勇気ある男
目覚めの悪い朝だ。
身体は石の様に重く、鏡を覗けば寝過ぎで人相の悪い女が睨みをきかせている。
「……ひどい顔」
むくみを取ろうと顔をナデナデしている内に、この前の事を思い出した。
あの夜セヴィルを離した後、振り返る事なく馬もセヴィルと一緒に置いたままさっさと山小屋へ帰ったのだ。セヴィルの弱気さに腹が立ち我慢出来ず言ってしまった。
小屋のドアを閉めると同時に「はぁ〜……」と後悔の念にかられた。せっかく会ったばかりの自分に胸の苦しい内を話してくれたのに、黙って聞いてあげるだけで良かったのに……、あろう事か胸倉を掴み冷たい言葉を浴びさせてしまった。
結局、セヴィルが山小屋へ戻って来る事はなかった。
「あの人、自殺とかしてないわよね。……うぅぅ、何であんな事言ってしまったの、私……」
――半年が過ぎた
以前と変わらず薬草を採り、加工し、抽出し、粉にして飲みやすい形に固めた。
1000包できた。
街の薬屋へ卸に行く。いつもなら馬の力を借りる為日帰りで戻ってこれるが、今回は一人だ。2,3日の旅支度も用意した。
背中には大事な薬を抱え、肩から斜めに掛けた鞄には衣類やお金を入れた。
「重…」
街に着いたのは昼近くになってからだった。
薬屋へ行く前に昼食を摂ることにした。上流階級の風が漂う大通りを横切り、中通りへ入った。少し年季の入った店々が立ち並び美味しい煙があちらこちらで立ち上っている。
モチモチとしたパンに味のついた様々な具材を挟んでいき最後に薄ーく切った長ーい生ハムにパンをくるんでいき上から甘いドレッシングを振りかける。
この国の名物・ロキシュロールだ。
「ん~……美味しいっ!」
パンに挟んだ玉ねぎスライスの甘さと生ハムの塩味が絶妙にマッチしている。山小屋では味わえない素晴らしい味だ。
久々のご馳走に舌づつみをうっていると店内の壁に貼られた新聞が目に入った。
「ミザエル……」
処刑直前のミザエルの目に光などない。カメラの正面を見据える顔には疲労と喪失が垣間見えている。この数秒後、彼は高い高い場所から落とされ死んだ。死の直前の人の顔をシャイナは初めて知った。
食い入るように記事を読んでいると通りがかった老人がシャイナに声を掛けた。
「お前さん、知らなかったのかい?」
「え?ええ…私いつもは山にいるから全く中心街の事を知らなくて。この人は犯罪者ですか?」
その質問に老人は驚く顔を見せた。
「本当に何も知らんのじゃのう。この男は軍界最高権力者ミザエル・カーザ。民の安全や治安を守るべく立場にいながら裏で人身売買や薬物を売り捌いたりしておった史上最悪の軍人じゃ。誘拐罪、大量殺戮罪、賄賂罪……他にもあったが、忘れてしまったわ」
「よくも今までバレなかったですね。それだけ動きが派手だとすぐ捕まりそうなのに」
「他の軍人もミザエルが怖くて手が出せんかった。見て見ぬふりをし続けていた。しかしじゃ。そこに現れたのが勇気ある男セヴィル・スグナ――ミザエルに立ち向かって勝利を収めた立派な軍人の鏡じゃよ」
その名を聞いて口の中のパンが勢いよく吹き出た。
「セヴィル??!」




