話す時
身体全体が暖かくなっていく感覚でセヴィルは目を覚ました。上着と毛布を手に取り、毛布を被って寝ていたはずの人物を探す。しかし、隣のベッドには誰もいない。
窓の外は夜更けに近いといえどまだ暗い。
ゆっくり立ち上がると暗い部屋の中を見渡し、外に出た。
ガチャ、ギギギィィ……バタン「――寒いな」
朝霜が立ち込める外はヒンヤリとしていて風が吹けばなお寒い。袖を通さず上着を被るように着るとシャイナを探した。
木小屋の周りは草だらけで鬱蒼としている。
「草刈りぐらいしねぇのか、汚い」
ブツブツと「汚い」「ここもだ…」「本当に掃除ひとつもしねぇのか」などと文句を言いつつ辺りを探索した。
「あら、おはよう」
「うぉっ!?」
隣にひょっこり現れたシャイナに驚き足を滑らせた。
ドテッ……「い、ててて」
「何やってるのよ、ほら」
シャイナは笑いながら手を差し出した。
華奢な手首を掴みセヴィルは立ち上がった。
「こんな夜更けに何してるんだ?」
「あまりにも寒かったから眠れなかったのよ。動いてた方が暖まるかなって」
確かに握った手は冷たかった。
「馬に乗って走ればいい。すぐに身体が熱くなる」
「無理よ」
「どうして?」
白髪を手でとかしながらシャイナは答える。
「だって私、乗れないもの」
「は?だって、いるじゃないか。馬」
セヴィルが指差す方向には青鹿毛の馬が立ったまま俯き寝ている。
「ジュノは"運搬用"で使ってるの。出来た薬を街へ運ぶのにね。手綱は引くけど乗ったことは一度もないわ」
枝毛を探しながらシャイナは興味なさげに答えた。
すると一瞬黙っていたセヴィルは馬の方へスタスタと歩いていくと綱を解き馬を引き出した。そして棚から鞍と手網を取ると馬に装着し始めた。
「何してるの?」
手入れしていた髪を離しセヴィルの行動を不思議そうに見ていた。馬の締まった太腿をパンパンと叩くとセヴィルは身軽に跨った。
「どこで買ったのか知らんが、この馬は競走馬だ。運搬用で使うのは勿体無いよ」
「なんでそんなこと分かるの?」
「筋肉の付き方を見りゃすぐに分かるさ。ほら、この足。上に登っていくような筋肉をしてるだろ。農耕馬や運搬馬の筋肉は大体下に下がってるんだ。走る事がないからな」
触ってみろよ、と言われ恐る恐る撫でてみるがシャイナの手が何か違いを感じ取ることはなかった。
正直に、首を傾げ横に振った。
ハハハ、とセヴィルに笑われた。何だか馬鹿にされた様で腹が立った。皮肉気に言ってみる。
「そーよねー。軍界の部隊長様だもの。そのくらい知ってて当然よねー」
この言葉はてきめんに効果があった。
笑っていたセヴィルの顔が固まる。
「どうしてそれを……」
手つきで胸ポケットを指すシャイナにセヴィルはハッと気付く。
「手帳か」
まだ寝ぼけ眼のジュノの頭をシャイナは優しく撫でてやった。
「別に盗み見しようとした訳じゃないの。毛布を被せる時に上着から落ちてきたから……で、どうして貴方みたいな人がこんな森の中をうろついているの?」
「……………」
結局、この女性にも話さなければならないようだ。
「……ハハッ、まいったな。君だけには知られずに別れるつもりだったのに」
「―――話して。聞くから」
シャイナは囁くように言った。
その言葉にセヴィルは否定も肯定もするでなく黙って馬の鬣を撫で続けるのであった。




