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千の蕾  作者: 峯岸 昴
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第5話

 あてもなく夜の街を歩く。駅前のスクランブル交差点で立ち止まった。 ポケットの中でスマートフォンが震え続ける。画面には『星野美香』の文字。


 応答ボタンは押せなかった。


 やがて着信が途切れ、メッセージが届く。


『ちゃんと話そう。お願い。』


 文字を打っては消し、結局何も送れずにスマートフォンをしまった。

 気づけば、よく一人で訪れる川沿いの遊歩道まで来ていた。


「これで……よかったんだ」


 漆黒の川面に向かってつぶやく。そう思い込まなければ、自分が壊れてしまいそうだった。


 アパートに戻り、ベッドの端に腰を下ろす。

 机の上には、翼を歪ませた木彫りの鳥が転がっていた。


 スマートフォンの電源を長押しして切る。ブツンと画面が漆黒に沈んだ。


「これでいい……」


 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、味わうこともなく立て続けに二本空ける。

 棚の奥にあった、彼女に止められていた煙草にも火をつけた。

 久しぶりの煙はひどく苦かった。


 部屋の明かりを落とし、ベッドに身体を投げ出す。


「隼人!」公園で泣く美香の声が耳に残っている。


 意識が遠のく中、誰に届くわけでもない言葉が口から漏れた。


「……幸せに、なってくれ」


 その掠れたつぶやきを最後に、隼人は深い眠りへと落ちていった。



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