結婚かぁ……
ドンッ!!……「!??」
突然のプロポーズにしどろもどろ黙っていると、突然大きな身体が目の前に迫ってきたのだ。気付けば、壁とセヴィルに挟まれる形で身動きが出来なくなっていた。
「……は、はは。なに?壁ドン?」
ひきつった笑顔のままセヴィルの顔を見上げる。それでもセヴィルは笑ってなどいない。真剣で、今まで見た事のない熱い眼差しを自分に送っているのだ。その唇は何かを伝えたそうだが、言葉として出てくる事はなかった。シャイナは息を呑んでセヴィルの視線を受け止める事しか出来なかった。
「……していいか?」
セヴィルが何か言った。しかし小さく呟いたのでシャイナには聞き取れなかった。
「え?するって、何を?…………まさか」
何かを予測し顔を赤らめるシャイナにセヴィルは軽く微笑んだ。長い指でシャイナの美しい白髪をかきあげるとその耳にかけた。現れたほっそりとした頬に手を当て、ゆっくりと自分の元へ引き寄せていく……………
互いの唇が優しく合わさろうとしたそのとき―――
「………あっ!!!!ちょっと待って!!」
「!?なんだよ、いきなり」
急にシャイナが大きく目を見開き、思い出したのだ。あと少しだったのに、と悔しい思いをしつつセヴィルは黙ってシャイナを離した。
「ジュノ!私のジュノは元気してるの?」
「は?………あ!そうだ、忘れてた。あれからずっと借りっぱなしだったな。心配するな、大事に預かってる」
「ほんとに?良かったー。病気でもしてないか、心配だったの。今どこにいるの?」
「この棟の隣だけど……」
「行きましょ!ジュノに会いたい!」
「あ、うん…………」
優しく、ではなく強引にでも引き寄せておけば良かった………と後悔するセヴィルであった。
「ブルルル…」
久々に会う主人にジュノは嬉しさの余り馬房でソワソワと体を揺らした。
「ジュノ!」
青鹿毛の艶々した胸に頭を擦り付けると太い首筋に大きく手を回した。ジュノもシャイナの白髪に鼻をすり寄せ、撫でろ、と甘える。
「久しぶりねー。いい子にしてた?ふふっ、やめて。くすぐったいでしょ。ん?」
執拗に甘えてくるジュノをなだめているとその体つきに変化を感じた。固い。以前はどちらかと言えばボヨボヨと脂肪で柔らかかった体格が今ではそのたるみが全くない。顔つきものんびりとした寝ぼけ眼ではない。引き締まり、気高く顔をピンと上に立てている。
「……セヴィル、ジュノ、何か変わった?」
不安げに聞くシャイナにセヴィルは得意気に言った。
「俺が鍛え直した。一からな」
鍛え直した、と聞くと過酷な絵図しか浮かんでこない。
「私のジュノに痛い事してないでしょうね!」
「怒るなよ、何もしてないって。ただ、あんまりにも太りすぎてたから当分は餌抜きにして水だけやった」
「な!餌抜き?!」
顔をわなわなと震わせだしたシャイナに気付きもせずセヴィルは悪気もなしに続ける。
「餌をやらない日はとにかく走らせた。疲れて歩けなくなるまで走らせて、止まったら鞭を入れて強制的に動かした。最初の2~3週間は馬房でへたってたぜ。だが、流石は競争用に創られただけある。スタミナがつくのも早かったし、見てみろよ!この脚!こいつの血筋はかなりの名馬だったんだろう。こんな見事な筋肉、俺も見たことないよ!………シャイナ?」
「……餌抜き……強制的……走らせる…………ふわぁー………」ドサッ………
「シャイナ!!おい!しっかりしろ!」
気絶したシャイナと慌てて起こそうと抱き抱えるセヴィルをジュノは可笑しいかのように鼻を鳴らして眺めていた。
「うー………ん?太陽?……」
小鳥の囀りで目を覚ますと部屋は陽の光で明るく、窓からは爽やかな風がそよそよと流れていた。ゆっくりと身を起こすとベッドから降りセヴィルを探した。
「セヴィルー、セヴィルー、いないのー?」
沢山ある部屋を探すもどうやら仕事に行ったらしい。まだ寝ている頭を抱えキッチンへと向かった。するとテーブルの上に小さなスープ皿とスプーンそれに白パンがあなたを待ってました、とでも言う様に準備されていた。コンロの鍋には美味しそうな匂い漂うスープが作られていた。
「わぁ、ポトフだ」
簡単ながらも美味しいセヴィルの手料理をもくもくと食しながら昨日の事を考えた。
「結婚かぁ……」




