結愛~幸せに~
「じゃあ私達はそろそろ帰りましょ」
「えーもうですか?もっとセヴィルさんの恋バナ聞いておきたいのに」
ニヤニヤしているヒュートにティナーもニヤニヤで返す。
「2人のお邪魔になるわけにはいかないでしょ。後は頼むわ、シャイナ」
「あ、はい!」
「2人でゆっくり、ね」
意味ありげなティナーの言葉に訳も分からないままとりあえず頭を下げた。
「あ、そうだ!目覚ましたらアイツに伝えといて」
「?」
「明日は休め、医者の命令だ…ってね」
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
玄関のドアが閉まる音で目が覚めた。誰かが帰ったらしい。
重い身体を持ち上げ辺りを見渡す。そこが自分の部屋である事に気付くのに少し時間がかかった。
「……あれ?俺、仕事………」
記憶をゆっくり辿っていくと――
何かを深く考えている内に意識がふわりとしていき……目を覚ませば自分のベッドで寝ていたのだ。
「……………あ!」
思い出した。
急いで飛び起きると寝室のドアを勢いよく開けた。
バンッ!…ガンッ!…とドアと何かがぶつかる音が後方から聞こえるも、セヴィルには1人の事しか頭になかった。
「シャイナ…シャイナ」
その声には落ち着きがあるもののシャイナを探す動きには焦りと不安が表れていた。が……
「……ハァ……ハハッ、いる訳ねぇか」
誰の気配も感じない空間の真ん中で淋しく笑った。
予想はしていた事だ。なのに、自分の未練がましい行動に羞恥笑がこぼれる。
「馬鹿が…」
「痛〜……」
「!!?」
急な声に驚き振り返るとシャイナが額の赤痣を痛々しく摩っていた。どうやらドアとぶつかって鈍い音をさせていたのはシャイナだったらしい。その目は真っ直ぐセヴィルを睨んでいた。
「痛かった…」
ぼそりと呟くような低い声。
「悪い…。……帰ったんじゃなかったのか」
「ええ、帰るわ」
さらりと言って返され胸の穴が広がった気がした。
「…そっか」
「荷物を取りに…ね」
「………え?」
顔を上げると――
彼女は、シャイナは優しい笑みを浮かべながらセヴィルに近付くとセヴィルの手を優しく取り握った。
「セヴィル・スグナ。私を―貴方の妻にして下さい」
「……………」
「1人でずっと考えた。本当に…貴方を愛せるかなって。好きっていう気持ちだけでは一緒に居られないって。――でも、貴方から離れたくない。考えて、考えて、悩んで…最後にそう思ったの。一緒に笑ったり、泣いたり、たまには喧嘩してみたり」
そこまで言うとシャイナは「ふふっ」と笑った。
そして握っている大きな手をゆっくり動かすと自分の頬に這わせた。伝わる温もりを感じつつ目を瞑った。
「貴方がこの手で何をしてようと。何を背負っていようと――私は愛してる。セヴィルを愛してる」
「…………いいのか?」
少し震えた声がシャイナの耳に届く。同時に頬に触れさせている掌が愛しむように自分の輪郭をなぞりはじめた。
「本当に、俺でいいのか?」
「うん。だって私本当にセヴィルの事が…?!!」
「愛してる」
強引に引き寄せられ耳元で囁かれたその言葉に頬が熱く反応している。身体まで火照ってきたようだ。セヴィルから離れようと身をよじるがセヴィルがそうさせなかった。それどころか、押しのけようとすればする程その倍の力で身体を束縛してくる。
「セヴィル…ちょっと待って。苦しい…一度離して」
「嫌だ。離したらお前逃げるだろ」
「どこに逃げるって言うのよ!私は逃げ……」
chu…………
唇に押し当てられた突然のキスに抵抗していた力を一気に奪われた。時間も…呼吸も…全てが止まったかのような。不思議な感覚だった。
「本当に夫婦になった時は……覚悟しとけ。こんなんじゃ済まさねぇからな」
意地悪な笑みを浮かべながらそう言われ、ただコクンと素直に頷いた。聞いてみる。
「こんなんじゃ済まないって……他に何するの?」
「…今教えてほしいか?」
シャツのボタンに手を掛ける怪しげなセヴィルの様子に「…っ!」と気付き「今日はいいです」と丁寧に断った。セヴィルは終始笑っていた。
「じゃあ俺はシャワーを浴びてくる。明日も仕事だしな」
「あ、その事なんだけど。ティナーさんが『明日は安め』だって」
「?いつティナーに会ったんだ?」
どうやらセヴィルは何も覚えていないらしい。
「気を失った貴方をヒュートさんと2人がかりでここまで運んできてくれたのよ。ベッドにセヴィルを寝かせた後少しお話したわ。とっても面白くて良い人達ね。私達の出会いとか聞かれて……「話したのか!?」
悪ブレもなく「うん」とニッコリするシャイナにセヴィルは頭を抱え唸った。
にやけてこちらを見ているティナー、ぷぷぷと小さく噴き出すヒュートの顔が容易に想像できた。
(ムカつく奴等……とりあえずあの馬鹿には朝一でヤキを入れてやる…)
哀れヒュートの為拳に力を込め念じるセヴィル。
そんな男をよそにシャイナは昨夜借りていたパジャマを綺麗に折り畳んでいたのだが……
(……ちょっと待って。昨日確かあの赤い布、慌てて服の中に隠した…よね。なのに何でこの人が顔に巻いていたの?)
「………………」
「?どうした?」
「……………」
「…シャイナ?」
「………ああああっ!!」
「な!何だよ?!」
ぎょっと怯むセヴィルをギロリと睨むシャイナ。
その理由は………
「あなた…私が寝てる間に服の中に手を入れたわね!!見たでしょ!!」
赤面で怒鳴るシャイナにセヴィルは少し考え「…ああ、あの事か」と思い出した。
「俺の大事な物を隠したお前がいけないんだ。ん、まぁ……それなりに大きさがあって安心したよ。そんな棒みたいな身体してるから不安だったんだ。まな板だったら少しガッカリだったかもな」
涼しい顔でそう言うと「シャワー浴びてくる」と一言残しセヴィルは部屋を出て行った。
「………セヴィルの……馬鹿っーーー!!!!」
二人の出逢いは秋の終わり頃の事――
この2年後……セヴィルとシャイナの間に【White Child】ヴィルが誕生したのであった。




