酒好きの女
朦朧とした世界――全てが歪んで見える。
気持ちわるい……吐く。
歪んだ視界が気持ち悪いのか、身体に残った酒が気持ち悪いのか……セヴィルには分からなかった。
どうでもよかった。このまま泥まみれの服を着たまま廃人になりさがってもいい。その方が楽になれる。
楽になりたいのだ、今すぐ。
「ゲホッ……ウッ……」
嗚咽が残る中霞み切った目の先には黒い森林が広がっていた。どうやら郊外まで漂い出てきてしまったらしい。振り返れば明々(あかあか)と光を賑わせる中心街があった。セヴィルの住まいもその中にある。
しかし彼が求めるのはそこにはなかった。
再び視線を前にするとふらつく足取りで何かに吸い込まれる様に森の中へと入っていった。
ガサッガサッガサッガサッガサッ……
落ち葉を踏み、立ち並ぶ木に寄りかかりながら奥へ奥へと入っていった。
後ろを振り向く事無く道しるべも残さないまま……
『俺、死にたいのか?――何でこんな薄気味悪い所を歩いているんだ?俺は……一体、どこへ向かっている』
考えが定まらない思考とは逆にセヴィルの足はまるで目的地を知っている様にグングンと進んで行く。
「ハァ、ハァ、ハァ……«ガサッ»……?」
右の方角から草を掻き分ける音がする。
ガサッ…ガサッガサッ
「…獣か?」
ホルダーの銃に手を掛ける。引鉄をカチリと引き、襲ってきたらすぐに抜いて撃てるように――
ガサッガサッガサッガサッガサッ……
近付いてきた。木の影に隠れ、【それ】を確かめる。
ガサリ……「…!?――女?」
草の茂みから出てきたのは茶色のフードを被り暖かそうなマントを足まで垂らし肩から長い紐鞄を提げた若い女だ。
女はセヴィルに気付かぬまま少し広くなった場所でフードを取った。
雲からひょっこり出てきた月が女の全姿をランプの様に照らした。
「あ…」
その美姿にセヴィルは思わず声を漏らした。
キラキラと光る雪の様な白髪、髪の色に負けない白肌は透き通るようだ。薄桃色の唇は微笑み、アイスブルーの瞳は氷の結晶を連想させた。
女の容姿に見惚れていると……
「ふぅ、ちょっと休憩」
女はその場に座り込むと鞄から何かを取り出した。
酒瓶だ。それも度数が高いウォッカだ。
それをラッパ飲みすると女は「プハァ!」と旨そうに声を出す。その光景をセヴィルは唖然と眺め何かの感情が冷めた。
美麗な容姿とはあまりにも裏腹すぎる行動だ。
「なんだ、こいつは」
呆れるセヴィルなど知りもしない女は「よしっ!」と立ち上がると口から滴る酒を袖で拭き鞄に瓶をしまった。
そしてフードを被り直すと楽しげな表情を浮かべ花唄を歌いながら暗い茂みへと消えた。




