる。確実に熱は上がっていた。
書類整理というのは嘘だった。
今朝から体の怠さと頭痛があったのだ。寒さのせいや日頃から溜まっていた疲れもあったのだろう。
徐々に身体も熱くなり合否発表までがセヴィルの限界だった。
「……ゴホ、ゴホゴホッ…」




